お住まい拝見
2025年7月11日更新
[お住まい拝見]美容室と併設の住まい|イルデザイン一級建築士事務所
[ギャラリーのようなLDK]
扇形の敷地に建つOさん(44)宅は、美容室と自宅を備えた職住一体型の住まい。自宅は27畳のLDKが中心。アート写真が飾られたシンプルな空間は、ギャラリーのようだ。

コンクリート打ち放しの壁、タイル張りの床、キッチンはグレーで統一され、スタイリッシュな空間を演出。間接照明が、室内を優しく照らす
がらりと違う二空間
Oさん宅
RC造/自由設計
ガラス張り、宙に浮いたような外観が目を引くうるま市のOさん宅。
駐車場の階段を上がると、右側には美容室「LAULEA」、左側には住宅がある。美容室はビーチリゾートを思わせる明るいインテリア。一方、住宅はグレーや黒を基調としたシンプルな空間で、がらりと雰囲気が変わる。
マイホームを持つことが長年の夢だったOさん。数年前から店舗兼住宅のための土地を探し始めた。条件は、大通り沿いで以前の店舗から車で5分以内、100坪以上の土地だ。出合ったのは、扇形の変形地だった。複数の会社に相談し、地形を生かしたプランを提案してくれた建築事務所に設計を依頼した。
住宅の半分はLDK
完成したのは、地下に駐車場、1階に住宅と店舗を設けた建物だ。住宅の中心は、広々としたLDK。対面式キッチンからリビング、ダイニングまで一続きで、ホームシアター用の音響やプロジェクターも完備している。住宅のほぼ半分を占める空間を「家から出たくなくなるくらい、くつろげる部屋にしたかった。映画や動画を大迫力で楽しめます」とOさん。壁には、Oさんが集めてきたアートフォトが飾られている。
ほかにも、こだわりは随所に。「一日の疲れを癒やしたい」と浴室は広く大きなバスタブを設置。ファミリークローゼットは、手持ちの帽子やジーンズを収納しやすい造りにしている。


「1日の疲れを癒やしたい」と広めに設けたバスルーム。大きなタイルや独立型の広々としたバスタブが、ホテルのような空間を演出している(左写真)
約10畳あるポーチとエントランスはリビングと一体的に使えて、来客時に重宝している。ベンチはOさんの手作り(右写真)
お気に入りの住まいだが、将来は米軍人向けの賃貸として貸し出すことも考えているという。「職場と家が近いのは便利だけど、オンオフの切り替えが難しいことがあって」とOさん。「次は平屋に住んでみたい」と新たな暮らしにも思いを巡らせている。
一方、美容室は大きなガラス面から光が差し込み、明るく開放的な空間が広がっている。ブルーをアクセントカラーに、ビーチの絵やサーフボードが飾られ、南国ビーチの陽気な雰囲気が漂う。
もともとDIYやインテリアが好きなOさん。工事中は毎日現場に来て、完成を楽しみにしていた。「思い描いていた空間が形になった」と満足げに話した。

美容室は、自然光がたっぷり差し込む開放的な空間だ。ハワイやカリフォルニアをイメージしたインテリアは、差し色となっているブルーと調和。光と海とアートに囲まれて、明るい気分に

ここがポイント
目を引く外観に

通り沿いで、目を引く外観。建築中から「何ができるの?」と聞かれることが多かったという
宙に浮いているような片持ち構造で、軽やかな印象の住宅外観。さらに、アールを描くガラス張りが目を引く。設計したイルデザインの喜納慎太郎さんは、「通りから美容室だとひと目で分かるように、ガラス張りを提案しました」と説明する。カーブを描くガラスは特注品ではなく、既製品のサッシを使用。ミリ単位で調整することで予算を抑えつつ、ゆるやかなカーブを実現した。窓のうち一部は開閉できる縦滑り出し窓にし、風を取り入れられるようにしている。壁面の一部をアルミサッシにして軽くすることで、構造的な負担も軽減している。
敷地は扇型で高低差のある変形地。効率良く土地を生かしつつ、土地の造成費用は最小限に抑えるよう工夫している。建物は、敷地に合わせて扇形にプラン。建物の配置や基礎の高さを調整して、仮設の土留め工事が不要になるように計画。また、地下部分は建物で土圧を受ける構造とすることで、コストカットにつなげている。「造成工事で数百万円かかることがあるのですが、後に残らない工事にかけるコストはできるだけ抑えたかった」と喜納さん。
内装にも個性が光る。美容室と住宅を分ける門扉は、モルタルアートの左官仕上げでコンクリート打ち放し風にし、空間に程よい緊張感を与えている。美容室のエントランスには、複数のスライスした石を貼り合わせた石張りの壁を採用。撮影場所として使えるほか、視覚的なアクセントにもなっている。
[DATA]
敷地面積:404.52平方メートル(約122.36坪)
地下1階床面積:107.13平方メートル(約32.40坪)
1階床面積:197.83平方メートル(約59.84坪)
建ぺい率:52.13%(許容70%)
容 積 率 :60.31%(許容200%)
用途地域:未指定地域
躯体構造:鉄筋コンクリート構造
設 計:イルデザイン一級建築士事務所 喜納慎太郎
構 造:(有)建築設計 庵 長間大輔
施 工:(有)仲真組 仲眞憲和、宮城正和
電 気:大史電設 上原史
水 道:(合)美里設備工業 喜納哲史
◆問い合わせ
イルデザイン一級建築士事務所
iledesignfc@gmail.com
撮影/泉公・ララフィルム 文/栄野川里奈子
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2062号・2025年07月11日紙面から掲載