土に潜り 海に浮かぶ|窪田建築アトリエ[お住まい拝見]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

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2024年3月29日更新

土に潜り 海に浮かぶ|窪田建築アトリエ[お住まい拝見]

[建築家・金城司さんの自邸]
建築家の金城司さん(51)は、自邸の設計を尊敬する建築家の窪田勝文さんに依頼した。地中に埋まる造りは、眺望を最大限に堪能するため。「デザイン重視と思われがちだが、驚くほど住み心地も良い」と話す。

門側から見た外観。直径110ミリの鉄鋼柱に支えられた2枚の屋根は、重さを感じさせず浮遊しているよう。左側が玄関へ続くアプローチ、右側が寝室やリビングなどがある住居スペース


歴史に残る建築を

金城司さん宅
 鉄骨造、一部RC造/自由設計/家族2人 

施主の金城司さんが、尊敬する建築家・窪田勝文さんにした要望はただ一つ。「歴史に残る建築を」。

金城さんも建築家で、第3回沖縄建築賞の住宅部門正賞の受賞者。だが、自分で建てる選択肢はなかった。「窪田先生と南城市をドライブしたとき、斎場(せーふぁー)御嶽(うたき)近くで『ここはすごいぞ!』と車から飛び出さんばかりに興奮していらっしゃった(笑)。この人は、ここにどんな建築を創るんだろうって。自分も建築家だからこそ、興味がわいた」

同市で土地を探して2年。ようやく久高島を望む絶景地を購入。山口県を拠点にする窪田さんが設計を手掛け、金城さんは沖縄で協力会社を探すなどサポート。設計・施工には12年掛かった。

苦節の上、完成した新居は建物がほとんど土に埋まった唯一無二の佇まい。地中へ潜っていくようにアプローチを進み、玄関を開けると真っ白な廊下が伸びる。左に折れると、息を飲むほどの海景色。水盤が敷地の境界を消し、宙に浮いているかのよう。「眺望が最高なのは当然。いくら見ても飽きない。そして意外に思われるけど、かなり暮らしやすい」と金城さんは話す。


リビングで談笑する金城さん親子と窪田さん。極力、景色を邪魔しないよう大判ガラスを使用。「運搬や施工はかなり大変だったが、職人さんの頑張りのおかげで実現できた」と金城さん。壁や天井は廃棄前の使用済み合板型枠を使って仕上げ、荒々しい自然との調和を図った

玄関へ続くアプローチ。幅1.2メートルのスロープを下っていく
 

開閉できない(FIX)窓に囲まれた寝室。「カーテンも付けていないので『眠れる?』とよく聞かれるけど、すべてFIX窓なので侵入される心配はない。逆に安心感があって熟睡できる」


昨年の台風時も静か

来客に必ず聞かれるのが「台風は大丈夫?」。「昨年8月の台風6号のときは、ヒヤヒヤしながらリビングに居た。だけど、驚くほど静かでいつの間にか爆睡していた」。厚さ12ミリ×2枚の合わせ強化ガラスの効果と「外に張り出した水盤のスラブが、崖下から吹き上げる風を切ってくれたみたい」と金城さん。

湿気については「クローゼットなど気になるところは除湿器で対策している」と話す。

また、土に埋まっているからこそ「冬暖かく、夏は涼しい」。さらに「西側の山が西日を遮ってくれるので、夏の西日に当たる時間が短い。実験的に屋根に断熱塗料を塗らなかったが、1年間まったく問題なく過ごせた。しばらくこのままでいいかな」

景色だけでなく、機能面も地の利が生かされた家。「建築観が大きく変わった」と金城さん。ここから新たな沖縄建築の歴史が紡がれていく。


リビングは直交する2枚の壁に守られ、外からの視線を気にせず景色を堪能できる。夜は部屋を暗くし、水盤や周囲の植栽をライトアップしている。「外の方が明るいので虫が来ない。だから、網戸を付けなかった」

シンプルなキッチン。食器や食洗機は下部に収納している。上部のルーバー部にはエアコンが隠れている。「換気扇はあえて付けなかった。風が通るし、匂いが気になるときは空気清浄機をつければOK」と金城さん


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玄関そばの廊下沿いに大きなクローゼットがあり、洋服や冷蔵庫などを収納している

 

浴室にトイレや洗面台などがまとまって配されている。鏡の内側が収納になっている



ここがポイント
移動で魅せる景色

「施主(金城さん)は建築家というハードな仕事をしているので(笑)、日頃の重圧から解き放たれ自由になれる住宅を考えた」と設計をした窪田勝文さん。

カギとなったのは抜群の眺望。「重力さえ感じさせず、空から海を見下ろしているような浮遊感を出せないか」と知恵を絞った。

目を付けたのは基礎を造るときに掘削した土だ。結構な量があり、搬出や廃棄にもコストが掛かる。「その土を活用して丘を造り、その中へ潜っていくような玄関アプローチを設計した」。いったん暗闇に潜ってからリビングへ行く流れを造ることで「強烈な光に満ちた海景色を際立たせ、浮遊感を生み出した」。

窪田さんは設計時、「シークエンス(移動することで変化していく景色)を重視している。開口部と空間の組み合わせを緻密に計算することで、周辺の自然を最大限に享受できる」と話す。

外観も浮遊感が漂う。表からは建物がほどんど見えず、2枚の屋根が宙に浮いているかのよう。「この敷地は、斎場御嶽と久高島の間にある。聖地へつながる景観を壊さず、自然に溶け込む建築を試みた」。屋根の端は斜めにカットして厚みをなくし、重量感を軽減している。

浮かぶ屋根とは裏腹に、敷地の南西側と中央に埋まって立つ2枚の壁は「台風などの自然災害にも耐えうる」ほか、景色を邪魔することなく、外からの視線を遮る。

広大な敷地だが、居住空間は南西側の境界沿いにまとまっている。「南西側に連なる山が、日射や風雨を遮ってくれる。自然の恵みにより、厳しい気候を軽減するように計画した」と窪田さんは説明した。


[DATA]
家族構成:2人
敷地面積:1235.42平方メートル(約374坪)
1階床面積:89.58平方メートル(約27.1坪)
建ぺい率:9.37%(許容40%)
容積率:7.25%(許容200%)
躯体構造:鉄骨造、一部鉄筋コンクリート壁式構造
用途地域:区域区分非設定
設計:窪田建築アトリエ 窪田勝文
協力:門一級建築士事務所 金城司
構造:ティーアンドピー設計事務所 竹内謹治
施工:丸義建設 野原篤
設備:琉泉設備 小橋川学
電気:屋宜電気工事 屋宜宗春
外構・造園:樹徳苑 玉城博徳
ガラス:ダイヤモンドバレー 谷雅史

問い合わせ
窪田建築アトリエ
電話=0827・22・0092
https://katsufumikubota.jp/

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撮影/矢嶋健吾 文/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1995号・2024年3月29日紙面から掲載

この記事のキュレーター

スタッフ
東江菜穂

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編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。

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