沖縄建築賞
2018年5月25日更新
【第4回沖縄建築賞】一般建築部門正賞/「FFD unit」(北中城村)/大嶺亮氏(54)/ファイブディメンジョン一級建築士事務所
県内の優秀な建築物・建築士を表彰する「沖縄建築賞」(主催/同実行委員会)。全28作品の中から、第4回の入賞作品6点が決定した。住宅部門正賞には漢那潤氏の「本部町の新民家」が、一般建築部門正賞には大嶺亮氏の「FFD unit」が選ばれた。
第4回沖縄建築賞 入賞作決まる
一般建築部門の正賞には大嶺亮さんが設計した「FFD unit」が選ばれた。全6戸の集合住宅で、四角の穴が開いた外壁の内側は、各住居の「アウトリビング」になっている。アマハジのような半屋外空間が空間に開放感と柔軟さを与えている
一般建築部門 正賞
「FFD unit 」(北中城村)
変幻自在の集合住宅
雨端のあるアパート
昔ながらの沖縄の民家には玄関がなく、住人らは深い軒が陰をつくる雨端(アマハジ)から出入り。涼やかなそこは、交流やくつろぎの場でもあった。
その雨端空間を、軒とデザイン性にもこだわった外壁スクリーンでつくり、現代のアパートに取り入れた「FFD unit」が一般建築部門の正賞に輝いた。
「FFD unit」において、雨端は「アウトリビング」と名を変え、玄関の前に配されている。リビングダイニング(LD)に面するそこは、家具を置いて居室の続きとして使うも良し、掃き出し窓を開け放つための外との緩衝空間(ベランダ)にするも良しの柔軟な空間だ=下図面。
①はアウトリビングを居室の一部とし、リビングダイニングも土足使用。内外一体の広々とした空間として利用
②は屋外、屋内をきっちり分けて使用。アウトリビングがあることで、人目を気にせず履き出し窓を開け放つことができる。個室は収納で区切り2部屋にした
③は、常に履き出し窓を開けてリビングを半屋外化。アウトリビングで食事をするなどテラス感覚で使う
設計した大嶺亮さんは、「快適性、開放性とプライバシーを両立した『沖縄における新しい集合住宅のあり方』を示した」と語る。
審査委員からは、「アウトリビングすべてが玄関であり、内と外を結ぶ雨端空間が現代的に表現されている」と高く評価された。
また、水回りを住居の中央にまとめ、そこを境にパブリックゾーンとプライベートゾーンを明快に分けた間取りや、可動収納によって自在に区切ることができる個室も好評だった。
「FFD」とは、Flexibility(柔軟性)、Functional(機能的・実用的)、Diverse(多様な)に由来。審査委員は「住まいのバリエーションが作りにくい集合住宅プランだが、コンパクトで無駄の無いプランを実現させている。ライフスタイルの変化にも対応できるものとなっている」と評価した。
玄関の前にあるアウトリビング。深い軒と外壁スクリーンに囲まれた半屋外空間。アウトリビングに入る前には鍵を掛けられる外玄関があり、人目を気にせず自由に使える
リビングダイニング(LD)からアウトリビングを見る。LDの床はコンクリート土間で土足利用も可能。履き出し窓を開け放てばアウトリビングと一体となる
個室には可動収納があり、移動させることで2部屋にしたり、ウオークインクローゼットにしたりと、ライフスタイルに合わせて間取りを変更できる
設計者/大嶺亮氏(54)
ファイブディメンジョン一級建築士事務所
「FFD unit」は奇をてらわず、シンプルに住み心地や使い勝手を追求しました。アパートが飽和状態にある中で、特殊なものや高価なもののない、地味なアパートを評価していただいてうれしいです。今回の受賞で、新築や立地重視の賃貸市場に新たな方向性を示せたら幸いです。
審査講評 一般建築部門正賞
「FFD unit」
なかなか住まい方のバリエーションが作りにくい集合住宅プランであるが受賞したプランは明快なゾーン別けによってライフスタイルの変化に対応できるものとなっている。それを可能にしたのが水回りを中央のゾーンに位置させたことにるパブリックゾーンとプライベートゾーンの明確な区分にある。1ルームから2ルームに変化するプランは十分考えられるものではあるが、極力無駄な空間を排除したプランを目指す集合住宅にあって、水回りを中央に位置させたことが、面積の有効利用になり、コンパクトな無駄のないプランを実現させている。また、特筆されることはアウトリビングの考え方にある。伝統的な沖縄の住まいにあるあまはじ空間を現代的な空間に表現したことである。そこをアウトリビングと表してリビングと一体化した使い方を提案している。もともとの沖縄の民家には玄関という概念がない。あまはじ空間がすべて玄関であり部屋内と外部を結ぶ空間がそこに表現されている。
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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1690号・2018年5月25日紙面から掲載