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2017年7月21日更新

自動車避難① 渋滞[防災コミュニティー]

[文・稲垣暁]昨年の熊本地震では、津波注意報発令で沿岸部の住民がパニック状態になり、多くが自動車で避難。渋滞になり車を路上に乗り捨てる人が相次ぎ、道路が機能しなくなった。一方、多数の人が避難所に入りきれず、自動車で暮らす生活を余儀なくされた。3回にわたり、自動車での避難を考える。

「誰が乗るか」冷静に考える

阪神淡路大震災の犠牲者について、NHKが当日亡くなった5千余人の遺体検案書を調べたところ、倒壊した建物の中で地震発生から1時間後も生存していた人が911人いた。5時間後も500人以上が生存し、救助を待ちながら亡くなっていった。近隣住民による救助が困難な状況で、なぜ公的な救助は来なかったのか。

大きな要因のひとつが「渋滞」だ。自宅から脱出した住民のうち、身内の安否確認や勤務先の被災確認に自動車で移動した人が少なくなかった。また、支援物資を積んだ自動車が被災地に集中した。一方、道路の多くに亀裂が入ったり、倒壊した建物や火災にふさがれ、各所で自動車が立ち往生していた。これらが救助隊の現場到着を阻んだ。

東日本大震災では、多くの自動車避難者が渋滞に巻き込まれ、津波の犠牲になった。翌年に起きた地震で津波警報が発令された際も、多くの住民が自動車で避難し、高台への道が大渋滞となった。現地で住民に聞いたところ、「今の自分たちにとって車を失うことは、死ぬということ」という切実な声が帰ってきた。



那覇市の自動車渋滞は全国ワースト。災害時はさらに激化し、救助や移動困難者の避難への深刻な影響は避けられない


避難所不足で車頼み

人も自動車もはるかに高密度な沖縄中南部の都市ではどうなるのか。那覇市の人口密度は約8千人で、熊本の4倍以上だ。那覇市の場合、町別人口と標高から推定して、海抜5m以下の低地に全世帯の20%以上、全就業者の40%以上の人が生活・就労する。県の自動車登録台数の伸び率は全国1位。那覇市の渋滞は日本最悪というデータもある。業務や通勤だけでなく、夕方には県外で例を見ない「お迎え渋滞」も起こる。直下型地震や津波襲来は、時間帯によっては悲惨な結末をもたらす可能性が高い。
危機感を持つ地域もある。10年以上前から津波避難訓練を行ってきた宜野湾市伊佐地区は、徒歩で基地内を抜けるルートを関係機関に交渉し、実現。だが、高齢者など移動困難者をどう確実に誘導するか、課題もある。外国人居住者も多く、必要最低限の自動車避難についてコミュニケーションが難しいのが現状だ。
大規模災害時、沖縄では多くの人が避難所に入りきれない可能性が高く、車での避難が余儀なくされることは間違いない。移動困難者の優先など、いざという時に住民が冷静に判断できる地域づくりが重要だ。

 

車併用、全住民が15分で高台へ

浦添市港川地区では、国道58号から海側の住民が国道方向の高台に避難する際、長く急な坂道を移動しなければならない。さらに収容避難所(港川小・中)までは、港川自治会事務所から約1キロ、沿岸部の港川崎原地区だと約2キロある。
使える道は沖縄電力に通じる道など限られており、災害時は事業所などの自動車等で道路がふさがる懸念がある。平時から渋滞も多く、災害時はさらなる混乱が予想される。地域には高齢者が多いが、速やかな避難や救助の到着は難しい状況だ。
そこで港川自治会では、遠回りで渋滞の起こりやすい道路を避け、私有地の小道を通って徒歩で高台に抜けられるよう所有者に交渉、許可してもらった。避難訓練や住民による草刈りなども行い、地域への周知を図っている。避難が必要になった時、小学校に通う子どもたちが学校避難所まで誘導する
さらに、災害時には移動困難者のため、該当者に自治会独自で自動車通行証を発行する。国道に抜ける道路を自治会員が誘導し、状況により坂の途中で乗り捨てて歩くことをルール化した。銘苅全郎会長は「とにかく住民全員が15分以内に標高25m地点まで移動できることを考えている。それには、非常時の自動車使用を地域で決めておく必要がある」。


徒歩による独自の避難ルートで避難訓練を行う港川自治会メンバー



[文]
稲垣暁(いながき・さとる)
1960年、神戸市生まれ。沖縄国際大学特別研究員。社会福祉士・防災士。地域共助の実践やNHK防災番組で講師を務める。


 

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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1646号・2017年7月21日紙面から掲載

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