お住まい拝見
2024年2月16日更新
宙に浮いたような家|(株)翁長設計[お住まい拝見]
[約30度の傾斜地 鉄骨柱で支え]
土地購入の費用を抑えるため、Fさんは相場よりも安い傾斜地を選んだ。角度が約30度の傾斜地に住宅は突き出し、鉄骨の柱3本で支えられた外観はまるで宙に浮いているようだ。
家も設備も費用かけ
Fさん宅
鉄骨造/自由設計/家族3人
自分で平面図を作成するほど、住まいのイメージが明確だったFさん。家づくりは土地探しからスタートした。
「平屋で開放的なリビング」や「インナーガレージ」など住宅にお金をかけたいと思い、平地よりも価格が安い傾斜地を選んだ。購入したのは西から東へ下る幅広の傾斜地。高低差約5メートルで傾斜は約30度もあった。
最初に相談した建築会社からは鉄筋コンクリート造の住宅を提案され、盛り土などの造成工事が必要となった。夫婦は「工事が必要となると、費用が予算の倍以上かかると知って、驚いた」と振り返る。地形を生かしたまま建てられる会社をネットで探し、傾斜地に鉄骨で建物を手がける施工会社を発見。「鉄骨なら、スタイリッシュな家になりそう」と設計を依頼した。
鉄骨の柱3本で住宅を支えるプランを提案され、費用を抑えることに成功。Fさんは「その分、設備面を充実させることができた。家やガレージの車をかっこよくライトアップする“魅せる”照明は特にお気に入り」と満足げ。ほかにも、太陽光パネルと蓄電池を設置したり、外壁材は太陽光で汚れが落ちるものを使ったりしている。
約40帖のLDK。幅3.8メートルの3枚引き戸を二つ横並びにしたことで、室内からでも街の様子が一望できる
夜の外観。照明が玄関までのアプローチをかっこよく照らす
愛犬が走れ回れるほど、奥行きのあるテラスとなっている
インナーガレージ。写真中央の扉から直接LDKと行き来できる
台風時も問題なく
室内は約40帖にもなるLDKが印象的だ。3枚引き戸を開けると、横幅が約17メートルのテラスまでつながり、より広々とした空間となる。夫婦は「普段はLDKでまったり。視線も空まで抜けるので気持ちがいい」と笑う。また、LDKの南側に各居室、北側に水回りをあえて距離をとって、配置した。「生活動線を短くせず、LDKを必ず通り、自然と家族が顔を合わせられる家にすることも譲れなかった」。
新築祝いは友人ら25人を招待。テラスに机を並べ、バーベキューでおもてなし。訪れた人からは「3本の柱だけで支えているけど、大丈夫なの」と心配する声もあったという。Fさんは「台風時の強風でも被害を受けることなく、無事に過ごせました」と笑顔で話した。
ここがポイント
3本柱で地盤負担を軽減
Fさん宅を建てるにあたり、建築士の翁長武仁さんが重要視したのは「地盤調査」。「安定した地盤だと分かれば、盛り土などの造成工事をせず建てられる。造成すると手間もコストもかかるうえ、土砂崩れを引き起こす可能性を高めてしまう」からだ。調査の結果、Fさんの敷地は固い地盤が地表付近から続いていることが分かり、地形をそのまま生かすよう計画した。
コストと安全性の兼ね合いから、通常よりひと回り大きいくいを支持地盤まで打ち、その上に3本の鉄骨柱を設け、建物を支える工法を採用。「地盤への負荷を抑えるため、基礎に使う鉄筋コンクリート(RC)を最小限に。住宅もRC造より軽い鉄骨造にした」。
傾斜に突き出た住宅が下からの吹き上げに耐える構造も重要だった。構造設計を手がけた清水真さんは「突き出た住宅の床にあたる部分をRCの基礎に固定=下写真○部、立面図参照。これにより、基礎に住宅の床部分にあたる鉄骨を引き寄せる力が生まれ、台風時などの強風にあおられても下で支える柱3本が倒れないようになっている」と説明する。鉄骨の柱は住宅接合部をトラス(三角形の構造)にすることで、より強度を高めている=下写真□部。
傾斜に奥行きが8メートル以上、横幅が約17メートル突き出た住宅を鉄骨の柱3本で支えている。また、写真右側の土地を活用できるよう、住宅は敷地の南側に寄せている
RCの基礎が鉄骨を引き寄せることで、傾斜に突き出した部分と柱に発生する吹き上げの影響を軽減している
居住性を高めるため、施工を手がけたOSPが開発した軽量の構造断熱パネルを屋根や外壁に採用。代表の松尾宏樹さんは「鉄骨造は断熱性の低さがネックだが、パネルで覆うことで外気の影響を受けにくくした。断熱性と気密性は太陽光パネルなどを備え年間エネルギー消費量を収支ゼロにするZEH(ゼッチ)の基準をクリアしている」と話す。室内は柱や間仕切り壁を極力省き、LDKが開放的な空間に。隣接するテラスの軒天を1・7メートルと深めにとり、直射日光をカットした。
地形に合わせて柱の角度をつけることで、余計な力が柱に対して発生しないようになっている
水回り。2人同時に使える洗面台を取り入れた
ガラスで囲んだ中庭をLDKに隣接させ、採光を確保しつつ、開放感も演出
[DATA]
家族構成:夫婦+子ども1人
敷地面積:959.02平方メートル(約290坪)
1階床面積:155.40平方メートル(約47坪)
建ぺい率:22.86%(許容50%)
容積率:16.20%(許容100%)
用途地域:第1種低層住居専用地域
躯体構造:鉄骨造+構造断熱パネル
企画設計:(合)OSP
設計:(株)翁長設計 翁長武仁 吉田康平
構造:シンシア構造計画一級建築士事務所
施工:(合)OSP
◆問い合わせ
(株)翁長設計
電話=098・877・5609
onaga-okinawa.com
撮影/矢嶋健吾 文/市森知
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1989号・2024年2月16日紙面から掲載