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2017年12月15日更新

夜間避難③ 台風時[防災コミュニティー]

[文・稲垣暁]暴風雨時の避難は極めて危険だ。最近は避難勧告や指示が出る前に増水で死者が出る事態も珍しくない。予報を超える急激な降雨で、行政は避難情報を出すタイミングが難しい、住民が判断できず避難行動が遅れるなどが理由だ。夜間はさらに危険が伴う。

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バリアー見えず転倒の危険

2014年10月11日、台風19号が沖縄本島に接近した際、夕刻18時半に暴風雨の中を避難所開設された那覇市民会館(当時)に避難できるか試みた。自動車で移動したが、駐車場の入り口にはチェーンがかかっているところがあり、暴風雨の暗闇ではそれらが見えず、駐車場所はまったく分からなかった。

ようやく駐車したが、猛烈な風で自動車のドアが急激に閉じ、手を挟まれそうになった。高齢者や子どもの乗降は、極めて危険な状況だった。

やっとのことで降りると、避難室の入り口がどこにあるのか分からない。一瞬でずぶぬれになった。暴風雨のため扉はすべてシャッターが下ろされており、看板や受付は外になく、激しい風雨の中で入り口を探し回った。傘は役にたたず、足元の段差や柵はまったく見えない。路面は滑りやすく、転倒の危険を感じた。

暴風雨の中での避難は、避難室にたどりつくまで時間がかかるうえ、視界の悪さや暴風で転倒・負傷する恐れが高いことから、成人男性でも極めて困難なことが分かった。避難できてもずぶぬれになり、体調を崩す恐れが強いことを実感した。

近年、台風や暴風雨の威力は確実に増している。災害が予想される時、特に移動困難者は風雨が強まる前に避難を終えておくべきだ。


2014年の台風で開設された避難所(那覇市民会館)。夜間の暴風時は特に視界が悪く、段差や車止めチェーン(手前)などバリアーが見えない。建物もシャッターが下り、入り口が分からない。自動車から降りる時、一瞬でずぶぬれになり、ドアに挟まれて大ケガを負う恐れもある。



日中に避難完了を

昨年8月、岩手県岩泉町の高齢者施設で付近の川が氾濫、夕刻17時半ごろ施設に濁流が流れ込み、利用者9人が死亡した。隣の施設に避難することになっていたが、あっという間に水位が上がり、逃げ場を失ったという。

このとき、町は午前9時に町内全域に避難準備情報を出し、高齢者など移動困難な住民にあらかじめ避難するよう呼びかけていた。だが、川の急激な増水を予測できず、日が暮れてからの避難は危険だと町が判断したこともあって、避難勧告や指示は出さなかった。小さい河川のため、防災対策を重点的に進める「指定河川」ではなかった。

避難準備情報の段階で逃げていれば、9人はおそらく助かっただろう。施設の規模が小さいこともあって職員が少なく(夜間は1人)、できれば避難せずにしのぎたいという思惑や、気象に関する情報や知識の不足が災いした。施設を孤立させないためには、地域の協力が不可欠だ。職員だけでは避難誘導は難しい。平時から地域ぐるみで避難態勢を考える必要がある。

 

高齢者施設 地域住民の連携が不可欠

11月19日、浦添市仲西中学校区コミュニティーづくり推進委員会を中心に、大平地域の避難訓練が行われた。小湾川沿いに位置する小規模多機能型高齢者施設「あん」では、利用者8人が職員3人と住民ボランティア6人(児童センター職員と民生委員)の手を借りて大平特別支援学校に避難した。車イスを押した人は、1人で坂道を押し続けることは体力的に難しく、職員だけでは到底、避難支援が難しいことを実感したという。

浦添市はこの数十年で急激に宅地開発が進み、コンクリートで覆われた地域が増えた。大雨が降ると地下浸透せず一気に河川に流れ込む。もし、本土各地で災害をもたらしたような急激な豪雨が浦添市を襲い、長時間にわたって小湾川に大量の雨水が流れ込んだら、あるいは護岸をえぐる激しい増水で道路が崩壊したら、「あん」は孤立する恐れがある。木々やゴミなどが橋の部分などに詰まり、川を氾濫させる可能性もある。

この訓練は地震災害発生を想定したものだが、台風慣れのせいか豪雨災害に対する避難訓練が少ない沖縄で、高齢者施設における豪雨での避難トレーニングを兼ねることができた。豪雨災害リスクの確認にもつながった。

岩泉町の事例は、全国どこで起こってもおかしくはない。早めの避難行動へ平時から訓練することが必要だ。それには住民や自治会の連携が欠かせない。地域主催の訓練への参加は、その第1歩だ。


浦添市の高齢者施設「あん」で行った、地域住民との避難訓練。施設は小湾川に面し、川沿いの道路にはヒビが入っている。氾濫や護岸道路の崩落を考え、夜になる前にできるだけ早い段階で避難行動を行う必要がある。



稲垣暁(いながき・さとる)
1960年、神戸市生まれ。沖縄国際大学特別研究員。社会福祉士・防災士。地域共助の実践やNHK防災番組で講師を務める。



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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1667号・2017年12月15日紙面から掲載

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