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2023年6月9日更新

建物は直方体 天井懐省き階高抑える|合理性を追求し、安く美しく[家づくり 発想変えるヒント]③

文・写真/福村俊治

建物は直方体 天井懐省き階高抑える
合理性を追求し、安く美しく


住宅は合理的に造ることが基本である。合理的とは、安い「経済性」、使い勝手の良い「機能性」、長持ちする「耐久性」が要求される。そして、建物が美しいことも大切である。ローンで大金をかけて造った住宅が20~30年で使い勝手が悪くなり、老朽化しては困る。鉄筋コンクリートの建物の法定耐用年数は47年とされている。耐用年数とは実際の寿命でなく法律上の減価償却期間で、47年すると資産としてはゼロとなる。参考までに木造は22年である。木造の法隆寺は千数百年、台風や地震にも耐えている。これは建築材料や施工やその後の維持管理がしっかりしているためだ。

建物も「故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る」ことが大切であるが、残念ながら沖縄戦で古いものが残っていない。98年前に建設された旧大宜味村役場もあるが、私が参考にするのは米軍基地内の建物群だ。基地の建物は合理的そのもので、安く・使い勝手が良く・長持ちすることが最優先される。事実70数年前の建物が今でも使われている。フェンス越しに見える米軍住宅の多くは個性もない平屋で低く見えるが、中に入ると各部屋は天井が高く広い。ブロック壁に薄い屋根スラブの載ったシンプルな構造でペンキ仕上げだ。ただ、沖縄特有の強い日差しと湿気対策が不十分なため、空調に頼らざるを得ない。

米軍住宅の室内はシンプルそのもの。各部屋は広く天井高3mで土足仕様。広い納戸や家事スペースを完備
 
西普天間地区で返還された、今はなき米軍住宅群。撮影当時で建設後70数年経(た)つ。
屋根スラブは厚さ8cm程度でシングル配筋

 

間取りと構造に工夫
 
小住宅でも合理性を追求した「構造デザイン」を目指せば、コストは下がり強固で美しい建物が可能だ。私たちがよくやるのは、オープンな間取りでシンプルな直方体の本体構造にする方法。外部には装飾的な部品やスペースを設けず、内部で廊下や天井懐などの無駄なスペースをなくす。

最も効果があるのが階高を低く抑えることだ。普通の2階建住宅で階高を10センチ低くすれば数十万円安くなる。つまり天井懐をなくして40~50センチ階高を下げれば、200~300万円は安くなる。ただスラブを支える梁(はり)を一部なくすなどの間取りと構造の工夫が必要である。この安くなった分で吹き抜けや半戸外スペースを作るのである。

かつて、建物高さ10メートルの制限のある所で、4階建てのメゾネットのアパートを建てたこともある。いずれにしても設計や構造の工夫が大切である。

 
下写真の家の中央にある半戸外のパティオ。広さ38平方メートル、天井高4.5m
 
93年竣工の浦添沢岻に立つ住宅。全体は直方体でパティオの凹みがある。
階高は2.35m。リビングには吹き抜けあり

 
10mの高さ制限地区・浦添大平にあったアパートは上下に部屋があるメゾネットの4階建で、階高は2.3m。
下階にはLDKとバスルーム、上階に寝室2室と納戸

上写真のメゾネット住戸のLDKと階段。天井高2.1mだが吹き抜けがあるため狭さと低さは感じさせない
 
 
 
 
94年竣工の読谷長浜の坂道沿いに立つアパートは各棟4階建てで、階高は2.2m。地階には温水プールがある。現在はプチホテル

2階のLDK。上部に見える3階の書斎床は無梁スラブ。床は大理石敷き、壁・天井はペンキ仕上げ
 
 
[沖縄・建築探訪PartⅡ]福村俊治
ふくむら・しゅんじ 1953年滋賀県生まれ。関西大学建築学科大学院修了後、原広司+アトリエファイ建築研究所に勤務。1990年空間計画VOYAGER、1997年teamDREAM設立。沖縄県平和祈念資料館、沖縄県総合福祉センター、那覇市役所銘苅庁舎のほか、個人住宅などを手掛ける

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1953号・2023年6月9日紙面から掲載

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