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2018年2月16日更新

地域で「生きるお膳立て」を[防災コミュニティー]

[文・稲垣暁]東日本大震災では、沿岸部の在宅高齢者、高齢者施設の利用者など、移動困難な人たちが多く被災した。避難誘導していた職員や家族にも、死者・行方不明者が多く出た。一方、保育園では、保育中の園児の犠牲者は3人とされる。これらの教訓に学ぶべきことは何か。

津波避難② 沿岸部の移動困難者

保育中のすべての園児が無事だった岩手県の保育園では、職員は地震発生直後からどのような行動をしたのだろうか。
研究機関の記録には、揺れが始まると直ちに「園児を部屋の中央に集めて布団や毛布をかぶせ、そのうえに覆いかぶさった」「すぐに扉や窓を開けて避難口を確保した」。揺れがおさまると、子どもの確認のほか「水道の蛇口をひねり、バケツなどに水をためてまわった」「水槽の水がこぼれていたのを、避難する園児が滑らないようとっさに拭き取った」といった行動が取られていたことが記されている。
水をためた理由は、以後のライフライン断絶を考え「水が出るうちに」と避難までの短い時間で迅速に動いたものだ。過去の災害教訓が生かされている。
避難では、年齢別に「おんぶする子」「避難カー(手押し4輪車)に乗せる子」「手を引く子」に分け、それぞれどの職員が誰を担当するかを決めて、毎月の訓練で実践していた。職員が冷静さと笑顔を忘れず行動できたのは、これまでの訓練の結果だった。

津波避難② 沿岸部の移動困難者
沖縄市の保育園での避難訓練。「誰をどう連れて逃げるか」あらかじめ職員の役割が決められ、速やかに行動している。



背中を押す人が必要

東日本大震災後の年代別死者率を見ると、60代以上が7割近くを占める。
3・11から毎年通っている岩手県大槌町で、昨年11月にある高齢者が初めて避難訓練の話をしてくれた。「地域の高齢者は、毎月行う津波避難訓練で高台のお寺まで逃げて、そこでお茶を飲んで帰るのを楽しみにしていた。あの日、たまたま用事でその寺に来ていて、大きな揺れが起こった。津波警報が出たが、訓練で毎回来ていた人たちは誰も来なかった。後から、みな亡くなったと聞いた。訓練していても、誰もここまで津波が来るとは思っていなかった」。避難訓練に参加しても、役に立っていなかったのだ。
一方、岩手県の別の高齢者施設では、すぐ逃げられるよう職員が揺れと同時に利用者の持ち物を玄関に並べたり、トイレに隠れて鍵をかけてしまった場合にトイレの戸を外して連れ出すなどの対策を練ってきた。3・11当日、想定どおりトイレに逃げ込んだ人がいたが、職員はあわてず全員を無事避難させた。
これら3・11の教訓は、避難訓練の見直しとともに、地域での「生きるためのお膳立て」や「背中を押す人」の必要を訴えている。沖縄には、本土にはない気候的(高温多湿など)、地勢的(離島県など)、社会的(高密度な人と車など)リスクと強みがある。沖縄の個性を知ったうえで、実情に合わせた具体的な避難準備を行う必要がある。

 

保育園の避難実践方法を地域に

東日本大震災では、高齢者施設の職員にも多数の死者・行方不明者が出た。その数は170人を超える(表参照)。大半が避難支援中に津波に巻き込まれたものとみられる。
さらに、東北3県で56人もの民生委員が亡くなっている。消防団員も多く犠牲になった。3・11の犠牲者全体の2割が、誘導中に津波に巻き込まれたとする調査もある。避難支援者が巻き込まれ死亡することは絶対に避けなければならないが、どうしたらよいだろうか。
まず、地域全体がひとつの保育園のような具体的な避難支援プログラムを作成し、実践を行うことが理想だ。そのためには、津波避難ビルには移動に時間がかかる人を優先的に誘導し、早く逃げることができる人はできるだけ高台に行くことを地域で申し合わせたり、誰が自動車で避難するかを地域で取り決めることが必要だ。
本文に紹介したように、避難訓練に毎回参加しても実際は逃げないなど、訓練が形骸化することは非常に恐ろしい。それだけ、巻き添えになる人も増えるからだ。地域の移動困難者に関しては、地震発生から15分間は逃げない人に逃げるよう説得にまわり、15分後は自分の命を守るために逃げるといった、支援者になりうる人のためのロールプレーイングを取り入れた訓練も必要だ。

東日本大震災による高齢者福祉施設の被害(厚労省2011年6月)
東日本大震災による高齢者福祉施設の被害(厚労省2011年6月)




稲垣暁(いながき・さとる)
1960年、神戸市生まれ。沖縄国際大学特別研究員。社会福祉士・防災士。地域共助の実践やNHK防災番組で講師を務める。



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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1676号・2018年2月16日紙面から掲載

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