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2023年9月29日更新

四季楽しむ王家最大の別邸|識名園(那覇市)|絵になる風景⑭

「風土に根差した建築」を目指して設計活動を続ける山城東雄さんが、建築家の目で切り取った風景を絵と文章でつづります。(画・文・俳句/山城東雄)

「名勝 識名園」(P30号)

名勝「識名園(しきなえん)」は、ユネスコ世界遺産(琉球王国のグスク及び関連遺産群)の一つである。

造られたのは1799年。琉球王家最大の別邸で、国王一家の保養や外国使節団の歓待などに利用されていた。首里城の南側にあることから「南(なん)苑(えん)」とも呼ばれ、栄華を極めていたが、残念ながら去る大戦ですべてが消滅。その後、1975年から96年にかけて復元され今の姿がある。

全てチャーギで造られ、琉球建築の粋を集めた建物もさることながら、私が好きなのは正門・四脚門から本棟に至るまでのアプローチである。木漏れ日を受け、緩やかに曲線を描きながら下っていく石畳道、途中の井泉、カーブを描く石垣など、何ともいえない風情がある。

建物の前に大きな池をしつらえ、その周りを歩きながら季節ごとの花々を眺めて景色の移り変わりを楽しむ「廻(かい)遊(ゆう)式庭園」も見事である。池に浮かぶ島のあずまやは、中国風黒瓦の六角堂で独特の風情を醸し出す。琉球石灰岩でできたアーチ橋など、随所に琉球独自の工夫も見られる。

面白いのが苑の南側。高台の「勧耕台」からは意図的に一切海が見えないようになっている。また手入れの行き届いた田畑を見渡せることで使節団に対して琉球がいかに大きく豊かな国なのかを誇張できるよう造られたようである。先人の「じんぶん」や「負けじ魂」がうかがえる。

以前、日本建築家協会の沖縄大会で、随行してきた奥さま方を招き、この苑でお茶会(ぶくぶく茶)を開いて喜ばれたこともある。まだの方はぜひ一見をお勧めしたい。私はこの美しさにほれて描いてみた。



水澄みて甍(いらか)光れり識名園



[執筆者]
やましろ・あずまお/1944年、竹富町小浜島出身。沖縄工業高校建築科卒業後、建築設計会社での勤務を経て、34歳の時に東設計工房を設立して独立。一級建築士。JIA登録建築家。(株)東設計工房代表取締役。(一社)おきなわ離島応援団代表理事。著書に「沖縄の瓦はなぜ赤いのか」がある。

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1969号・2023年9月29日紙面から掲載

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