建築
2022年12月30日更新
工場で生産する「プレキャストコンクリート」 土木や建築 インフラに貢献|復帰50年で振り返るコンクリートと沖縄③
工場でコンクリートを成形する「プレキャストコンクリート(PCa)」。製品の寸法などを規格化し、工事現場に運搬し組み立てるので、工期の短縮や柔軟な施工性、高強度の製品を提供できる。PCaについて「全国コンクリート製品協会沖縄支部」の内山忠明さん、津波古充さん、津波古充仁さんに話を聞いた。
左から沖縄支部の津波古充仁さん、内山忠明さん、津波古充さん
あらかじめ成形
内山さんは「プレキャストコンクリート製品(PCa)とは、現場で組み立てやすいよう規格化し、あらかじめ工場で成形したコンクリート製品のこと」と説明。例えば、地下に埋設している下水道や側溝、用排水路など普段は目につかない物から、市役所や美術館などの公共建築まで、用途は幅広い。同支部のPCa工場は、うるま市と南城市の2カ所にある。
PCaのメリットは大きく三つ。一つ目は、あらかじめ量産しておける点。「製品は前もって工場でつくるため、ストックが可能。また、現場では基礎工事などを行いつつ、並行して必要な製品を造り続けられるのも強み」と津波古充仁さん(以下、津波古さん)。
二つ目は工期を大幅に短縮できる点。道路工事や建築現場でコンクリートを型枠に流し固める現場打ちでは、コンクリートの強度が出るまで約1カ月の養生期間が必要。その点、PCaは製品を搬入し組み立てて仕上げるため施工性が良く、現場での養生が不要となる。
三つ目は、製品ごとのムラがなく、安定した品質を保証できる点。内山さんは「日本産業規格(JIS)の品質管理基準に従って、コンクリートの練り混ぜから強度が出るまでの養生など、一連の工程を守って生産。強度試験も行うなど、徹底した品質管理を行っています」と説明する。
現場ごとにも対応
PCaは、土木用と建築用があり、県内の至るところで使われている。
例えば、ブロックを積み上げて完成させる「ゴールコン擁壁」。並べるだけで擁壁が完成する大きなL型擁壁もあるが、「道幅が狭い場所に現場があるとL型擁壁だと運搬が難しい。そこで、場所を選ばず施工できるものをと、ブロック状のPCaを開発しました」と内山さん。
また、規格化された製品だけでなく、「現場ごとに必要な施工性やデザインなどを考慮して設計したオリジナル製品を作ることも可能」と津波古さん。
その一つが県立博物館・美術館の外壁だ。見た目は1枚の大きな壁だが、実はマス目のように穴を開けた高さ約7㍍×幅約2㍍のパネルをつなぎ合わせて造ったもの。「約1年の試行錯誤を経て製品化。質感にもこだわり、コンクリートに琉球石灰岩を混ぜてグスクのような外観を表現できるよう工夫しています」と説明する。
脱二酸化炭素に尽力
建設業界は、作業員の高齢化や人材不足と深刻な問題を抱えている。内山さんは「現在、工業高校でもコンクリート製品検定を実施。在学中からPCaなどの基礎知識を身に付けてもらうことで、早いうちから将来を担う人材を育成。今年は、県内2校で検定を実施、業界を盛り上げる一助になれば」と力を込める。
また、同支部は環境に配慮した取り組みも行っている。今後の課題は「いかに二酸化炭素(CO2)の排出を抑えられるか」と津波古さん。現在、コンクリートの硬化を促進させる蒸気養生の際、重油ボイラーが使われ、CO2やばい煙が発生するため見直しが迫られている。「県外の工場では、化学薬品を使った養生も進んでいるよう。脱炭素化は決して簡単ではないですが、全国の事例を参考に、精力的に取り組んでいきたい」と話した。
こんなところにもプレキャスト製品
建築用PCa版 県立博物館・美術館の外壁
写真2点とも㈱技建提供県立博物館・美術館で印象的な花ブロックの外壁=上写真=は、オリジナルの建築用PCa版を使って再現されたもの。工場で成形した約7㍍×約2㍍のPCa版=下写真=を約777枚使って仕上げた。1枚当たり最大77個の穴が空いている。㈱技建の津波古充仁さんは「6種類の型枠で77個と多くの穴が空いた外壁を量産できるのも、PCaの強み。外壁が雨で汚れないよう穴の形状などについて、設計者や施工会社とも打ち合わせを重ねて製作しました」。
建築用PCa部材 那覇空港新国際線 旅客ターミナルビルのアーチ梁
写真2点とも㈱技建提供
那覇空港新国際線旅客ターミナルビルの曲面の大屋根には、建築用PCa部材のアーチ梁(はり)=上写真=が使われている。あらかじめ工場で成形した梁PCa四つを、現場で組み合わせ、全長約40㍍、総重量約84㌧のアーチ梁を製作。約29㍍までクレーンでつり上げて=下写真=屋根を形作っている。「平均して約21㌧の製品。組み合わせる際に不具合が出ないよう、接合部分の精度に注意を払って製作しました」。
道路用や宅地造成 ゴールコン擁壁
写真提供=㈱キョウリツ
擁壁とは、宅地造成などの際に土が崩れるのを防ぐために設置される壁状の構造物のこと。積み上げることで擁壁となるブロック状のPCaが「ゴールコン擁壁」。県内で開発されたPCaとしては初めて国土交通大臣の認定を受けた。ブロックは、土の種類で異なる擁壁への圧力に対応できるよう、全部で13種類。地質や地形に左右されずに設置できる。
化粧付境界ブロック シキール
写真提供=㈱キョウリツ
ブロック塀と基礎を一体化させた境界ブロック。主に県内では集合住宅やホテルのビーチサイドで使われている。養生時間やブロックを積む手間が不要なので、人手を減らせ、工期の短縮も図れる。
■プレキャスト製品ができるまで
配筋検査からストックまで高品質な製品を提供
工場では、日本産業規格(JIS)の品質管理の基準に従い、PCaを製造している。
まず、製品の形に合わせて鉄筋を組み立てて、型枠に配置。さらに、コンクリートの硬さが指定通りかも確認し、コンクリートを流し込み、固まって強度が出るまで養生する。
何百個と製品を造る際も、同じ寸法の型枠を使い、熟練した作業員が作業するため、品質にムラがなく安定。また、完成品と同じ条件で造った試験体で圧縮強度のテストも行っている。
製品の一つ一つに製造年月日や寸法、製造会社名、JISマークが押印されているのも品質保証の証しだ。
L型擁壁の配筋検査を行っている様子。鉄筋が必要な太さで必要な本数使われているか、外部の検査員が工場に足を運んで検査を行う
2.8m×1.5mのボックスカルバート。複数つなげて埋設することで、下水を流したり、防火水槽に使ったりする。配筋検査や圧縮試験、養生まで終えた製品には、商品名・サイズ・製造年月日・JISマークが押印される
工場の敷地内の様子。出来上がったPCaは、いつでも出荷できるようストックされている
編集/市森知
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1930号・2022年12月30日(第2集)紙面から掲載