お住まい拝見
2025年6月13日更新
[お住まい拝見]檜香る小さな家|カメアトリエ
[21坪でもゆったり]
憧れだった檜(ひのき)屋根の住まいを実現したS邸。建築費高騰のあおりを受けて約21坪とコンパクトになったが、小屋組みをあらわにした高い天井やキッチンの幅を抑えるなどの工夫で、ゆったりとした空間となっている。

三角の木造屋根「トラス」があらわになった温かみのあるLDK。正面の大きな木サッシ窓や屋根側部のはめ込み窓から視線が抜け、床面積以上の広がりを感じさせる
ちょうどいいサイズ
Sさん宅
補強CB造+木屋根(一部RC屋根)/自由設計/家族4人
S家のマイホーム取得は難航した。完成見学会で見た檜(ひのき)屋根の家にほれ込み、「檜に包まれた暮らしがしたい。そして、小さくてもいいから子ども達が遊べる庭がほしい」と土地探しを始めた。しかし、「いつも予算オーバー。土地購入+新築は無理なのかな、と心が折れそうになった」と話す。
3年が過ぎたころ、当時住んでいた借家のオーナーとの立ち話で「土地を探しているけれど、なかなか見つからなくて…」とこぼした。すると「借家の斜め前にあった畑の地主を紹介してくれ、予算内で土地を分筆して売ってもらえることになった」。
ようやく、檜屋根の家を手がける建築士に依頼した。

広々としたLDK。テレビの裏側には寝室があり、天井を介してつながっている。家族が集うLDKと寝室だけは「檜の屋根にしたい」とのこだわりを形にした
収納もたっぷり
設計段階でも、予算との戦いは続いた。建築費高騰のあおりを受けて「当初は23坪を予定していたけれど、21坪と少しコンパクトになった。でも削ったのは倉庫と玄関土間で、室内空間はほぼ希望通り。どこにいても家族の気配を感じられる、ちょうどいいサイズ感」とSさんは話す。
LDKは、熱望していた檜の屋根があらわになった開放感あふれる空間。屋根の側面がガラス張りになっていることも、明るさや伸びやかさを引き立てている。
ダイニングそばの大きな木製サッシ窓を開けると、大人が足を伸ばしてくつろげるヌレエン、その先には芝庭がある。外で遊ぶ娘たちを見ながら「諦めずに、庭のある家にして良かった」と目を細めるSさん。

芝庭でくつろぐSさん一家。中央の木サッシ窓の向こうにLDKがある。また、網戸の代わりに普段使い出来る「すのこ戸」を設置している
夫人は「意外と収納もたっぷりある」とうれしそうに話す。テレビの周りには大容量の造作棚、キッチンの隣にはパントリー、寝室にはウォークインクローゼットがあり「散らからない、とは言えないけれどすぐ隠せる」と笑う。
個室は寝室と子ども部屋の二つ。ドアは付けなかった。「どうせ開けっ放しにするから要らないよね、って。必要になったらのれんでも付けようかな」。小さな家でおおらかに暮らしている。

娘2人の子ども室。クーラーはここと寝室のみだが「家中涼しい」

リビングの裏側にある寝室。こちらも檜屋根に包まれた心地よい空間
ここがポイント
キッチンの幅削り
奥行き広げカバー

「小さくてもゆとり」の肝となったキッチン。幅を削り、奥行きを広げた。そのため、水栓と水切りラックの位置を逆にした
三角(トラス)の屋根は、高強度で耐朽性のある檜(ひのき)。壁は耐水性の高い防水ブロック。この二つを組み合わせた「トラストブロック造」はカメアトリエの建築士・亀崎義仁さんが考案したセミオーダー建築。間取りは自由だが、統一サイズのトラスとブロックを用いるため「セミ」だ。
「Sさん宅で11棟目だが、今回が最小規模だった」と話す。そのため「小さく建て、ゆとりを持たせることがポイントとなった」。
最も象徴的なのがキッチン。「横並びにあるダイニングに圧迫感を与えないよう、幅を抑えた。一般的なキッチンは2メートル60センチ前後だが、S邸では2メートル35センチにした」
その分、奥行きを広げて作業スペースを確保。一般的な奥行きは65センチ程度だが80センチに広げた。「奥は作業ゾーンに属さない空間。調味料や調理道具を置くなど実用的に使えるだけでなく、ドリンクやタブレット、ブルートゥーススピーカーなどを置いて『ながら料理』が楽しめる」と話す。

奥行きを広げてできた空間(緑色の部分)は、建築士の亀崎さんいわく「Chill(チル)ゾーン」。「チル」とは「落ち着く、ゆったりする」などの意味があり「作業ゾーンに属さないゆったりしたゾーン。ここにドリンクやタブレット、ブルートゥーススピーカーなどを置いて“ながら料理”が楽しめる」と説明する。また、水切りラックと水栓の位置を逆にして、「皿を目立たせないようにした」。
一方で、「蛇口の位置が遠くなると使いづらい。それを避けるため水栓を横に設置して、水切りラックを奥に置いた」と、逆転の発想でカバー。この水切りラックは引き出し式で伸縮可能な既製品。亀崎さんも愛用している。「このラックと、裏側から見てもデザイン性の高い水栓製品のおかげで、機能も見た目もいい感じに仕上がった」と話す。
S夫人は「最初は違和感があったけど、すぐに慣れた。今はすごく使いやすい。水栓が横にあると子どもたちでも手が届きやすいのもメリット」と話した。

水栓が横にあると子どもも手が届きやすい
[DATA]
家族構成:夫婦+子ども2人
敷地面積:205.73坪(約62.23坪)
1階床面積:70.57坪(約21.34坪)
建ぺい率:36.49%(許容60%)
容積率:34.31%(許容200%)
用途地域:指定無し
躯体構造:補強CB造+木造(一部RC)
設計:カメアトリエ 亀崎義仁
構造:前田建築設計事務所 前田耕司
施工:(株)尚建 新垣維浩
木造トラス:(株)合掌 原田量治
キッチン:リッタイメタルワークス 仲地研二
植栽:座安樹苗園 座安正通
◆問い合わせ
カメアトリエ
電話=098・836・7221
https://www.cameatelier.com
撮影/矢嶋健吾 文/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2058号・2025年6月13日紙面から掲載