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2025年7月18日更新

地盤からのメッセージ|インスペクションで解明 住まいのミステリー 第28話「ブロック塀のヒビの理由は?」

文・写真・イラスト 下地鉄郎(インスペクション沖縄メンバー、既存住宅状況調査技術者)


住宅の劣化状態などを調査して報告する「インスペクション(建物診断)」。今回は、ブロック塀に縦1本まっすぐにできたヒビの原因究明の依頼。インスペクション沖縄の下地鉄郎さんが調べていく。

   第28話「ブロック塀のヒビの理由は?」
地盤からのメッセージ

 依頼内容 
傾斜地に建つ築10年の2階建て二世帯住宅。隣地との境には擁壁があり、その擁壁の上に建つブロック塀に「まっすぐ縦1本のヒビがあり、原因を探ってほしい」というインスペクションの依頼。



ブロック塀の目地に沿って縦一本のひびが確認できた


  ずかずつ「圧密沈下」

「庭の塀にヒビがあるんです。まっすぐ縦に一本だけ。大きい地震もなかったし、水はけのいい庭のはずなのに、ちょっと気になって…」との相談。傾斜地に建つ築10年の2階建て二世帯住宅。その広い庭にあるブロック塀のヒビの原因究明を主としたインスペクションの依頼だった。

先に写真や図面資料を確認すると、その住宅が建つ土地は傾斜地を造成しており、隣地との間には擁壁が設けられている。話に聞いていたヒビのあるブロック塀はその擁壁の上に積み上げられている。ヒビはブロックの継ぎ目に沿って細く走る程度で、今にも崩れそうという印象は全くなかった。

現地でブロック塀を確認。足元をよく見ると、土がわずかに沈下している痕跡があった。周囲の土の沈下状況などを調査した結果、その主な原因が判明した。

「圧密沈下(あつみつちんか)」と呼ばれる、地盤がゆっくり沈む現象である。
 
 「圧密沈下」のイメージ図 


  ロにするのは不可能

地中には水分が多く含まれており、雨が降ったり、長年にわたって植物の手入れや散水が続いたりすると、土の中の水分バランスが変化する。それによって土が締まり、少しずつ沈んでいく。このわずかな沈下をゼロにすることは事実上不可能ともいえる。

特に今回のケースは、造成時に土を盛って整地されたエリアであるとともに表面付近は植栽用の盛土であるため、締固めもそれほど行っていない、やわらかい土であったのだろう。

土の沈下は場所によって一定ではないため、たった数ミリの沈下の差でも、基礎を含めたブロック塀全体に不均等に応力が作用することがあり、その結果ヒビの発生につながる。それが、今回の「まっすぐ縦に走る1本のヒビ」として現れた。とはいえ、すぐに不安になる必要はない。しっかり造成された土地における圧密沈下は、数年かけて進行し、やがて落ち着くことがほとんどだ。

今回の案件も、構造的な危険性は認められず、沈下も落ち着いているため、塀の再施工や補強は不要という判断となった。ただ、そのままにしておくと、雨水の浸入や草が生えてくることによりヒビや沈下が進行することがあるため、セメントによる簡易補修を施すことを提案した。依頼者は原因や対策が分かり安心されていた。
 
  ビが伝えること

ブロック塀の計画では、ヒビが出にくいように頑丈につくる考え方がある一方で、部分的にヒビが出やすいように「目地」や「逃げ」を入れて力を分散させる考え方もある。地盤内に水分や空隙(くうげき)がある以上、圧密沈下を完全に防ぐことは現実的には難しいことから、すべての造成・建物計画では圧密沈下を想定し計画されている。

そう考えると、今回のブロック塀のヒビは「そろそろ地盤が落ち着きましたよ」というメッセージだったのかもしれない。土地や建物にはいつも、目に見えない力が働いている。それに気づくのは、ちょっとしたヒビや段差などの変化だったりする。今後も土地や建物が静かに発する「メッセージ」を読み解いていきたい。


 アドバイス 
◆「圧密沈下」は数年掛けて進行し、やがて落ち着くことがほとんど。今回の案件も構造的な危険性は認められず、沈下も落ち着いてきたため、セメントでの簡易補修を提案した。




しもじ・てつろう/1級建築士。(株)クロトン代表取締役
電話=098・877・9610

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2063号・2025年7月18日紙面から掲載

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