防災
2018年11月30日更新
自然と共生、災害をしのぐ[防災コミュニティー]
[文・稲垣暁]台風24・25号は長時間停電や断水のほか、倒木や浸水で避難不可の事態ももたらした。多くの木々は葉が吹き飛ばされ、無残な姿をさらした。だが、集落の防災林として植えられてきたフクギは、台風後も変わらず濃い緑でたたずんでいた。伝統的な沖縄の暮らしの知恵に学ぶ、防災とまちづくりを考える。
防災教育③沖縄の暮らしに学ぶ
フクギは防風・防潮・防砂・防音・防火能力のほか、干ばつにも強く、王府時代から植えられてきた。こうして沖縄の人は、自然と共生して災害をしのいできた。その知恵や工夫力は、戦後復興でも発揮された。戦闘機の残骸や米兵が捨てたコーラ瓶を生活用品に作り変え、生活を取り戻した。パインの缶で作った三線や、湯にジャスミンの花を浮かべたサンピン茶など、楽しみも創意工夫で生み出した。
冷房がない時代は、クバの葉で作った扇が心地よい風を生んだ。屋根のひさしをのばす、樹陰を増やすなど風通しのよい家づくりで涼を作った。海から川伝いに入る風を生かし、那覇の気温を下げたとする研究もある。ゆるいS字を描く沖縄独特の道は、風をマイルドにする効果があるようにも思える。
最も重要な地域資源は、井戸や湧き水だ。琉球石灰岩を通過した雨水は泥岩層で止まり、各所で地表に湧き出す。水道がない時代の家庭用水供給のほか、崇拝の場、情報交換の場でもあった。水くみ場からこぼれた水は野菜洗い用、洗濯用と活用され、農具や馬を洗った後に田畑に流された。今でいうリサイクルシステムだった。
浦添市・仲間ヒージャーでの親子防災実践。ここでは水の流れる順に「飲料水→野菜洗い→洗濯→農機具・馬洗い」と使い分ける伝統的なリサイクルシステムを見ることができる。
持続可能な防災教育
17世紀に中国から沖縄にもたらされた甘藷(サツマイモ)は、災害や飢饉(ききん)の犠牲者を激減させた。地中が備蓄庫になったのだ。沖縄戦時、島田叡知事は最後の市町村会議で南部各市町村に甘藷の夜間増産を指示した。本島南部への戦況拡大に備え、避難住民が食いつなげるよう地域備蓄を図った。どの畑で採っても泥棒扱いしないことも決めた。
長く命をつないできた地域の水や甘藷は、今の防災では軽視されている。沖縄タイムスの取材では、行政が所有する給水車は県内に1台しかない。離島県なのに、食を自己完結する体制づくりも進んでいない。
大災害時は、行政が備蓄する水や食料では間に合わない。過去の災害では、個人の水や食と地域資源が命とまちを救った。亜熱帯気候の沖縄で長期の停電・断水となった時、地域の水や島食材が命を守ることは間違いない。
災害リスクが高い今、避難訓練や防災システムづくりを行うことは重要だ。しかしそれだけでは、絆創膏(ばんそうこう)のような対処的な活動で終わる。自然と共生してきた沖縄の伝統的な暮らしや、身近なものを生かす知恵と工夫に学ぶべきことは多い。便利さに頼らず持続可能な社会をつくることが防災教育でもある。
「供えて備える」ヒヌカン・仏壇
災害時持ち出し品の基本は、「生活環境を維持できる必要最低限の品を、すぐ持ち出せるようにしておく」である。「生活環境を維持する」とは「歯を磨く」「清潔を保つ」などだ。災害時は口内の雑菌で肺炎になったり、衛生面の悪さやストレスで体調を崩してしまうからだ。
生活環境を維持するアイテムは、沖縄の伝統的なライフスタイルにちゃんとセットされている。私は「ヒヌカン」「仏壇」に協力していただくことを推奨している。
ヒヌカンのお供えは、「水」「米」「塩」「酒」が基本だ。これらは生活維持の品でもある。「水」「米」は言うまでもない。「塩」は調味料や殺菌だけでなく、停電時の熱中症対策になる。足が痙攣(けいれん)した人が、わずかの塩をなめて回復したという話もある。「酒」は「アルコール」と読み替えたい。災害時のケガは消毒が難しいが、アルコールがあると安心だ。「酢」でもよい。疲労回復にもつながる。
「仏壇」には「ろうそく」がある。ライターやマッチなど「火」もある。「線香」は「蚊取り線香」と考えよう。年中暑い沖縄では、停電で窓を開けた時の蚊対策は欠かせない。お供えには黒糖をぜひ。ミネラルやエネルギーが豊富で、チョコレートのように溶けない。
火の神さまやご先祖さまに許しを得て、防災を意識して供え、備えてほしい。
仏壇の「ろうそく」「線香(蚊取り線香)」「ライター」(円内)やヒヌカンの「水」「米」「塩」「酒(アルコールまたは酢)」を災害時の生活維持品として覚えておくと便利。
文・稲垣 暁(いながき・さとる)
1960年、神戸市生まれ。沖縄国際大学特別研究員。社会福祉士・防災士。地域共助の実践やNHK防災番組で講師を務める。
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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1717号・2018年11月30日紙面から掲載