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2025年6月20日更新

[お住まい拝見]大らかな“半外”の家|ハンソト

[混構造 陶芸工房も設え]
陶芸家・谷口室生さんの自宅兼工房は南側の半屋外空間「ハンソト(半外)」が何よりも印象的だ。幅・奥行きのある半屋外が室内に大らかさをもたらす。住まいはブロック壁+木屋根の混構造ながら、外壁を杉板仕上げにしたことで目を引く外観となった。


南側の庭から見る外観は「ハンソト」の魅力が一目で分かる。軒先から外壁までの奥行きは2メートル、横幅は左側の工房(室生窯)から右側の居住エリアまで延び、約19メートルとぜいたくな半屋外空間だ。室内だけではなく土間も日陰になるため、「外でも心地良い」と谷口さん夫妻は話す

外も内も居場所
谷口さん宅
 CB造+木屋根/自由設計/家族4人 

陶芸家の谷口室生さんの自宅兼工房は半屋外空間「ハンソト(半外)」がもたらす居心地の良さを存分に感じられる造りだ。

その横幅はなんと約19メートル。西側の工房から東側の住宅まで木の列柱が整然と並び、軒先から外壁までの奥行きも2メートルとゆとりを持たせたことで、「室内は常に日陰。以前暮らしていた住宅は壁や天井から熱波が押し寄せてくる感じだったけど、格段に住み心地が良くなった」と室生さんはほほ笑む。

LDKの木窓を開け放てば、風が通り抜け、室内外が一体となったがらんどうの大らかな空間となる。妻は「窓際に腰かけたりハンソトに椅子などを出したりして、第二のリビングのよう。南向きに180度広がる山々の風景を堪能できる居場所が中も外もあるのがいい」と話す。


LDKは床や構造材の梁などのほかにも、木製家具や建具で統一感のある雰囲気に。天井高さは高いところで約3.5メートルあるため、南側に隣接するハンソトと相まって縦横に広がりのある室内となっている


物が少なくシンプルなLDKは照明器具や造作キッチンがアクセントとなっている

また、北西にある駐車場から室内までは工房を横目にハンソトを通ったり、工房から直接居住エリアに行き来できたりする。室生さんは「完全に分離せず、暮らしの中に創作の場を感じられる動線を意識して、職住一体でもコミュニケーションが取りやすい造りにしました」と話す。


玄関を抜けると工芸品がお出迎え。右がLDK、左が工房などに続く


子ども室もLDK同様、縦に広がりのある空間。二段ベッドを置いても圧迫感がない

窯も造り 創作に集中

家造りは、「ゆくゆく敷地内に窯も設置したと考えていたので、土地探しに苦労しました」と夫妻。窯入れした際に出る煙が周辺に影響を与えない広い敷地を探す中で、「静けさに加えて豊かな自然に引かれた」と本部町の土地を購入し、設計を十年来と旧知の仲の建築士に依頼した。

家族ぐるみで仲が良かった建築士とは食事などの際には住まい像を共有。「窯などの費用もあったことから建築費を抑えられるようにと、分離発注方式の工事を提案してくれた」。自宅兼工房の工事と並行して、窯も庭の一角に造ることができ、「長年思い描いていた家が完成し、最高の環境でやちむん造りにも集中できる」と室生さんは話した。


谷口室生さんの工房「室生窯」。土練りから成形、乾燥、絵付け、そして庭にある窯での焼成まで行う


窯(左)と自宅兼工房の間は野球に打ち込む子どもたちがバッティングの練習ができるスペースも

ここがポイント
木壁で耐候・意匠性 備え


キッチンから見るLD。木サッシの窓にはカーテンを設けていないため、室内からやんばるの山の風景が一望できる。取材日はさんさんと日差しが照っていたが、風が抜けて心地よかった

谷口さん宅の敷地は前面道路が北側にあり、ほか3方向にはやんばるの山々の大パノラマが広がっていた。そのため建築士の仲地正樹さんは山々へ視線が抜ける開放的なプランを提案。そのカギとなったのが南側の半屋外空間「ハンソト」だ。

「壁・床のない居住空間と捉えることで、住まいの約4割を工房が占めたとしても、広がりを感じられる」と仲地さん。真夏日でも日陰の室内を造る「緩衝帯」にもなるほか、内装仕上げは不要のためコストカットのメリットもある。


木の列柱が奇麗に並ぶハンソト。日射を遮る緩衝帯となるだけではなく、第二のLDになったり工具や資材を置いたりと、その使い方は実に多い

また、「住宅性能を高めてくれることもハンソトの魅力の一つ」。構造体であるコンクリートブロック(CB)の外側に杉板を貼っているが、深い軒と杉板のおかげで劣化要因である雨水や紫外線などがCBに直接当たらず、耐候性を高めている。「手入れのしやすい仕上げや造りなどを工夫すれば、木を多用しても十分な耐久性を確保できる」。杉板の外壁にしたのも、「仕上げの費用が抑えられるし、CBとの間に空気層が生まれるため。緩衝帯に加えて、杉板+空気層の防護層をつくれる上、外観デザインにもつなげた」。


外装仕上げにブロックの上に杉板を貼ったため、一見すると木造住宅のよう

厄介な「湿気」にも蓄積した経験則から対策を徹底した。仲地さんは「軒先と天井面に通気口を設け、高温多湿になりがちな屋根裏まで空気の巡りを良くした。湿気による木や断熱材の腐食防止になり、目の届かない細部でトラブルが発生しないように計画した」と話した。


[DATA]
家族構成:夫婦+子ども2人
敷地面積:858平方メートル(約260坪)
床 面 積 :133.66平方メートル(約40坪)
建ぺい率:15.57%(許容60%)
容 積 率 :15.57%(許容200%)
用途地域:未指定
躯体構造:コンクリートブロック造
     +木屋根
設  計:ハンソト 仲地正樹
躯体施工:(株)ヒコ建
木 工 事 :合同会社ハイゲ
設  備:南電水
キッチン:LITTAI

問い合わせ
ハンソト
電話=0980・51・9027
https://www.instagram.com/hansoto.o
撮影/比嘉秀明 文/市森知
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2059号・2025年6月20日紙面から掲載

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週刊タイムス住宅新聞編集部

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