防災
2017年5月20日更新
直下型地震② 避難所が遠すぎる地区[防災コミュニティー]
地震発生時、倒壊物や道路の亀裂、渋滞で避難所まで移動できない人は多い。熊本地震では、損壊した自宅に残った高齢者や障がい者が多くいた。避難所が遠いと移動はさらに難しい。一方、隣市の避難所の方が近い場合もある。地域でどう対策すべきか、前回に続き浦添市広栄地区から考える。
「隣市の方が近い」どうする?
広栄自治会から収容避難所の当山小学校に行くには、1.5キロも歩かねばならない。一時避難場所の公園からは1.4キロ。しかも、交通量の多い県道241号と国道330号が立ちはだかる。広栄地区は復帰前に造成されて以降、住民が「住民と建物がそのまま年をとった」というほど高齢者が多い地域だ。実際の災害時に避難するか住民に聞くと、「遠いから行かない」と声をそろえた。「自宅に住めない場合は、どうしますか」と聞くと、「うーん、困ったね」。
実は、自治会から隣接する宜野湾市嘉数地区の嘉数小学校までは800メートルで、距離は当山小学校の約半分。大きな道路を経由しなくても行ける。嘉数小学校に避難するか聞くと「隣町で道も遠回りだと思ったから、あまり考えたことがなかったわね」。
そこで、自治会と浦添市中央公民館による防災講座の講師として、市が発行する防災マップを使って住民と考えた。防災マップは航空写真上に大規模断水時に必要となる井戸も表示され、分かりやすい。ただし多くの自治体と同じく、自市の情報しかない。緊急時、市境付近の住民は隣市の避難施設が近ければそこに行くのが現実的だが、地図では判断できない。
講座で使ったスライドを掲載する。①は浦添市の防災マップ、②は同じ縮尺のグーグルマップに自治会から直線距離で500メートルと1キロの同心円を入れたもの。収容避難所の当山小学校は直線距離で1キロ以上ある一方で、1キロ圏内には隣の宜野湾市が指定する収容避難所が3カ所、一時避難場所に指定する公園も3カ所ある。
①浦添市防災マップ ②同じ縮尺のグーグルマップに直線距離を示す円と避難場所を入れた。浦添市の指定避難所は1キロ圏外だが、隣の宜野湾市だと500メートル圏に避難所が3か所もある
地域の利点とリスク 避難マップで明確に
古い建物が多い広栄地区では、熊本地震のような連動した揺れの可能性を考えると自宅に住み続けるのは難しい。だが、指定された収容避難所は遠く、行っても満員だ。厳しい状況に、参加者は「地区内の学校給食調理場など、避難場所にならないか話し合いたい」と真剣だった。
講座で行ったように、各地域でも行政の防災マップと比較するかたちで避難マップを作ってみてはどうだろうか。地域の利点とリスクが明確になり、問題点を行政にも訴えやすい。比嘉勝昭自治会長は、「地域でいま一度避難の課題を話し合ってみて、自分たちで解決できない部分を行政に訴え、一緒に動いてもらうことは必要だ」と話した。
<古い住宅 耐震化以外にできること>
古いコンクリート賃貸住宅の需要は、低くはない。家賃が安く、市街地にあり便利なため、高齢者など経済的に厳しい住民が多くなる。浦添市の古いアパートに住む年配婦人は、「郵便局も病院も近く、とても便利。孫もよく来る。古いけど問題はないので、住み続けます」という。
高齢者は資金や家主の事情もあり、耐震補強や転居は難しい。安心して住み続けるには、まず自分でできることを考えよう。最重要なのは、避難・救助経路の確保だ。玄関や窓の枠が耐震化されていないと、強い揺れによるわずかな変形でも開かなくなる。そんな時、窓ガラスを割って逃げることになる。①ハンマーなどを分かりやすいところに置く②格子は速やかに外せる処置をしておく③2階以上の場合ははしごを④通路に転倒物を置かないことが必要だ。
閉じ込められると最も怖いのが火災と津波だ。火災は、建物自体が燃えにくくても家具や衣類など燃えるものはたくさんあり、猛烈な熱と煙が避難と救助も不可能にする。共同住宅で廊下に煙が充満した場合を考え、バルコニーからも脱出できるようにするなど、「2方向避難」の徹底が必要だ。。
古い建物でも便利さと家賃の安さから住む人は多い。コンクリートの剥離が目立つこのアパートも満室である
[文]
稲垣暁(いながき・さとる)
1960年、神戸市生まれ。沖縄国際大学特別研究員。社会福祉士・防災士。地域共助の実践やNHK防災番組で講師を務める。
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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1637号・2017年5月19日紙面から掲載