防災
2018年6月29日更新
サバイバルより率先力[防災コミュニティー]
[文・稲垣暁]防災教育で、自然環境に負荷をかけない野外活動やキャンプを経験しておくことは非常に有効だ。阪神淡路大震災で市民が被災生活を乗り切ったのは、市街地の背後にある六甲山を舞台に学校や地域、家庭で長年行われてきた野外活動が大きかった。どのような活動が防災に有効かを考える。
防災教育①野外活動経験を増やす
筆者が阪神淡路大震災で被災し、避難生活を余儀なくされた際、幼い時から親しんだ野外活動の知恵が生きた。ここでの野外活動とは、資機材の調達やゴミの持ち帰りなどを自己責任で行い、自然環境に極力負荷をかけずに野外で行う調理や宿泊だ。
その知恵は、鍋や空き缶での炊飯といった野営技術だけでない。限られた資源を上手に使い、ゴミを出さずに自然に配慮しながらおいしく食べるといった、先輩市民から受け継がれてきた「六甲山の哲学」だ。
震災で最も困ったのは、水だった。大規模断水で食器洗いやトイレなど衛生管理は困難を極めた。停電や物流停止で、焼却や回収ができない大量のゴミが生まれた。気温が上がると腐敗し、感染症の発生が懸念された。
被災者の間では、水を使わない衛生管理の工夫が自然発生的に生まれた。食器は洗わずに何度も使えるようラップで覆い、紙皿も使い捨てではなくなった。
住民同士で自宅冷蔵庫の食料を持ち寄り、共同で作って食べる姿がよく見られた。野外活動で得た知恵を出し合っての食事はことのほかおいしく、苦しい生活の中での喜びとなった。同じ話は、東日本大震災の被災者からも多く聞いた。
水に乏しく、ゴミを出せない野外活動は、災害時の生活実践でもある。被災者の間で自然発生した、食器をラップで覆って使う方法も、野外活動の応用だ=繁多川公民館の防災実践で
野外活動=男女協働
被災地特有の共同生活で特に求められたのは、「男女協働」「役割分担」「情報共有」だった。ここでも、男女が協力しての火起こしや水くみ、調理、片付けなど、野外活動での経験が役立った。「自分から役割を見つける」「足りていない部分をカバーする」「全体の状況を見ながら行動する」といった「率先市民力」が生まれ、住民による自立的な避難所運営にも生かされた。
神戸で野外活動が盛んになったのは、先人がハイキングコースや野営地を整えながら、山や川を汚さない文化を作ってきたからだ。明治開港で住むようになったイギリス人がハイキング文化を持ち込み、市民に受け継がれた。震災時に消防や洗濯、トイレ用水に川の水を利用できたのは、市民の環境保全活動のたまものだった。
災害時に必要なのは、小手先のサバイバル技術や「野外活動の裏ワザ」ではない。みんなで乗り越えるための知恵と工夫、そして普段から地域の自然と環境を守る力だ。限られた資源をどう将来に残すかを野外活動を通じて考えることが、災害時に強い市民づくりにつながることは間違いない。
自己完結型ビーチパーティーを
私が防災講座で行うプログラムのひとつに、使用後の牛乳パックとハサミを使って食器など自由に作ってもらうワークがある。大人の多くは考えこんでしまい、手がなかなか進まない。柔軟な発想が出にくいのだ。一方、子どもたちや野外活動経験が豊富な人は、すぐに切り始める。持ちやすい柄をつけてみたり、食べ物がこぼれないようユニークなフチがある皿が誕生する。
野外活動では、まな板や包丁のケースにもなる。使用後はたき火の燃料にしたり、短冊状に切って1分程度火がつく簡易ろうそくにもできる。
こうした身近なものを再利用する野外活動の発想や経験は、災害時に重要な「工夫力」「想像力」を育む。野外活動は基本的に徒歩移動のため、持ち物や排出するゴミは極力減らす必要がある。そのため、限られた資源(燃料・水・食材)をどう有効に使い、自然環境を守りながらいかに無駄を減らすかを考える。この思考こそ市民防災の基本だ。
沖縄ではビーチパーティーが盛んだが、食材や食器・コンロはセットされ、自分たちで準備や工夫をする機会がない。大量の残飯やゴミは、施設が処分する。この方式に慣れてしまうと、高温多湿で離島県である沖縄県民は災害時にかなり苦労する。この夏のビーチパーティーは、本来の野外活動の理念でチャレンジしてほしい。
辺土名小学校で行った、紙パックの食器づくり。子どもたちの自由な発想とアイデアが光った。
まな板と包丁ケースにもなり、安全に持ち運べる
稲垣暁(いながき・さとる)
1960年、神戸市生まれ。沖縄国際大学特別研究員。社会福祉士・防災士。地域共助の実践やNHK防災番組で講師を務める。
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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1695号・2018年6月29日紙面から掲載