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2023年6月9日更新
親戚以上のご近所づきあい|コミュニティアパートができるまで③
文・写真/守谷光弘(「コミュニティ・アパート 山城のあまはじや」オーナー)
少し変わった実家の土地分譲で実験!
親戚以上のご近所づきあい
亡父が実家の土地を購入した60年ほど前の等々力(とどろき)(東京都世田谷区)は、典型的な新興住宅地でした。最寄りの「等々力駅」から実家へ向かう途中には川が流れていて、この川に架かる橋の名前が「ゴルフ橋」だったことからも分かるように、宅地として開発される前にはゴルフコースがあって、東京23区唯一の渓谷が残された周囲には緑も多く、市街地化が進む中でも自然環境が豊かな地域でした。
同時期に土地を購入して家を建てたご近所とは、全員が他地域から来た者同士故にご近所づきあいを積極的にしたのかは分かりませんが、向かいの家と両隣の家とは特に仲良くしていて、父親たちは定期的にマージャン卓を囲み、母親たちは食事や飲み物を用意しながら井戸端会議に花を咲かせ、子どもたちは遊びに興じていました。
親が外出して居なければ子どもは誰かの家に遊びに行き、おなかが減ればその家で食事をごちそうになり、親の帰宅が遅ければお風呂にも入れてもらって、親が迎えに来るまでその家で寝てしまうこともしばしばあったように覚えています。隣家の親たちが分け隔てなく接してくれたので、年の離れた姉と兄が留守でも私は遊び相手に困ることも寂しい思いをすることもなく済みましたから、当時は親戚以上の関係性だったと思います。
また海釣りが趣味だった父は、大漁の時にはご近所に魚を配って歩いたので、どこの家には何人の家族が居るとか、魚が好きか嫌いかとかも知っていましたし、後日返礼をもらうようなこともある中で交流が深まったこともあったようです。
上写真は2020年度グッドデザイン賞を受賞した小規模土地分譲(街区デザイン)『等々力街区計画』のキービジュアル。下写真はその完成後の様子。https://www.g-mark.org/award/describe/50814
3人の弟と3人の妹
7人の孫を得たよう
今、私が糸満市のコミュニティ・アパート「山城のあまはじや」で取り組んでいることは、この子どもの頃に感じたご近所づきあいの在り方と、その心地よさを取り戻したいことにほかなりません。両親が亡くなり等々力の実家を処分することになった際にも、良好なご近所づきあいが出来る環境を東京で暮らす一人娘に引き継ぎたく、少し変わった土地の分譲を企画しました。端的に言うと「密なご近所づきあいを望む方に限定して販売します」としたのです。
亡父が土地を購入した時とは異なり、かなり高額な土地を購入するにもかかわらず、ご近所づきあいを強制された上に庭木や外構工事にも口を出す売り主に、付き合ってくれる買い主が果たしているのか? これも一つの実験でした。幸いにもこのわがままな提案「等々力街区計画」に共感してくれる家族が3世帯集まって、一人娘が住む家とで4軒のご近所づきあいが始まり4年目を迎えています。
このことで私は3人の弟と3人の妹、そして7人の孫を得たような気持ちになり、暗く誰も居ない空き家があった土地は、常ににぎやかな子どもたちの声が聞こえ、明かりがともる場所になりました。この取り組みは2020年度のグッドデザイン賞を受賞しました。
もりたに・みつひろ
1966年東京都世田谷区出身。2007年より沖縄県在住。「コミュニティ・アパート 山城のあまはじや」オーナー 兼 管理人 兼 住人。糸満 海人工房・資料館を運営するNPO法人ハマスーキ理事。2020年、小規模土地分譲『等々力街区計画』の街区デザインでグッドデザイン賞受賞
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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1953号・2023年6月9日紙面から掲載