沖縄建築賞
2023年9月29日更新
【第9回沖縄建築賞】一般建築部門 正賞/「謝敷集落の宿」(国頭村)/仲本兼一郎氏(36)/岡山泰士氏(36)/森田修平氏(35)/(株)一級建築士事務所STUDIO MONAKA
沖縄県内の優秀な建築物・建築士を表彰する「沖縄建築賞」。全24作品(住宅部門15件、一般部門9件)の中から、第9回の入賞作品が決定した。
上空から見た「謝敷集落の宿」(写真手前)。やんばるホテル南溟森室(なんめいしんしつ)の一室で、集落の人が暮らす家も周囲に点在。左手には仲本兼一郎さんらが古民家をリノベーションした宿もある
一般建築部門正賞
「謝敷集落の宿」(国頭村)
地域の資源生かし新景観
構造を分け負担減
謝敷集落の宿は分散型ホテルの一室で、新設したもの。仲本兼一郎氏は「地域と一緒に造ること」を掲げ、現地の職人が使い慣れた工法や現地で流通している材料をもとに計画。現地審査では「建物の高さを抑え、フクギ並木が囲む集落内に新たな景観を生み出している」との声が上がった。
構造は木造軸組み(杉ツーバイフォー工法)とし、外壁にコンクリートブロックを採用。ブロックは二重にし、防水性に配慮。軸組みとブロックを独立させて配置することで=構成図参照、風圧による構造的負荷を軽減している。
これにより、最小限の構造部材で空間を構成することができた。「木の軽やかさとコンクリートの重厚感を際立たせ、借景としてフクギ並木を取り込んだ。質感の違う素材と風景が重なり、豊かな空間となっている」と仲本さん。
また、審査時は仲本氏らが集落内にある古民家を改修した別室にも案内。審査委員からは「建築士は工法や材料など地域の資源を最大限生かし、空き地・空き家など集落が抱える問題解決につなげていた。残すべきものはしっかり維持しながらもコンクリートブロックなど現代的な要素を加えて、集落を存続させていく事例」と評価され正賞に選ばれた。
ベッドルームは自然光の取り入れ方を調節し、陰影のある落ち着いた雰囲気が漂う
ダイニングは2面に大窓を設け、開放的な空間
屋外浴室。ヤンバルクイナの鳴き声も聞こえる
外観。写真右側にある赤瓦の囲いはこの土地に建っていた民家のものを再利用している
構成図
木とブロックは完全に分断され、木は風圧を直接受けない
平面図
設計者/仲本兼一郎氏(36) (株)一級建築士事務所STUDIO MONAKA
岡山泰士氏(36) (株)一級建築士事務所STUDIO MONAKA
森田修平氏(35) (株)一級建築士事務所STUDIO MONAKA
(仲本氏)地元の事業者をはじめ多くの方々と協力し、集落の今後を考えて形となったプロジェクトです。オープンして1年がたち、集落に暮らす住人と宿を訪れた人々が共存する有意義な「場」になっていると感じています。巨大開発ではなく、小さいながらも建築によって、集落の保存・継承につながってほしいです。
審査講評・金城傑氏(沖縄県建築士会会長)
土地の記憶紡ぎ 新たな景観を形成
この宿は細いフクギ並木が迷路のようにつながる集落の中にある。謝敷集落をいかに活性化できるかが、この施設の最大のテーマでもあり、“やんばる集落エリアリノベーション”がこの建築のサブタイトルとなっている。重機や機械を運べる道幅ではないため、この建築は人力で運べるコンクリートブロック、定尺木材、ガラスで構成されている。設計者と事業者が協働研究し、新たな集落の景観として出来上がっている。
台風に対峙(たいじ)するフクギと二重にしたコンクリートブロックに木造を組み合わせた建築は、落ち着いた佇(たたず)まいで集落に溶け込みつつ、この集落の慣習に習い、フクギの高さを調節して程よい明るさを得ている。以前この地に建っていた民家の赤瓦を庭先の囲いに再利用した、土地の記憶を感じさせる仕掛けも味わい深い。
やんばるの各地で空地(くうち)・空き家の課題がある中、この施設は建築的にも、集落エリアリノベーションとしても成功している。正賞にふさわしい作品である。
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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1969号・2023年9月29日紙面から掲載