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2019年3月29日更新

支え合いを学ぶキャンプ[防災コミュニティー]

[文・稲垣暁]防災教育には、自分の命や家を守るだけでなく、水や電気など当たり前にあるものが使えなくなった時の「創意工夫力」や、より困難な状況にある人に手を差し伸べ一緒に難局を乗り切る「自治力・協働力」が求められる。若狭公民館の講座での実践を元に、これらを身につける方法を考える。

防災教育④創意力・自治力を育む

野外活動実践者や被災・避難経験者、災害地支援者が中心となり「防災キャンプ@若狭公民館」を1月5日に開催、大規模災害時の避難所を想定して公民館ホールで1泊した。防災との縁が薄い人たちも楽しみながら災害時の課題に気づき、身近なものを使った工夫やその場にいる人での協働・自治を学んだ。

参加にあたり、避難時・支援時に求められる「ルール」を設定。「自己完結」(主催者側は場所と機会の提供だけで、寝床や食事など自分のものは自分で用意する)、「ワンパック」(生活用品はリュックやかばん1個以内にまとめる)を事前に伝えた。

すると、参加者は多様なスタイルで集まってきた。①ワンパックで来た人、②日帰りの人、③防寒対策だけしてきた人、④テントなど装備を持ってきた人、⑤最初からいる施設職員、⑥メディア記者、⑦何も持たずに来た人、に分類された。現実の避難所とまったく同じだ。

大規模災害時、避難者には家を失ったか戻れない人と、家は無事で日中あるいは宿泊だけ来る人の2パターンある。今回も両タイプの参加があった。③には「とにかく何か力になりたい」という思いで被災地外から支援に駆けつけた人も多く、④の多くは完全自己完結で長期間の支援を行うボランティアだ。⑤⑥の存在も欠かせない。
 

持ち寄ったものを全員で分け合って食べることで、支え合う力や自治力が身につく。行政の備蓄よりもおいしく、自分たちで困難に打ち勝つエネルギーになる


サバイバルより協働
⑦は着の身着のまま参加した人で、椅子やトイレ付近で寝た人もおり、災害時に多く見られる光景が再現された。私は、阪神・淡路大震災当日に避難場所を求め歩いた姿で、スキーウエアを着てレジャーシートだけ持って参加した。

あらゆる年代が参加、「単身女性」「幼児と母親」「風邪気味の人」「県外からの旅行者」など“災害弱者”も含まれていた。被災者パターンや課題について、参加者はまるで「避難所カタログ」を見ているようだった。

段ボールが入手できたという設定で、ホールの備品も活用しながら工夫して寝床を作った。食を持参できなかった人も含め、全員で持ち寄ったものを分け合って食べた。そのまま車座で話し合いの場を持つ進行がなされ、参加者が協働し自治力が高まっていく流れが自然にできあがった。

キャンプの防災活用はサバイバル技術を磨くことではなく、その場にいる人たちが知恵と力を出し合い生活体制を整えていくことに意義がある。防災キャンプはこのことを体験し、避難の実際を学ぶ機会になる。

住民被災時の公園利用を考える
大規模災害時は避難所が足りないだけでなく、避難所での生活が困難な人も多数発生する。その際、公園が長期の避難場所になりうる。一方で、大規模断水になるとトイレが絶対的に不足、家が無事でもトイレが使えないので公園で用を足す人が続出し、極めて不衛生な状況が出現する。

そこで、災害時の公園避難生活を考えるフィールドワークを2019年2月10日に那覇市緑ヶ丘公園で行った。同公園を拠点に地域活動を行う市民グループ「チームまちなか」が主催した。

阪神・淡路大震災では多くの公園がテント村になり、熊本地震でも支援者によるテント村が機能した。特に、子どもが自由に動き回れることや家族で煮炊きができるという点で有用だった。「阪神」の被災地より人口密度が高い那覇市では、行き場を失った人が自動車やテントでの生活を余儀なくされることは間違いない。

ワークでは公園内を歩いた後、雨水がたまりやすい場所、トイレ近辺の対策、車中泊者への対応、情報や物資の拠点など各ゾーンについて災害時を意識した関わり方を話し合った。本土の公園で設置が進む井戸などの地域利水が不十分なことも討議され、避難所支援に偏りがちな行政に公園活用を働きかけていくことになった。

2019年3月24日には、若狭公民館などの主催で実際にテントを張り、「防災デイキャンプ」が行われた。


広い公園内のさまざまな場所をチェックしながら、災害時にどう利活用できるか、あるいはどのようなリスクがあるかを考えた


文・稲垣 暁(いながき・さとる)
1960年、神戸市生まれ。沖縄国際大学特別研究員。社会福祉士・防災士。地域共助の実践やNHK防災番組で講師を務める。

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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1734号・2019年3月29日紙面から掲載

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