建築士の日
2025年6月27日更新
[7月1日は建築士の日]家族で建築士|③ 鮫島 拓さん・鮫島 睦子さん|(株)国建、SHARK ARCHITECTS
建築士法が施行された7月1日の「建築士の日」を前に、親子・兄弟・夫妻で建築士の資格を持つ3組を紹介する。家族だからこそ、良き理解者であり良きライバルでもある。互いに対する思いやそれぞれの建築観などを聞いた。

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夫婦で建築士

鮫島 拓さん=写真左 鮫島 睦子さん=写真右
(株)国建、SHARK ARCHITECTS
夫:さめじま・ひらく/1984年、兵庫県生まれ。1級建築士。2010年滋賀県立大学大学院卒業、同年4月に株式会社国建に入社して、今年で16年目。大学院で研究した都市計画の知見を生かし、都市と建築の関係性を探究している
妻:さめじま・むつこ/1982年、那覇生まれ。1級建築士。2005年武蔵工業大学(現、東京都市大学)卒業後、都内のインテリア会社に就職。11年に帰沖し、(株)国建に入社。19年にSHARK ARCHITECTSを設立。新築から店舗設計、改修まで幅広く手がける
人・土地らしさを建築に
職 場は別々だが、私生活では建築についての談義は絶えない。(株)国建で働く夫・鮫島拓さん(41)と建築事務所SHARK ARCHITECTSを主宰する妻・睦子さん(43)は「設計の出発点が違うから案の段階から多面的に考えられる。検討事項が多い仕事を冷静に異なる視点から助言し合える関係」と話す。時にアジアやヨーロッパの都市・建築、そして文化を肌で感じることも忘れず、子どもを連れて旅をしては自身の設計活動にフィードバックしている。
住宅や店舗のインテリアデザインを含めた設計を行う睦子さんは「どちらかというと施主の使い勝手や安全性から構想する」。対して、「こんな建物がまちにあると面白くなるんじゃないかと完成後のポジティブな面から考えていく」と拓さん。大別すれば積み上げ式とイメージからの逆算式と対をなすが、それぞれが設計した建築物からは「結ぶ」という共通点が感じられた。

沖縄市のコーヒー店「豆ポレポレ」は既存軽量鉄骨による内装と沖縄の土と紙を使ったカウンターが特徴
結び合わせて形づくる

「綱曳き」をモチーフにした「西原さわふじマルシェ」(写真:鳥村鋼一写真事務所)
拓さんが主担当として手がけた「西原さわふじマルシェ」は西原町の綱曳きがモチーフ。柱が勾配屋根を支える外観は町民が綱を棒で支える姿さながら印象的だ。「五穀豊穣を願う綱曳きに見立てた大屋根を農地にかける。町民全体で支えるコンセプトを表現しつつ、西原町の農水産物が集まり、同町の魅力を発信できる場となるよう計画しました」と拓さんは語る。

睦子さんが手がけた本部町の焼き鳥「みのり」。畑のような空間を目指し、多くの人々と手作りで改修した
睦子さんが手がけた飲食店の改修事例=上写真=では、「農業を営む店主らしさと沖縄らしさを表現できるよう、畑のような空間を模索しました」。カウンターは「畑で使われていた木材×沖縄の芭蕉紙の製法でつくったパイン紙」で造作し、土間は畑の赤土を利用した三和土とした。専門の職人らと共同し、一部は自主施工。休みの日には多くの友人も駆けつけ、作業した。
依頼者の思いや訪れた人が感じる心地よさはもちろん、沖縄の歴史・技・材料など多くの要素を結び合わせるように、建築を形づくる。
父・母親の顔に早変わり
仕事が終われば、子育てに奮闘する父親・母親の顔に様変わり。事務所を構えたのも、「時間に融通が利くため」と睦子さん。国建も柔軟な働き方を採用し、私生活をサポートしている。「就労時間を自分の裁量で決められる『フレックスタイム制度』のおかげで、家事も子育ても協力できる」と拓さん。
共同設計した那覇市の自宅兼宿は階ごとに仕上げを変えたり、自身で設計した家具や沖縄の作家の器を置いたりして、細部までこだわった。個々の仕事にまい進しながら、一組のシーサーのごとく、災難を振り払い、共に家族を守る。鮫島夫妻の活動はこれからも続く。
影響を受けた建築物&建築士
(株)国建
◆鮫島 拓さん建築に限らず、自分の内面に向き合ってものづくりをしていた人たち。イサム・ノグチとジョージ・ナカシマは建築の領域を越えるだけでなく、文化や人種の壁をも越えて活動していた。建築家で言えば、白井晟一さん。手がけた建築物はもとより「豆腐」や「めし」などの文章に心を打たれた。難解だが力強いメッセージは設計から造り方、その精神に至るまで自身を突き詰めろと言われているよう。
SHARK ARCHITECTS
◆鮫島 睦子さん建築史家で建築家でもある藤森照信さん。子どもが思い描くようなものを形にする方だと思います。土や草、手曲げされた金物で彩られた「ラコリーナ近江八幡」や、木そのものの歪みや枝を生かした「椅子」など、突拍子もないようだけど、しっかりと建築や家具として成立しているところが魅力的。手仕事の跡が残る、どこか懐かしく、童心に戻って楽しめる建築に惹かれます。

睦子さんも(株)国建に在籍していたころ、鮫島夫妻が共同設計した那覇市の「緑ヶ丘公園エントランススペース公衆便所」。公衆トイレと休憩スペースが併設し、都市と公園の境界を意識した凹凸のデザインが印象的
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取材/市森知
『週刊タイムス住宅新聞』建築士の日特集
第2060号 2025年06月27日掲載