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2021年10月29日更新

【第7回沖縄建築賞】住宅建築部門 正賞&新人賞/「西原の家」(西原町)/與儀拓也氏(37)/Studio Clamp

沖縄県内の優秀な建築物・建築士を表彰する「沖縄建築賞」(主催/同実行委員会)。全16作品(住宅部門9件、一般部門7件)の中から、第7回の入賞作品が決定した。住宅部門正賞・新人賞には與儀拓也氏の「西原の家」が、一般建築部門正賞には下地洋平氏の「お食事処 ちゃんや~」が選ばれた。

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設計した與儀さんの自邸兼事務所の「西原の家」。前面道路は道幅が狭いため、建物をセットバックし前面の駐車場を、車がすれ違える場所として地域に開く。塀は設けず透かし積みれんがのひんぷんで緩く目隠ししている
設計した與儀さんの自邸兼事務所の「西原の家」。前面道路は道幅が狭いため、建物をセットバックし前面の駐車場を、車がすれ違える場所として地域に開く。塀は設けず透かし積みれんがのひんぷんで緩く目隠ししている


住宅建築部門 正賞&新人賞
「西原の家」(西原町)


地域や祖先とつながる

沖縄らしさ現代的に

西原町の細い道路沿いに建つ「西原の家」。設計した與儀拓也さんの自邸と事務所だ。

建物をセットバックして、前面は駐車場に。車がすれ違うための場所として地域に開く。駐車場と居室の間には、「透かし積み」れんがのひんぷんを配置。光と風を取り込みながら視界を緩く遮る。「街とのつながり方が評価に値する」と、正賞受賞となった。

他界した祖母の家があった土地を仏壇と一緒にひきついだ。イメージしたのは、沖縄の伝統的な間取りだ。仏壇を建物の中心に置き、来客を通す〝一番座〟の位置に事務所を配置。植物が好きだった祖母のために仏壇の正面には中庭を設けた。水回りは北西にまとめ、キッチンの壁には火ヌ神(ヒヌカン)のためのニッチ(壁のくぼみ)も設けた。

審査員は、「あるべきところに仏壇や火ヌ神が設置され、沖縄の伝統を現代的かつチャーミングに落とし込んでいる」と話した。

また、ひんぷんと建物の間には水盤がある。気化熱と水の揺らめきで室内に涼を呼ぶ。さらに雨天時は水紋を、晴れた日は天井に写る反射光を楽しむ。随所に工夫が凝らされ、「若々しい挑戦がある」と高く評価された。

広々としたLDK。仏壇のある和室まで一体となる。白を基調とした室内は漆喰(しっくい)塗料を躯体に直接塗っている。「下地材を省いたことで、空間が少し広く使えた」
広々としたLDK。仏壇のある和室まで一体となる。白を基調とした室内は漆喰(しっくい)塗料を躯体に直接塗っている。「下地材を省いたことで、空間が少し広く使えた」

仏壇のある和室。植物が好きだった祖母のために、正面には庭を配置した。写真正面の扉は事務所につながる
仏壇のある和室。植物が好きだった祖母のために、正面には庭を配置した。写真正面の扉は事務所につながる
 

透かし積みれんがの隙間から、光と風が通る。ひんぷんの内側には水盤を設置。上部開口から落ちる雨水により水がたまる。晴れた日は写真左手のホール天井にきらめく水紋がうつる

透かし積みれんがの隙間から、光と風が通る。ひんぷんの内側には水盤を設置。上部開口から落ちる雨水により水がたまる。晴れた日は写真左手のホール天井にきらめく水紋がうつる
 

キッチンの壁や脱衣所の洗面カウンターなどは、ベニヤなどにモルタルのようになる左官材を薄く塗って仕上げている。「強度が増し、耐水性も出てくる。浴室の壁や浴槽にも使用している」

キッチンの壁や脱衣所の洗面カウンターなどは、ベニヤなどにモルタルのようになる左官材を薄く塗って仕上げている。「強度が増し、耐水性も出てくる。浴室の壁や浴槽にも使用している」


平面図




設計者/與儀拓也氏(37)
Studio Clamp


日ごろ取り組んできたことや新たに挑戦したことが評価され、目標としてきた建築賞の正賞を受賞できたことに喜びでいっぱいです。ご協力いただいたすべての方々に感謝です。今後もより良い建築に携われるよう研さんを重ねていきたいと思います。


審査講評・金城傑氏 住宅建築部門 正賞

気候に配慮しつつ洗練

住宅が建ち並び、交通量の多い通リに面した駐車場を、ゆとりのある空間とすることで、通りの狭さを感じさせないものとしている。アプローチ1段目の土間をさりげなく車止め兼用としたり、軒先の洗練されたディティール等々、設計者の高い技量を感じる。玄関へ向かうと透かし積みれんがによるひんぷんに迎えられるが、絶妙な透かし具合が心地よい。その背後には屋根から落ちる雨水を受ける水盤があり、訪問者を涼しく迎える装置となっている。

この水盤は、自然雨水のみを溜め、水が汚れたら愚直に栓を抜いて掃除をする、というシンプルな管理方法で、今風に言えば、最も持続可能なシンプルな形式としたその考え方に共感を覚える。水盤底の止水栓を目に触れにくい水盤中央あたりに設ければ、さらに美しい水盤になったのではないか。

西日対策や快適な通風が得られる配置計画等、沖縄の気候風土に配慮しつつ、洗練された室内デザインや空間になっており、内外共に、若い設計者とは思えない完成度の高い建築である。(県建築士会会長)

 

審査講評・伊良波朝義氏 新人賞

近隣の手本になる建築

平屋の住宅が並ぶ閑静な住宅街に西原の家は佇む。通り沿いの塀を無くし圧迫感を和らげ、透かし積みれんがによる大きなひんぷんを配置することで集落と家が緩やかに繋がる。今後建て替えが想定される近隣の手本となる建築である。ひんぷん前に植栽帯があると、さらにまちに潤いを与えられるので今後の計画に期待したい。また、ひんぷんと家の境にある水盤は気化熱による冷風を呼び、雨天時の楽しい演出となっている。

1次審査の際に気になった南庭に開放されたLDKのプライバシーは、隣地との間の植物が十分に成長しており、開放された窓からの心地よい風に、審査員一同設計意図に納得していたと思う。子ども室・寝室と事務所との間にあるテラスも公私を緩やかに分けながら居室へ優しい光を導いている。

また、南西側に集約された水回りやクローゼットも機能的に整理され、家全体にさまざまな工夫が施されており、審査委員より高く評価を頂いたので、ここに新人賞を与えるものである。(日本建築家協会沖縄支部支部長)

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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1869号・2021年10月29日紙面から掲載

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