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2023年7月14日更新

建築費もランニングコストも節約|雨端こそ沖縄建築のカギ[家づくり 発想変えるヒント]④

文・写真/福村俊治

建築費もランニングコストも節約
雨端こそ沖縄建築のカギ


かつて日本各地に「民家」と呼ばれる住宅があった。その地域の気候風土に合わせて、先人たちが暮らしの知恵を生かして造ってきた住宅である。四季のはっきりした日本本土とは異なり、島国沖縄は亜熱帯気候で年中温暖、雨が多く湿度が高い。しかも年に何度か台風の暴風雨がある。夏の日差しは並ではないが、いつも心地よい海風が吹く。また、地縁血縁のつながりが深い社会でもある。

北中城村にある伝統的木造住宅「中村家住宅」は、赤瓦屋根ぶきで石垣や防風林に囲まれた中庭のある開放的な木造住宅である。戸外と室内の間にある幅広の縁側・雨端(アマハジ)は、強い日差しや雨を遮りながら心地よい自然の風を室内に導くための木陰のような快適空間だ。そしてそこは「人が集まる場」でもあった。私はこの先人たちが考えた雨端空間こそが沖縄建築のポイントだと考える。

 
北中城村にある中村家住宅。建物と石垣に囲まれた中庭のある形は現代の「コートハウス」で、そこに雨端空間が付随している
 
室内と中庭が雨端を介してつながっている。心地よい風が流れ昼寝をしたくなる雨端は、沖縄の忘れてはいけない大切な空間

開かれた住宅を
 
さて時代が変わり、建築技術や資材も進歩した。台風に耐え火事に強い鉄筋コンクリート住宅が普及し、住宅内部の家電や機械設備も充実した。しかし昨今は土地や建物の価格、そしてランニングコストも値上がりし、ひと昔前のように広い庭付きの戸建住宅を手に入れ維持できる時代ではなくなりつつある。

小さな敷地に駐車場と家を詰め込み、庭の緑も街とのつながりもない本土仕様の住宅が増えている。これらの住宅には「民家の教え」が受け継がれているのだろうか。耐久性や風通し、そして住宅の社会性などはどうだろうか。

温暖な沖縄の気候を生かした豊かな暮らしができるように、住宅内部はコンパクトに作り、半戸外スペースをもっと積極的に採用をすべきだ。半戸外スペースは室内に比べ安く造れるし、そこから心地よい風や光を取り入れれば、ランニングコストも節約できる。家族や友人との楽しいひと時を過ごせる場にもなる。

民家の知恵を知らない若い建築士は、本土基準にのっとって高気密高断熱の住宅を造ろうとしている、いや造らされようとしている。閉じた箱の中で年中空調をかけ、照明をつけるインテリアに凝った住宅こそが省エネであり、時代の先端をゆく住宅づくりだと錯覚している。沖縄は開かれた住宅こそが似合う。

 
モダンな鉄筋コンクリートの母屋と、懐かしい赤瓦ぶきの木造離れに囲まれた半戸外スペース。
玄関・居間・遊び場を兼ねている
上写真の住宅の外観。新旧の建物をバックに咲く花が、道行く人の目も楽しませる。家主の優しい心遣いを感じさせる

 
コの字型に作った住宅の中央にある半戸外スペース。
宴会・遊び場・家族の団らんなど多機能に使え、時には洗濯物干し場にもなる
上の住宅の中庭空間。周囲の個室は中庭に面して大きなガラス窓が設けられており、やわらかな光や涼風が入ってくる
 
建築家・安藤忠雄設計の「住吉の長屋」。
「都市ゲリラ住居」として窓もないコンクリート打ち放しの住宅。閉じた住宅だが中庭がある
 
 
 
 
[沖縄・建築探訪PartⅡ]福村俊治
ふくむら・しゅんじ 1953年滋賀県生まれ。関西大学建築学科大学院修了後、原広司+アトリエファイ建築研究所に勤務。1990年空間計画VOYAGER、1997年teamDREAM設立。沖縄県平和祈念資料館、沖縄県総合福祉センター、那覇市役所銘苅庁舎のほか、個人住宅などを手掛ける

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1958号・2023年7月14日紙面から掲載

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