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2022年8月12日更新

沖縄のコンクリート 強度・耐久性を追求 リサイクルも|復帰50年で振り返るコンクリートと沖縄②

橋や道路、住宅づくりなど、暮らしに欠かせないコンクリート。沖縄では材料調達から製品化、出荷の各工程でSDGs(持続可能な開発目標)につながる取り組みが進められている。沖縄県生コンクリート工業組合(以下、県生コン工組)の村田旬さんに話を聞いた。



 

村田 旬さん 沖縄県生コンクリート工業組合 総務部長


「CO2削減」に一役 材料調達から製品化、出荷まで


機械の洗い水再利用

まずは材料調達時。コンクリートはセメント、石、砂、水でできているが、「すべて県内で調達可能。他府県から輸送するのに比べエネルギーが少なくて済みます。生コン工場で機械やミキサーを洗浄した洗い水もリサイクル。上澄水を生コンの練り混ぜ時に再利用しています」と県生コン工組の村田さんは説明する。


それらを製品化する上で重要になるのが、良質な生コンを安定的に供給するための体制づくり。県生コン工組には本島・離島を含めて51の生コン工場が加盟していて「そのすべてに試験室があり、資格を持つ技術職員がJIS規格に基づいて日々品質を管理。1997年からは産官学による全国統一の品質基準に基づく立入監査を毎年実施しています」。出荷後は、時間との勝負!生コンはJIS規格によって90分以内に配達する必要があり、超えると規格外となって現場で使えなくなってしまうからだ。「生コン工場では、現場との事前打ち合わせに加え出荷当日も綿密にやりとりし、ミキサー車の到達時間を調整。高品質の生コンをムダなく供給することで、産業廃棄物削減にも努めています」


混和材活用 県も推奨

海に囲まれた高温多湿な沖縄では、コンクリート建造物を「いかに丈夫で長持ちさせるか」も重要。そこで始めたのが、石炭火力発電所から排出される石炭灰を混和したフライアッシュコンクリートの供給だ。村田さんは「フライアッシュを混ぜることで『ポゾラン反応』という化学反応が起きます。これにより、長期的な強度の増進と水密性が向上し、コンクリートは緻密化。ひび割れの原因となる塩分や水分などの浸入も抑制し、耐久性の向上や長寿命化が見込めます」と説明。沖縄県も、2015年に開通した伊良部大橋での使用を機に17年には施工指針を打ち出し、フライアッシュコンクリートの使用による産業廃棄物の有効活用と、コンクリート構造物の長寿命化を推奨している。

建物の高層化や複雑化、大規模化に伴い、施工性と強度を両立させた高強度コンクリートや高流動コンクリートも製品化。「高強度化による耐久性への期待はもちろん、流動化により施工性が改善されることで打設時間も短縮でき、生産性がアップ。建築にかかるエネルギー抑制にもつながるというわけです」


残コンの資源化課題

品質確保はもとより、耐久性や施工性の高い製品を提供すべく、各工場への技術指導に取り組む県生コン工組。今後の課題は「いかに廃棄物を減らすか」と村田さん。特に建設現場で余る「残コン」や未使用のまま戻される「戻りコン」は日本全土で年間東京ドーム2~4個分発生しており全国的な課題となっている。そこで2020年、全国から多種多様なメンバーが参加する生コン・残コンソリューション技術研究会が設立、その資源化について模索中だ。

「県生コン工組でも今年5月に同研究会から講師を招き講演会を開きました。資源化への取り組みは一朝一夕にはいきませんが、まずは意識を変えていくことが重要。継続して取り組みたい」と話した。

 

生コンのプロがレクチャー!こんなところがSDGs

 材料調達:輸送エネルギー減、水資源は再利用 
材料はすべて県内で調達可能 工場の洗浄水もリサイクル!

コンクリートは「石(砂利)」「砂」「水」「セメント」を混ぜて製造しますが、沖縄ではすべての材料を県内で調達することが可能。県外から運び入れるのに比べ、輸送エネルギーがかからない分、CO2を排出せずに済みます。

石や砂は本部町の採掘場から採掘された砕石や砕砂、除塩した海砂が使われ、水は工業用水や地下水を使用。生コン工場で機械やミキサーを洗浄した洗い水から汚泥を沈殿させた後の上澄水も、生コンの練り混ぜ水に再利用しています。

リサイクルはセメントの製造過程でも実施。実際、県内のセメント会社では建築廃材や廃プラスチックなどは熱エネルギーとして、名護市や浦添市の焼却灰は原料として再利用されています。
 



 出荷:運搬エネルギー減、廃棄物減らす 
最先端の工場はミキサー車をGPSで管理 県内どこでも90分以内にお届け!

バッチャー室と呼ばれる操作ルームの様子。職員がGPS発信機を取り付けたミキサー車の位置を確認しながら、運転手や現場と情報を共有するバッチャー室と呼ばれる操作ルームの様子。職員がGPS発信機を取り付けたミキサー車の位置を確認しながら、運転手や現場と情報を共有する

石や砂、セメント、水といった材料を混ぜて練り上げたばかりの柔らかい状態を「生コンクリート(生コン)」と言います。この生コン、JIS規格によって90分以内の納入と定められており、鮮度が命! そのため、県内各地区には生コンを一括受注販売する生コン協同組合があり、そのエリアごとで90分以内に配達(デリバリー)できる体制を整えています。

最先端の工場では、ミキサー車がどこを走っているかGPSで管理し、職員がナビゲーション。現場への到着遅れがないよう、随時、交通情報とミキサー車の現在地を確認しながら、到着時刻を予測し、出荷調整を行っています。またその連携によって運搬時間を減らし、CO2排出の抑制にも一役買っています。



 製品化①:高い品質を確保 
厳しい検査・基準をクリア より良い品質の生コン提供


コンクリートの強度や耐久性を確保するには、元となる生コンクリートの質の高さが求められます。生コン業界では全国統一の「品質管理監査制度」を設け、国家規格である「JIS」の審査に業界独自の基準を上乗せした、より厳しい立入監査を年1回実施しています。監査基準を満たした工場には、全国品質管理監査会議より「〇適マーク」=下、沖縄県品質管理監査会議より「合格証」が交付(1年有効)されます。このような立入監査を毎年行うことで品質保証体制が確立され、より良い品質の生コンを提供していく仕組みになっています。
 

また公共事業を適正に受注できる「官公需適格組合」として国から認定を受けている協同組合もあり、沖縄県生コンクリート協同組合はオリジナルマーク=下=でPR。同マークは沖縄北部地区生コンクリート協同組合も使用しています。



 製品化②:県産混和材で強度と耐久性アップ 
県産フライアッシュコンクリート 100年耐久目指して橋や道路に

橋名の看板の後ろに延びるのが、全長3540㍍、通行料金を徴収しない橋としては日本一長いと言われる伊良部大橋
橋名の看板の後ろに延びるのが、全長3540㍍、通行料金を徴収しない橋としては日本一長いと言われる伊良部大橋

コンクリートの品質を高めるために使われるものに「混和材」があります。県内で主に使われているのは、県内の石炭火力発電所から出た石炭灰を県内で加工した県産の「フライアッシュ」です。フライアッシュコンクリートは、適切な施工と養生を行うことによってポゾラン反応による長期強度の増進と水密性の向上が期待できます。それによって耐久性も向上し長持ちするため、地球環境にも優しくなると言えます。

沖縄県も、副産物の有効利用による環境負荷の低減や、コンクリート建造物の耐久性の向上・長寿命化を図ることを目的に、県産フライアッシュを用いたフライアッシュコンクリートの利用を推進しています。

身近な構造物としては2015年1月に開通した伊良部大橋がそれ。100年耐久を目指して、県の土木建築部が県産のフライアッシュコンクリートを採用した初の海上橋となっています。新本部大橋や那覇大橋、南風原町と南城市を結ぶ南部東道路や、本部港岸壁工事などにも用いられています。



 製品化③:耐久性向上、建築エネルギー減 
高強度・高流動コンクリート 民間工事を中心に広がり


一般的に生コンは、柔らかいほど施工しやすいけれど強度は低く、固くなるほど施工しにくいものの強度は上がります。そのため、建築士や施工会社は、使う場所や建造物に合わせて生コンの軟度や硬化後の強度を指定し注文。生コン工場では、注文に合わせて配合(調合)を調整しています。具体的には橋や道路は比較的固め、高層マンションなどはある程度の柔らかさがありつつ粘りのあるものを、一戸建て住宅などはその中間の固さといった具合です。

特に、高層マンションや複合ビル、総合病院、リゾートホテルなどのように、規模が大きく施工に時間がかかる建物、複雑な形をした建物は、短時間で型枠のすみずみまでコンクリートを行き渡らせ空気を抜く「打設作業のしやすさ」と「強度」の両方が求められます。そのため専用の混和剤(液状)や混和材(粉状)を混ぜることで、柔らかさや粘りを出して施工性も上げつつ固まると強度も上がる「高流度コンクリート」や、「高強度コンクリート」の使用が、民間工事では主流となっています。

通常のコンクリートよりは割高になるものの、流動化により施工性の向上、工期短縮、エネルギー、人手、コストの抑制につながり、高強度化による高耐久性、長寿命化も期待できます。




毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1910号・2022年8月12日紙面から掲載

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