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2024年1月5日更新

人にも自然にも優しい|アトリエ ガィィ[お住まい拝見]

[沖縄仕様のパッシブハウス]
「自然を守り、快適に暮らせる家」を追い求める深田さん夫妻が選んだ、世界基準の省エネ住宅「パッシブハウス」。沖縄初の認証を受けた木造住宅には、地元愛と伝統の知恵が詰まっている。

外観。外壁は赤土壁と焼杉で仕上げ、かつてヤンバルの集落で多く見られたチヌブ(竹垣)をモチーフにした木格子も印象的。建物正面に見えるコンクリートの立ち上がりは、基礎の一部。浸水防止のため、地盤面からかさ上げした
外観。外壁は赤土壁と焼杉で仕上げ、かつてヤンバルの集落で多く見られたチヌブ(竹垣)をモチーフにした木格子も印象的。建物正面に見えるコンクリートの立ち上がりは、基礎の一部。浸水防止のため、地盤面からかさ上げした
 

年中不快な湿気なし

深田さん宅
 木造/自由設計/家族4人 

一年を通して家中の温度は20~26度、湿度は65%以下。「夏涼しく、冬は暖かい。不快な湿気、カビとの戦いが全くなくなった。24時間空調・換気で光熱費は真夏も月1万円以下。使うエネルギーも維持費も相当減りました」と妻。

断熱材や高性能な窓、熱を逃さず新鮮な空気に入れ替える換気システムを取り入れ、気密性、断熱性を高めたドイツ発祥の超省エネ住宅「パッシブハウス」。その認証基準をクリアした木造2階建ては、スキップフロアと段差を生かしたオープンな造り。1階に個室、中2階に水回りをまとめ、LDKと和室、テラスは2階に。リビングの床と天井の一部は格子で、家全体の空気がスムーズに巡る。

夫婦ともに、大学時代に環境について学んだ。ヤンバルの自然に感動し、深田さんの祖父のルーツである名護市へ移住した。川のほとりの緑豊かな地域。共働きで、子ども2人を育て、「時短のためにエアコンも家電製品も欠かせない。私たちのライフスタイルに合わせながら、環境負荷をどう減らすか。暮らしの“負”を家全体で解決できるエコな家」を求め、パッシブハウスにたどり着いた。
 

木の香りにも癒やされる2階のLDK。空気の循環を考慮して、中央部の床と天井の一部を格子にしている

木の香りにも癒やされる2階のLDK。空気の循環を考慮して、中央部の床と天井の一部を格子にしている
 

キッチンから小上がりの和室を見る。段差を利用して効果的に空間を区分け。和室の下部は大容量の収納で、奥には机が設けられている
キッチンから小上がりの和室を見る。段差を利用して効果的に空間を区分け。和室の下部は大容量の収納で、奥には机が設けられている

玄関先に掲げる、パッシブハウスの認証プレート

玄関先に掲げる、パッシブハウスの認証プレート



体感し交流する場

家づくりのパートナーに選んだのは、「自然と調和する東洋的な思想を持っていて、独自性のあるデザインと設計で表現していることに共感した」建築士事務所。普及に取り組む団体の講演会、勉強会に夫婦で参加し、台湾の建築事例も見学。意見交換と試行錯誤を重ね、沖縄に根差した理想形が完成した。

外壁の赤土壁は、地域の人や大学生と一緒に塗り上げた。「シワやヒビも愛着に」。

健康で快適、より低炭素な暮らしができるヤンバルの環境住宅モデルとして、ホームステイの受け入れも計画。深田さんは、「体感してもらうことで、地域とエコな暮らしに関心を持つきっかけになれば。豊かな自然と風景を守っていきたい」と、力を込めた。
 

2階、LDK西側に隣接するテラス。チヌブ(竹垣)を応用した斜め格子は遮熱に加え、耐震強度を高める役割も担う。もれ入る光と風が心地いい。縁台をベンチがわりに、お茶を飲んだり、パソコン作業をするにも重宝
 

玄関は階段を上った2階にある。木製の格子戸を開けた先にテラス(上写真)がある

玄関は階段を上った2階にある。木製の格子戸を開けた先にテラス(上写真)がある

中2階の洗面・脱衣室。勝手口の外は格子で目隠しした物干し場で、洗濯もスムーズ
中2階の洗面・脱衣室。勝手口の外は格子で目隠しした物干し場で、洗濯もスムーズ
 

リビング上部、吹き抜けになった越屋根。タバコ乾燥小屋にヒントをえた。格子床になっているため、小窓を開けると上昇気流による自然換気が可能にリビング上部、吹き抜けになった越屋根。タバコ乾燥小屋にヒントをえた。格子床になっているため、小窓を開けると上昇気流による自然換気が可能に
 

1階の寝室(手前)と子ども室。廊下の天井が格子になっているため、リビングからもれる光の帯も幻想的。腰壁までが基礎の立ち上がりにあたる1階の寝室(手前)と子ども室。廊下の天井が格子になっているため、リビングからもれる光の帯も幻想的。腰壁までが基礎の立ち上がりにあたる

1階寝室向かいは、ファミリークローゼット。オープンな造りで服の保管、出し入れも楽。湿気がこもらずカビの心配も無用1階寝室向かいは、ファミリークローゼット。オープンな造りで服の保管、出し入れも楽。湿気がこもらずカビの心配も無用
 

パッシブハウスの要となるドイツのメーカーの全熱交換器は、倉庫を兼ねた小屋裏に設置。出入りしやすくメンテナンスも楽にできる

パッシブハウスの要となるドイツのメーカーの全熱交換器は、倉庫を兼ねた小屋裏に設置。出入りしやすくメンテナンスも楽にできる

 


ここがポイント
伝統と先端環境技術の融合

高気密・高断熱のパッシブハウス。開放的な造りで光と風を取り込み、快適さを高める沖縄の伝統的な建築とは、真逆とも言える。「足りないものを補うことで、施主の望む、年中安定した温湿度が保てるエコな暮らしを実現できるなら、沖縄の住環境の新しいステージに向けて、挑む価値があると感じた」と、佐久川一さん。沖縄の開放的な空間の過ごし方を損なわないよう、最先端の環境技術と伝統の知恵の融合をテーマに設計。認定基準を満たすため、パッシブハウス・ジャパンがコンサルを担った。

敷地があるのは川と山に挟まれた集落内。高潮による川の氾濫・浸水に備え、玄関とメインの生活空間を2階に置く高床式のプランを計画した。1階をピロティにすると基準を満たせないと分かり、コンクリートの基礎を地盤面から約1・4メートルかさ上げする方法に変更。半地下状態の1階に個室を配置した。「基礎のコンクリートで1階への浸水は防げる。土の温度が年間を通して安定している沖縄だからこそ、1階床下の断熱材が省けたのは発見でした」。

室内は段差やスキップフロアを生かして壁を減らし、生活動線もコンパクトに。床と天井の一部を格子にすることで家全体に空気が巡るようにした。換気は全熱交換器で行うが、自然換気に切り替えられるようリビングを吹き抜けにして越屋根を設け、開閉式の高窓を設置。「湿気が少ない時期は、窓を開けられる仕組みを整えることで、さらに省エネにできます」

外壁には地域の資源を活用。赤土と漆(しっ)喰(くい)を混ぜて厚塗りし、断熱効果を高めた。また視界が開け川を望む西側2階部分は、庇(ひさし)を伸ばして斜め格子で囲ったテラスを設け、西日の影響を和らげた。


[DATA]
家族構成:夫婦、子ども2人
敷地面積:186.16平方メートル(約56.31坪)
1階床面積:77.27平方メートル(約23.37坪)
2階床面積:71.45平方メートル(約21.61坪)
建ぺい率:43.07%(許容60%)
容積率:79.89%(許容200%)
用途地域:区域区分非設定
躯体構造:木造
設計:アトリエ ガィィ
   佐久川一、佐久川達美 
構造:建築設計 庵
施工:(株)具志頭工務店
木造部分施工:グレイン
電気・水道:(合)明正電気工事社

問い合わせ
 アトリエ ガィィ
 電話=098・897・1379
   https://www.atelier-gaii.com/


撮影/矢嶋健吾  取材/比嘉千賀子(ライター)
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1983号・2024年1月5日紙面から掲載

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週刊タイムス住宅新聞編集部

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