沖縄建築賞受賞アーカイブ

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沖縄建築のさらなる繁栄を期して

沖縄建築賞は、建築関係者の魅力ある建築づくりへの意欲の向上、技能や建築文化の発展を期するほか、次世代を担う建築士の発掘・育成を促すことを目的とし、県内の優秀な建築物・建築士を表彰することで建築の社会的な役割を改めて評価するものである。
これまで数多くの応募があり、沖縄ならではの気候風土に適した建築が数多く見受けられた。また、それぞれの視点から建築へのこだわりを感じ、新たな可能性も感じ取ることが出来た。
今回、節目となる第10回目を迎え、リフォーム・リノベーション・コンバージョン部門を追加した。沖縄建築賞がこれからの沖縄建築に貢献し、更なる繁栄をもたらす事を期待している。

沖縄建築賞実行委員会

第6回から沖縄建築賞の審査委員長を務めておられる古谷 誠章先生に、これからの沖縄建築の可能性についてお話いただきました。

沖縄から世の先駆けとなる建築を

第1回から5回までの古市徹雄さんに続き、第6回から10回までの審査委員長をさせていただきました。
 振り返って改めて思うのは、沖縄という場所の持つ力です。第6回はコロナ禍で対面や現地での審査は行えず大変もどかしかったのですが、それでも最終審査の際は沖縄を訪れて、その土地の空気を吸うことでようやく実感が湧きました。第7回からは必ず現地に赴き、その場に建つ沖縄の建築を体感し、第10回では宮古島まで足を伸ばしました。
 そうした中、私自身にも新しい気づきと考え方の変化がありました。当初は沖縄の風土に調和する沖縄らしい建築を求めていました。最近では、むしろ厳しい気候風土の沖縄だからこそ日本全国や世界に先駆けた発想で、建築の新たな解を見いだすような作品を期待しています。

 これからも、そうした視点に立って沖縄の建築を見つめたいと思います。

古谷 誠章(ふるや のぶあき)
1955年生まれ、1980年早稲田大学大学院修了。早稲田大学教授、建築家。日本建築学会賞、日本芸術院賞、日本建築大賞などを受賞。日本建築学会会長、現在は日本建築士会連合会会長。

第10回沖縄建築賞

地域や気候に寄り添う建築

総評

地域や気候に寄り添う建築

今年は昨年同様、単に沖縄らしいという範疇を超えて、気候や建設条件の厳しい沖縄だからこそ先駆けて、世の中に一石を投じようとする果敢な作品が多かったと思う。

世に先駆け 一石投じる作品

住宅建築部門の正賞「亜熱帯のいえ」は敷地の高低差を生かし、コンクリートの外郭と木構造を入れ子にした住宅。台風や強い日射などを巧みに緩衝しながら、絶好の景観を取り込む設計密度の高い傑作。そのほか、住宅部門では沖縄の気候風土に適合させつつ、ZEHを達成した「ミニマル×マキシマル」が価値ある挑戦だった。

一般建築部門の正賞は「コンクリートを結う 琉球調理製菓専門学校」。建主が型枠業を営むこともあり、コンクリートを編んだようなファサードが圧巻であった。僅差で正賞を逃した「自然との境界」は自然と建築を結びつけており、結果としてタイムス住宅新聞社賞を受賞した。

新設されたリノベ部門の2作品のうちでは「瀬底の家」が琉球古民家を改修しただけでなく、移住者が居を構えたこと自体がこの地域をリノベーションするものとして、私としては高く評価したいと感じた。

他の入選作もそれぞれに示唆に富む佳作であった。

古谷 誠章 審査委員長(建築家・早稲田大学教授)

第10回沖縄建築賞協賛企業
(※順不同)

沖縄建築賞受賞アーカイブ

これまでの沖縄建築賞受賞者の情報は、タイムス住宅新聞スペシャルコンテンツでご確認いただけます。
ぜひ各賞のページより、各受賞者の素晴らしい作品をご覧ください。

第9回沖縄建築賞

総評

風土の持続性と新たな可能性を提案

年々確実に水準が上がる中、今年は沖縄の風土や景観にただなじむだけでなく、沖縄の新しい建築や暮らし方を生み出そうとする大変刺激的な応募作品も多かったです。

今後を見据えた斬新さも

住宅建築部門の正賞を獲得したのは「ヨナシロのいえ」。伝統的な沖縄の住宅のエッセンスを咀嚼し、これまでに見たことのない沖縄の住宅を体現させたものでした。ディテール(細部)も非常に洗練されており、新しい挑戦と技術による裏付けが見事に融合していたと思います。
一般建築部門の正賞である「謝敷集落の宿」は、よく手入れされたフクギ並木の残る集落内の空地や空き家を生かして分散した宿として再生する計画です。集落の人々の暮らしをそのままに、またそれらの手を生かしてもてなそうとする試みで、集落を持続させる意欲的な試みです。
タイムス住宅新聞社賞を獲得したのは「衣食住創~育む家~」です。既存マンションの改修という今日的なテーマで、室内に木箱を挿入するという斬新な手法によって実現。木箱は配置を変えることで、四季の変化や家族の成長に応じた柔軟な使い方のできる装置となっています。
奨励賞を含めた他の入選作品も、いずれも沖縄の気候風土の特性に対して、それぞれのプロジェクトの持つ新たな沖縄建築の可能性を切り拓くものとして、高く評価したいと思います。

古谷 誠章 審査委員長(建築家・早稲田大学教授)

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第8回沖縄建築賞

総評

「沖縄建築」切り拓く力を内包

今年は沖縄の復帰50周年ということで県外の建築士も参加できるようになり、これまでにも増して多様で質の高い作品の応募がありました。ただ沖縄らしいというだけでなく、次世代の沖縄の建築を生み出そうとする意欲的な作品に幾つも出合えました。

作品ににじむ情熱、個性

住宅部門の正賞は「400」で、敷地の法的制約を乗り越えて新しいピロティ空間を生み出していました。沖縄建築を象徴するコンクリートとブロックのみで構成され、外観の抑制の効いたデザインと、内部空間の居住性の良さの組み合わせが際立っていました。

一般建築部門の正賞「那覇文化芸術劇場なはーと」は大作で、首里織をモチーフとした外観には作者の並々ならぬ情熱が感じられます。「ウナー」と呼ばれる吹き抜けを介し巧みに構成された劇場空間は、沖縄に根ざした造形を取り入れたというレベルではなく、近年の全国の公共ホールでも出色の作品です。

タイムス住宅新聞社賞の「宜野座ヌルドゥンチ」は、正賞作品とは対照的に極めて用途もスケールも限られた小作ながら、ここにしかない強い個性を放ち、村の神聖な場所の象徴として重要な役割を果たしています。

奨励賞を含めた他の作品も、沖縄の気候風土の特性を生かしつつ、新たな沖縄の建築のポテンシャルを切り拓くものとして、高く評価したいと思います。

古谷 誠章 審査委員長(建築家・早稲田大学教授)

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第7回沖縄建築賞

総評

伝統踏まえ、新時代と向き合う

現地で風土を実感

今年は沖縄で一次審査を行い、続く二次審査では現地を訪れて応募者に会い、作品を拝見することができました。やはりその土地に立って実物を見るということは、土地に吹く風や光を肌で感じ、全五感で作品と向き合う、何にも代えがたいものでありました。

今年の傾向としては、沖縄の気候風土や伝統の上に立ちながら、新しい時代をどのように考えるか、真摯に向きあう作品が多かったと思います。沖縄でしかできない新たな可能性を追求し、沖縄で調達可能な材料、可能な工法、この土地に受け継がれた技術を活用するものともいえます。

建築の可能性広げる

住宅部門の正賞を獲得したのは「西原の家」で、設計者の自邸でもあり、仕事場でもあります。都市部の住宅が閉鎖的になりがちな中で、透かし積みれんがの「ひんぷん」により、透けつつ閉じる柔らかい関係を生み出しました。この壁と主屋との間にある水盤に取り入れられる光、風、雨だれが、街中でも「自然」の移ろいを感じさせます。

一般部門の正賞「食事処 ちゃんや~」は本部町備瀬のフクギ集落の中にあります。私は20年以上前にこの集落の実測調査をしましたが、当時からすでに空き家が増えつつあり、集落の将来を憂慮したのを思い出します。「ちゃんや~」は備瀬の景観になじみ、伝統的な材料、工法に基づいて建てています。新築ですが、この地域の古い空間様式をそのまま感じさせ、古い家を簡単に建て替えてしまう風潮に対して、鋭い批評になっています。

タイムス住宅新聞社賞は「恩納村立うんな中学校」。校舎全体が天井高の高いピロティ空間上にあり、恩納村の素晴らしい海と山の風景に開かれた校舎となっています。ピロティは大きな「アサギ」とも呼べる空間で、強い日差しを避けて人々がここに集うことができる場所になっています。

奨励賞や入選作品も、沖縄の気候風土の特性を生かして新たな建築の可能性を拓くものとして、高く評価します。

古谷 誠章 審査委員長(建築家・早稲田大学教授)

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第6回沖縄建築賞

総評

沖縄の固有性引き出す建築に共感

今年から沖縄建築賞の審査委員長をお引き受けすることになりました。これまで東北、四国、中国、大阪、愛知などの建築賞審査をしてきましたが、沖縄には固有の風土があり、これまでとまた違った建築との出合いを楽しませていただきました。
 15年ほど前、調査などのために数年間、本部町備瀬に通ったことがありますが、伝統的な集落や家々、祭祀などが強く印象に残っています。低くて深い軒庇、開放的な造りとフクギの屋敷林など、今でも講義でその写真を使って地域に合った素朴で豊かな生活空間の在り方を話しています。

発想と意思に敬服

今回、応募者も参加する公開審査を提案したのですが、あいにくのコロナ禍でかないませんでした。しかし現地審査の代わりに、応募者のプレゼンテーションによる審査会ができました。
 各作品を述べる紙幅がありませんが、総じて沖縄の伝統文化、気候風土、立地の固有性をそれぞれに深く捉え、その本質をどのように建築に翻訳するか、どのように現代化するか工夫されていて、とても共感を覚えました。
 特に毎年多くの台風が襲来し、晴れれば容赦ない日差しが照りつける厳しい気象条件に対峙し、それらを克服し、その中でこそ可能な独特の建築空間、建築材料など創意工夫し続ける、柔軟でたくましい発想と意志に敬服しました。
 四季の風を味方につける、直達日射を避け屈折・緩衝された光を採り込む、伝統的な構法を現代化する、高耐候性のコンクリート素材を開発するなどハード面での工夫に加え、土地のポテンシャルを生かした新しい生活の形、障がいの有無を超えた子どもたちの空間など、クライアントの要望に応えるソフト面でのアイデアも見応えがありました。
 これからの時代に応える新しい建築を生み出す上で、沖縄という環境の持つ大きな可能性を感じさせてくれました。

古谷 誠章 審査委員長(建築家・早稲田大学教授)

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第5回沖縄建築賞

総評

自然と連続する提案多

2015年に沖縄建築賞が設立されて以来、私は審査委員長の要職を拝命し、今年で最後になります。

振り返ると作品の質は確実に上がってきています。これも賞の持つ力で、今後も続いてほしいと思います。

沖縄には、独自の歴史と伝統を持つ建築が存在していましたが、台風や火災に対する優位性から、戦後はコンクリート建築が普及。空調機も利用されるようになり、伝統的建築が失われてしまいました。

しかし、今回の応募案にはコンクリート建築においても、伝統建築のアマハジ(屋外テラス・バルコニー)などを取り入れることで、自然と連続する提案が多く見られました。これらは年々増え、沖縄建築の新たな表現として定着しつつあります。省エネ、ひいては二酸化炭素削減にもつながり、この賞の新しい側面となっています。

最後に、新たな沖縄建築の文化が確実に育つことを期待しています。5年間、お世話になった皆さまへの感謝も加えたいと思います。沖縄建築賞が今後ますます社会に認知され、権威ある賞になっていくことを祈りながら。

古市徹雄 審査委員長

第5回沖縄建築賞協賛企業
(※順不同)

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第4回沖縄建築賞

総評

風土に根差したデザイン

日本全国にそれぞれの地域名を冠した建築賞は数多くある。だが、それが地域を表現しているとは思えないほど同じようなスタイルの建築が見られるようになってきている。
そのような中、沖縄では風土に根差した独自のデザインが生まれつつあるように感じられた。
元々、沖縄、宮古、八重山からなる琉球の伝統建築には暑い気候に対する風の通し方、強い光の遮り方、台風などへの叡智(えいち)が育まれてきた。しかし、空調機の普及と共に耐久性や耐力性に優れた鉄筋コンクリートに主役を奪われ、その結果、人間の居住空間と自然はますます切り離されたものとなっていった。
そういう状況に対して沖縄の建築家はこの問題を解決すべく、積極的に多くの提案を試みていることに感銘を受けた。
今年の特徴として木造の提案やアマハジ(屋外テラス・バルコニー)や沖縄建材の花ブロックなどを積極的に用いた伝統的な建築の表現が多く見られ、施工精度の高さも相まって沖縄建築の新しい表現を生み出しつつあると思われた。

古市徹雄 審査委員長

第4回沖縄建築賞協賛企業
(※順不同)

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第3回沖縄建築賞

総評

挑戦的で新たな流れ

今回で3回目を迎えたが、回を重ねるごとに、建築のレベルが上がっている。正賞の2作品をはじめ、風通しや採光などを考慮して、自然と一体になった質の高い建築が増えてきたように思う。
住宅部門では、世帯人数に合わせて住み替える2世帯住宅など、挑戦的な取り組みが多かった。建築に興味を持つ施主が増え、気概のある若い建築士らが活躍しやすい土壌ができてきたのだろう。
バラエティーに富んだ一般建築部門では、リノベーションという新しい流れも感じられた。
昔からある建物には人々の記憶が残り、資源の再利用という点で環境にも優しいため、新たな傾向として生まれたのではないか。
沖縄の建築士は、先人から受け継いだ伝統的な知恵を、現在の建築に生かす先進的な技術を持っている。世界的に環境問題が叫ばれる中で、冷房を使わない造りなど、沖縄建築は一つのモデルとなるだろう。高い意識を持って、これからも頑張ってもらいたい。きちんと仕事をしていることが伝わる作品も多いので、今後に期待が膨らむ。

古市徹雄 審査委員長

第3回沖縄建築賞協賛企業
(※順不同)

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第2回沖縄建築賞

総評

先人の知恵を世界に

自然の風の取り入れ方やアマハジの活用など、沖縄ならではの気候風土や伝統的な建築を意識しながら、自分なりの新しいアイデアを出そうという意欲的な作品が多く見られた。現代建築は環境への負担が大きい。地球環境の問題が指摘される中、電気や空調に頼らず、自然の風、光を利用した先人の知恵を現代に生かす沖縄の建築士たちの提案は、世界に向けて発信できるメッセージになると思う。
建築は社会の状況を色濃く反映する。応募作品からは沖縄の元気を感じた。停滞感がある日本の中で、沖縄の建築はこれから注目度が高まっていくと思う。さらなる研さんを期待したい。(建築家)

古市徹雄 審査委員長

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第1回沖縄建築賞

総評

地元材使った提案望む

沖縄は、自然と一体化する独自の建築文化を育んできた。その点を踏まえ、審査では、光や風の取り込み方、景観との調和などを重視した。応募作品を見ていると、県内の建築士は、自然との調和を意識していることを感じた。
一方、県内は鉄筋コンクリート造が主流とはいえ、地元の材料を使っての提案が欲しかった。現代建築の、環境に与える負担は大きい。その点でも、地産地消の建築を模索することは大切だと考える。
『沖縄らしい』建築をこれからも追求し続け、将来のモデルとなる提案が出てくることを願う。(建築家)

古市徹雄 審査委員長

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