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2024年9月6日更新

家屋の造りや高さ、屋根の形状を工夫|台風対策 経験から習得|住まいに生かす 知恵と風土⑥

文・写真/照屋寛公(一級建築士・建築アトリエTreppen主宰)


このコーナーは、建築士で民俗学にも造詣の深い照屋寛公さんが先人の知恵を紹介し、気候風土にあった住まいのヒントを伝える。
 
◇  ◇  ◇

 
例年、沖縄ではこの時期、台風襲来が話題になり、天気図を眺めることが多い。しかし、今年は本土方面に向かう台風が多くなっている。通常は発生後から次第に勢力を増し、猛烈な台風となって南西諸島に襲来する。この台風がいきなり本土方面に向かうとなると、家屋の造りの違いや台風対策に不慣れな本土の方々の不安は計り知れないだろう。

さて沖縄の先人はこの強烈な台風に対して、どのような住まい造りで対策をしたのかを考えてみたい。沖縄の木造家屋の造りは大きく二つに分けられる。「穴屋(あなやー)」と「貫木屋(ぬちじゃー)」である。

穴屋は自然木の丸太を大黒柱とし四隅にも柱を掘っ立てにして、壁や屋根を設置した簡易な造りである=図1。土中の柱の腐朽や虫害、台風など強風には脆弱(ぜいじゃく)な家屋であった。


 
図1
穴屋は茅(かや)葺(ぶ)き屋根で断熱性があり、夏涼しく冬暖かいエコな居住環境であった

 
時代はくだり高度な木材加工技術の伝播・習得によって、柱を地面に埋めるより有効な工法が貫木屋である。この工法は柱に多くの貫穴を開けて、木材を抜き通すもの=図2。それにより台風で建物は揺れるが、風の力は家屋全体に分散される。加えて屋根には赤瓦を乗せ漆喰で固めたことで、重量感を持たせることができる。

 
図2
柱の貫穴に貫を通し、くさびで締め固める。くぎなどは使わない。各部材の交差部は継ぎ手仕口で、貫が動かないようにしている=下写真参照
 


貫木屋は鳥かごのような骨組み、家屋全体でバランスをとる丈夫な構造(石垣島、宮良善嘉宅)


風圧減らす寄棟屋根

屋根の形状にも工夫をしている。屋根は大きく分けて山型の切妻(きりづま)と寄棟(よせむね)がある=図3

 
図3

切妻屋根は妻側に風を受ける。寄棟屋根は風を上方へ受け流し、強風にも強い


寄棟は四方に勾配屋根を中心から下方向に向かって設ける。特長は風の抵抗が最小に抑えられ、太平洋側の台風襲来地とされる奄美大島、南九州や紀伊半島などの家屋に多く見られる。また、韓国・済州島(ちぇじゅとう)でも台風襲来や1950メートルの漢拏山から吹き下ろす強風を考慮して、草屋根の形状はやはり寄棟になっている。つまり、切妻の家屋が風圧にさらされて、破損や倒壊被害を受けやすいことを経験で知り、先人らは屋根に寄棟を採用したことが分かる。

さらに沖縄の古い集落で気が付くのはサンゴの石積みや屋敷林に囲まれた中に、低い寄棟の家屋が埋もれるような景観だ=下写真。屋根の高さを低くし、大きさも小さくすることが防風の基本的な考えとされている。

渡名喜島の家屋では、敷地を周辺道路より1メートルも掘り下げる。母屋は棟高が6メートルほどで、敷地周囲を樹高約10メートルのフクギで囲っている。調査データによると、防風効果は風速30メートルの風が吹いても、敷地内では風速10メートル以下に減衰されるという。

ちなみに、敷地を道路より低くできるのは地面がサンゴの砂地のため、雨水が地面内部に浸透。水はけがいいからだ。


石積みの敷地囲い。屋敷は棟高よりも高いフクギに囲まれている(石垣島、宮良殿内)

技術向上でも油断せず

先人の暮らしは電気・ガスなどのエネルギーがなく、インフラ(社会基盤)に頼ることができなかった。さらに小さな島々では限られた建築資材を駆使し、毎年数多く襲来する台風に立ち向かってきたのである。

先人らは建材から家屋の高さ、屋根の形態、敷地の高さ、樹木の樹種までさまざまな試行を重ねてきたのであろう。そして沖縄の風土に合った暮らし方を習得し、子々孫々へ伝承。永く暮らせる知恵・方法を構築してきたのである。

今日、建築技術の向上や丈夫な建材の開発・普及のおかげで、台風による家屋の倒壊はほぼなくなって来ている。しかし今後、異常気象などで大型台風の襲来も危惧される。油断せず台風に備えたいものである。

 
 

てるや・かんこう
1957年、石垣島新川生まれ。明治大学工学部建築学科卒、住宅やリフォーム、医院、こども園など幅広く設計活動中。「日本建築士会連合会優秀賞」「全国住まいのリフォームコンクール」など受賞歴多数。沖縄民俗学会会員。著書に「記憶を刻む家づくり」がある。
電話=098・859・0710
http://www.treppen.jp

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2018号・2024年09月06日紙面から掲載

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