建築士の日
2025年6月27日更新
[7月1日は建築士の日]家族で建築士|① 伊佐 強さん・松田 笑里さん|(株)建築工房 亥
建築士法が施行された7月1日の「建築士の日」を前に、親子・兄弟・夫妻で建築士の資格を持つ3組を紹介する。家族だからこそ、良き理解者であり良きライバルでもある。互いに対する思いやそれぞれの建築観などを聞いた。

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親子で建築士

伊佐 強さん=写真左 松田 笑里さん=写真右
(株)建築工房 亥
父:いさ・つよし/1959年浦添市出身。1級建築士。77年に県立沖縄工業高校建築科を卒業。県内の設計事務所勤務を経て、96年に1級建築士事務所建築工房 亥を設立。2024年に沖縄県建築士会の会長に就任
娘:まつだ・えり/1981年浦添市出身。2級建築士。2001年専修学校パシフィックテクノカレッジ学院建築科卒業。03年1級建築士事務所建設工房 亥に入社
父をサポートし追いかける
長 女の松田笑里さん(44)は、幼少期のころの父を「帰りは基本的に遅かったが、早く帰ってくる日は弟たちと父を取り合っていた」と懐かしそうに語る。忙しそうな父を見てきた弟たちは、建築の道には進まなかった。それでも松田さんが建築士になった理由は、「母にそれとなく『父をサポートしてほしい』と聞かされていたからかな」と振り返る。
建築士になった娘を見て、父である伊佐強さん(66)は「当時の建築士は残業が多く、子どもたちには建築士になるように強制しなかった。それゆえに自分がこれまで歩いてきた道を追いかけてくれるのはうれしかった」と笑いながら話す。
月日がたって
松田さんは建築の専門学校卒業後、数年間別の会社に務め、父がいる事務所「建築工房 亥(がい)」で働き始めた。ところが、「基本的に父は事務所にいなかったので、申請業務や図面の書き方などは見よう見まねで、現場のことは現場の方から教わりながらなんとか頑張っていた」そうだ。他にも「仕事の関係と親子の関係のギャップに慣れなくて、ぎくしゃくしていた時期もありました」。一度事務所を飛び出し、別の会社にいた期間もある。伊佐さんは「あの頃は事務所を1人で切り盛りしていたので、教える時間がなかった」と申し訳なさそうに話す。再び戻る決め手となったのは、母の言葉だった。「父が一人で頑張っているから、やっぱり戻ってきて欲しい」と頼まれ、「父を支える事にしました」。
あれから月日もたち、「今は父の気持ちも分かるようになった」と松田さん。現在は良好な関係を築いている様子。お互いの建築について「父は風や光の取り入れ方や、空間の使い方が巧みで、まだまだかなわない」、「娘は女性の目線で設計している。家事動線や細かい部分までよく目配りができていて、参考になる部分もある」と実力を認め合っている。「施主にプランを提案する時に、私と父とで案を出し合うが、父の意見が採用される事が多い」と松田さん。その一方で、松田さんの案が採用されると、「成長したんだな」と父としても師匠としても成長を喜んでいる。

「建築工房 亥」のこれから
建築工房 亥から独立する気はないか、と松田さんに聞くと「私は設計から経理もこなす亥の『なんでも屋』。この事務所でやりたい事もできるし、働く環境も悪くないので、独立はしなくてもいいかな」と笑う。
今後については、「沖縄らしい風・光を取り入れた空間や、家族の気配を感じる住宅が建築工房 亥の良さだと思う。住宅のあり方は少しずつ変化していくと思うが、娘のやりたい事を見守りたい」と伊佐さんは期待を込める。松田さんは「亥の建築と施主のやりたい事が融合した住宅をこれからも建てたい」と力強く語った。
現在、松田さんの息子や伊佐さんの長男の息子も建築士を目指しているという。建築工房 亥の3代目は競争となりそうだ。

影響を受けた建築物&建築士
(株)建築工房 亥
◆伊佐 強さん安藤忠雄さん(1941年〜)とその建築物にはとても影響を受けました。型枠を取り外したままのコンクリートをそのまま見せる打放しの建物が特徴で、急斜面に沿って建てられた「六甲の集合住宅」は安藤さんの代表作の一つ。
他にも建築や都市計画で文化の向上を図るために1988年から熊本県で実施されている「くまもとアートポリス」の初代コミッショナーなどを務めた磯崎新さん(1931〜2022年)が手がけた建築物は研修旅行でよく見学しました。
(株)建築工房 亥
◆松田 笑里さん
(株)松山建築設計室(福岡県)の松山将勝さんが設計した建物は、シンプルな造りなのに入った時に家族との繋がりを感じられる温かい空間が印象的で、私も目標としています。
奄美大島にある「みんなの診療所」も松山さんが設計した病院。病院には見えない外観ですが、優しい空間が広がっていました。

鹿児島県大島郡にある「みんなの診療所」
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取材/伊波克朗
『週刊タイムス住宅新聞』建築士の日特集
第2060号 2025年06月27日掲載