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2023年9月8日更新

アパートなのに家賃非公開、入居者募集もなし|家族のように思える人と|コミュニティアパートができるまで⑥

文・写真/守谷光弘(「コミュニティ・アパート 山城のあまはじや」オーナー)

アパートなのに家賃非公開、入居者募集もなし

家族のように思える人と

アパートを建てたという話をすると、多くの場合「家賃はいくら?」「入居者募集している?」と質問を受けます。本紙の購読者の方々もご興味があるかもしれませんので、今回はこの点についてお話しをしようと思います。

まず家賃ですが、これは“非公開”にしています。「えっ? 家賃非公開でどうやって入居者を募集するの?」となるので、「実は入居者を募集したことはない」と答えます。わずか3室なのでそのくらいなら友人知人だけとか、SNSで発信するだけでも埋まるのかも!? と思う方もいると思いますが、多くの人がここまでのやりとりでキツネにつままれたような表情になります。そこで私の考えるコミュニティの在り方として、一般的なアパートの大家と賃借人の間柄ではなく、家族のように思える関係性を目指していることを説明します。お互いにそのようになりたいと思える、またなれるだろうとの予測から、双方にその覚悟が出来た場合にのみ、その先の説明を最低2時間以上掛けて話していると答えます。「家族は募集するものではなく、同じ時間や経験を共有する中で自然にそうなるもの」と考えるからです。

みんなで一緒にギョーザを皮から手作りみんなで一緒にギョーザを皮から手作りみんなで一緒にギョーザを皮から手作り
 

ある日の晩ごはん。4世帯でおかずを持ち寄ると、バラエティー豊かな食事に
る日の晩ごはん。4世帯でおかずを持ち寄ると、バラエティー豊かな食事に


ハードとソフトに納得
十分検討した上で入居


すると「そう思えるような人とどうやって出会うの?」となりますが、不思議にもこれもその時々で自然に出会えて今に至ります。事実、山城のあまはじやは昨年10月末に完成して、大家の私とパートナーが入居したのが11月、工事関係者全員を集めた打ち上げを12月に開催し、この席に参加した工事関係者の家族が今年3月末に入居して、その後は建築中や完成後に見学に来た友人が、6月、7月と立て続けに入居してくれたので、こちらからは一度も誰にも声をかけていないのです。

6月、7月に入居してくれた友人はそれぞれに、それ以前から何度も足を運んでくれて、希望する部屋にお試し宿泊を重ねながら、われわれとの相互理解を深める中で入居を決めてくれました。大家としては、ハードとソフトの両方に十分な納得をしてもらってから、十分な検討をした上で入居を決めてもらいたかったわけです。「それなら家賃はお友達価格なんじゃない?」と追加の質問を受けそうですが、これについては入居者目線で見学に来た友人には必ず「沖縄の一般的なアパート、マンションの家賃の2倍は覚悟して」と初めに言っていたことから、それなりの金額を想像してもらえたらと思います。


伝統文化・技術を継承
家賃は未来への投資


私が入居者にお願いしていることは、「家賃を大家に支払う月決めの部屋代として考えないでほしい。この大切にすべき沖縄の伝統文化や技術を、100年後、200年後の沖縄に継承すべく、“未来に向けた投資”として捉えてもらい、私と一緒に同じ立場で投資していると考えて」ということです。

3世帯共通の最低金額を設けてはいますが、各世帯は経済状況がそれぞれに違いますし、共用スペースを最大限に活用すれば水道光熱費、インターネット代、駐車場代も掛かりません。その分も家賃相当額に含めて考えてもらった上で、各世帯の懐具合によって投資金額の上積み部分の金額も支払い日も、入居者の都合にお任せしています。入居者を“家族”と思うことが出来れば容易なことですが、このアパートを賃貸事業として捉えるのは、少し難しい実状はあります。


 


もりたに・みつひろ
1966年東京都世田谷区出身。2007年より沖縄県在住。「コミュニティ・アパート 山城のあまはじや」オーナー 兼 管理人 兼 住人。糸満 海人工房・資料館を運営するNPO法人ハマスーキ理事。2020年、小規模土地分譲『等々力街区計画』の街区デザインでグッドデザイン賞受賞    


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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1966号・2023年9月8日紙面から掲載

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