防災
2018年1月19日更新
狭い階段を4階より上へ[防災コミュニティー]
[文・稲垣暁]沿岸にいる際に津波警報・注意報が発令された時、あるいは大きな揺れを感じたが情報がない時、ただちに高台か高い建物の上階に避難しなければならない。行政が津波避難ビルに指定する建物もようやく増えてきた。だが、実際の災害や警報発令時には課題は多い。
津波避難① 避難ビルの実際
津波避難のための建物には、行政が退避場所やスロープを設置した専用ビルと、マンションなどを一般市民が避難できるよう指定した「津波緊急一時避難ビル」がある。ほとんどは後者で、平時はエレベーター移動が前提のビルだ。地震発生時のエレベーター使用は危険で、大きな揺れを感じると自動停止する。ほとんどの階段は1人が通れる程度の幅しかない。
高齢者や移動困難者は上がるのに時間がかかる。基本的に手すりは片側しかないため、体の片方にまひがある人や視覚障がい者にとっては厳しい。逃げる速度が遅い人が上がっているところに人が殺到すると、パニックや将棋倒しが起こるおそれがあり、高齢者、障がい者、子どもには極めて危険な状況だ。
避難場所は、マンションの場合は建物の廊下で、すぐ満杯になる。一般に安全圏とされる「3階」はすぐに埋まるので、さらに上の階を目指さなければならない。
狭い階段で園児を背負って上がるには時間がかかる。上の階に行くほど高齢者も上りきれない。群衆パニックなどの危険性が感じられた。
地域外からも流入
津波避難ビルの数はどうか。行政がホームページで公開する防災マップでは、那覇市若狭1~3丁目(人口4500人)の場合、町内の津波緊急一時避難ビルは5カ所。波之上宮も含まれる。住民全員が5カ所に入りきるのは難しい。
東側に隣接する松山、前島、久米3町の人口は9200人で、那覇市津波避難ビルやホテルを含む21カ所が避難ビル指定される。若狭の倍の人口でビル数は4倍だが、住民以外に観光客や飲食客と従業員など地域外からの流入者が多い。特に夜間は激増する。この地区の住民は津波警報とともにどう行動すべきか、考えておかねばならない。
津波は繰り返し襲来するため、警報解除まで長時間とどまる必要があり、半日以上かかることもある。東日本大震災後、宮城県の石巻市職員から「第1波で自分も流された後、山の中でかろうじて生存できた。深夜まで数度にわたり、すぐ近くまで波が来た」と聞いた。夜の方が第1波より高かったという。
ビルの長時間避難は、体調や衛生に大きな問題が起こる。最大の課題はトイレだ。入居者がトイレを貸してくれても、大規模断水では使えない。数百人がどうやってこの状況をしのぐか。地域ごとに議論する必要がある。
住民の避難先を可能な限り地域で共有し、足の早い人は極力国道58号以東の安全地帯に避難するなど、地域で考えることが重要だ。
避難先・持ち出し品 平時から準備
津波避難ビルへの避難者には、保育園から避難してきた園児もいる。東日本大震災で、岩手の被災地にある保育園が避難とともに持ち出したものを見ると、年齢に合った飲食と「情報」を重視していることがよく分かる=下表。
命に関わる厳しい状況だったが、保育士は常に笑顔と冷静さを失わず、子どもたちは弱音をはかずよくがんばったという記録が各保育園に残されている。沖縄県内でいくつかの保育園の避難訓練に立ち合ったが、どの園も子どもたちは落ち着いて行動していた。保育士の平素からの努力が伺われた。
ただ、避難ビルに多くの人が殺到した時、大人の視界に子どもは入りにくく、子どもは危険な状況になりやすい。中部地区での親子避難実践では、親がこうした危険を考え、津波避難ビルへの避難をためらった。実際、過去の震災では避難場所の階段に避難者があふれ、移動もままならない状況だった。トイレも困難を極めた。
避難先でどのようなことが起こるかを具体的に想定し、平時から避難先と持ち出し品を決めておく必要がある。
沖縄市の児童センターと保育園による、津波緊急一時避難ビルへの避難訓練。実際の災害や警報発令では、場合によっては半日以上この状態でとどまることになる。
3・11 津波避難で岩手県の保育園が持ち出した品
水(2リットルペットボトル6本)/粉ミルク(1缶)/哺乳瓶(3本)/おやつ(60人の子どもたち1日分)/懐中電灯(1本)/おんぶひも(乳児全員分)/ノートパソコン(子どもたちの連絡先や家族の勤務先等の情報が入っている)/子どもたちの個票に記載してある情報の一覧表(保護者緊急連絡条、出席表など)/おむつ(1袋)/保育所備品の携帯電話/ラジオ
稲垣暁(いながき・さとる)
1960年、神戸市生まれ。沖縄国際大学特別研究員。社会福祉士・防災士。地域共助の実践やNHK防災番組で講師を務める。
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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1672号・2018年1月19日紙面から掲載