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2023年9月29日更新

【第9回沖縄建築賞】タイムス住宅新聞社賞/「衣食住創~育む家~」(那覇市) 設計:松田まり子氏(46) (松田まり子建築設計事務所)

沖縄県内の優秀な建築物・建築士を表彰する「沖縄建築賞」。全24作品(住宅部門15件、一般部門9件)の中から、第9回の入賞作品が決定した。

LDKは間仕切り壁がなく、広々空間。ダイニングとリビングの間に設けた段差や既存の梁(はり)が空間にメリハリを与えている
LDKは間仕切り壁がなく、広々空間。ダイニングとリビングの間に設けた段差や既存の梁(はり)が空間にメリハリを与えている


タイムス住宅新聞社賞
「衣食住創~育む家~」(那覇市)


用途決めず柔軟な家

人力で木造部屋も移動

築38年のマンションをリノベーションした「衣食住創~育む家~」。松田まり子氏は「空間の用途を初めから決めるのではなく、家族が生活を“創り”込んでいける余白をあえて残した。季節や家族の成長に合わせて室内のレイアウトを自由に変えられるよう計画した」と話す。

5LDKだった室内を1LDK+αに改修し、人力で動かせる木造部屋を設けた。木造部屋の壁は自由に取り外しが可能=上図参照。造作した木のベンチも動かせるので、家族好みの空間をつくれる。改修して約1年がたち、「これまでに3回ほどレイアウトを変えました」と施主。

快適な住空間とするため、天井には光を反射しやすい素材を使い、室内全体に光が行き届くよう配慮。玄関の扉は二重にし、共用廊下からのプライバシーを確保しつつ、風が通り抜けるようにしている。

審査では「既存の梁や木造部屋で空間が間延びせず、居心地のよさにつながっていた。光や風も上手に取り込み、マンションのリノベーションとして好例」と評価された。
 

「可動木造部屋」のイメージ図。赤の点線で囲まれた3か所が取り外し可能

「可動木造部屋」のイメージ図。赤の点線で囲まれた3か所が取り外し可能
 

木造部屋の上部はロフトとなっており、子どもの遊び場に

木造部屋の上部はロフトとなっており、子どもの遊び場に

木造部屋は家族5人の寝室として使用木造部屋は家族5人の寝室として使用
 


平面図(リノベーション前)


平面図(リノベーション後)

 

設計者/松田まり子氏(46)
松田まり子建築設計事務所


リノベーションのため、既存の壁などを実際に解体しないと分からないことだらけでした。また、マンションの一室ということもあり制約も多い中で、施主さまと対話を重ね完成した住宅です。要望の実現はもちろん、快適な住環境のために蒸暑地域である沖縄で必要なリノベーションは何かを考え、形にすることができました。




審査講評・大城禎人氏(前回住宅建築部門 正賞受賞者)

家族の変化で“創造”できる住環境

この計画は築39年の大規模マンションの13階にある一室のリノベーションである。五つの部屋とLDKを解体し、がらんどうのワンルームに家具のような「可動木造部屋」を置き、空間を住人の力で自由自在に操作できるのが大きな特徴。

浴室とスタディスペースを除き間仕切り壁が無いため、高層マンションならではの通風・採光が部屋全体に行き渡る。がらんどうの空間はだだっ広く間延びした空間になりがちだが、ロフトとしても利用できる可動木造部屋のボリュームバランスと周辺素材との対比的な関係の良さに加え、既存の大梁(はり)や腰掛けにもなる床段差を設ける巧みな断面計画で豊かな空間となっていた。

時代の変化や子供の成長に応じて変化できる空間は、家族の創造性を育み、ともに成長する愛着のある家になるであろう。立地条件や自然エネルギーを最大限に活用したリノベーションによって見事に昇華した家であり、ワンルーム形式の住宅の良い例として未来につながる作品であると感じた。


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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1969号・2023年9月29日紙面から掲載

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