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2021年11月5日更新

[沖縄]地域遺産 再発見|大宜味村役場旧庁舎|デザインと耐候性両立

沖縄県内で最古の鉄筋コンクリート造建築物として知られる、大宜味村役場旧庁舎。ことしで築96年となり、人に例えればカジマヤーを迎えた。そうした地域の歴史的な文化遺産を再発見し、保全・活用する人材を育成しようと県建築士会主催の講座が開かれた。同講座から、普段は見られない旧庁舎の内部のデザインや技術の魅力を探る。

カジマヤー迎えた県内最古のRC造

大宜味村役場旧庁舎・外観 西洋風の外観 
大宜味村役場旧庁舎の外観は、西洋の教会を思わせるようなデザイン。ヨーロッパの絵はがきを参考に、清村勉氏が設計した。1925年完成。本土復帰の72年まで役場として使用。その後、教育委員会の事務所や村史編さん室等を経て、現在でも臨時会場などとして使用される。97年県文化財指定、2017年国重要文化財指定。県内の鉄筋コンクリート造建築の普及発展を知る上で貴重な建物となっている。通常、内部の一般公開は行っていないが外観は見ることができる。





地域に眠る歴史的な文化遺産を再発見し、保全・活用する人材の育成を目的とする「ヘリテージマネージャー養成講座」。10月23日の講座では大宜味村役場旧庁舎が題材に。同村教育委員会教育長の米須邦雄さんと元工業高校教員の木下義宣さんが旧庁舎の歴史や設計者である清村勉氏について語った。


見映えも使いやすさも

旧庁舎が建てられたのは、鉄筋コンクリート造の中でも初期にあたる1925(大正14)年。“沖縄コンクリート建築の父”ともいわれる清村勉氏(1894―1985年)が設計した。清村氏の設計への思いを直接聞き、建物の保存調査などに携わった木下さんは、「デザインはヨーロッパの絵はがきを参考にした。柱と梁の接合部までこだわり、楽しみながらやったと聞いた」と話す。

建物の形は十字形と八角形を組み合わせたようになっていて、台風の風圧を軽減する形に。外壁上部はモルタルをたたきつけて凹凸の装飾をしつらえ、堂々とした雰囲気を醸す。かやぶきの木造が主流だった完成当時、どれほどの存在感を放ったのかは計り知れない。

1階は行政窓口と会議室、2階は村長室となっており、窓からは漁師が働く海が望める。2階は工事途中に追加されたといわれ、梁に頭が当たる少々強引な階段も面白い。内壁はしっくいで仕上げたほか、床には目地を入れて滑りにくくするなど、利用者への気配りが感じられる。

大宜味村役場旧庁舎・室内
大宜味村役場旧庁舎・室内装飾
 細やかな装飾 
梁や天井には掘り込み装飾が施され、見る人を楽しませる。完成当時、梁にはランプをつり下げるフックが設けられていたという。

 
大宜味村役場旧庁舎・階段
 後付けの階段 
村民からの要望もあってか、工事途中で2階が追加されたため、階段は少々強引な造り。踏み面は狭く、上り下りの途中で頭が梁に当たるため、一部が削られている。写真左に見えるドアの先はトイレや宿直室が配された。


地元の材料・人材活用

デザインの細やかさもさることながら、驚くのはその耐候性。海辺から100㍍ほどしか離れておらず、台風や潮風にさらされる中、90年以上も原形をとどめている。木下さんは「セメントと鉄筋以外の材料は地元で調達したもの。清村氏は沖縄の気候に適した材料、鉄筋コンクリートの研究を熱心にしていた」と話す。

コンクリートの砂材は海砂を使っているが、丁寧に水洗いしているか清村氏が確認し、なめてしょっぱくないかを確かめることもあったそう。内部の鉄筋から表面までの厚さ(かぶり厚)は、現在の建築基準法で定める厚さの倍ほどあり、鉄筋がさびるのを防いでいる。

2008年に県生コンクリート工業組合が行った調査によると、強度は高層ビルに使うコンクリートと同じくらい強く、築80年以上にしては塩害の指標となる中性化の進行が遅かったという。外壁の表面にはモルタルが2~3回塗り重ねられているそうで、沖縄の厳しい気候を考慮した慎重な施工技術が光る。

もとより「大宜味大工」という腕のいい大工が生まれる地として知られる同村。旧庁舎の施工には、饒波出身で金城組の金城平三と金城賢勇が携わった。同村の歴史・文化に詳しい教育長の米須さんは、「“人材は資源”という当時の村民の思想がこの建物を生んだ。今後の使い方は検討中だが、村の歴史を見て取れる貴重な建物を守っていきたい」と話した。


大宜味村役場旧庁舎・2階 海を望む2階 
2階は村長室として使われていた。八角形の各面に窓があり、室内は明るく海も望める。床は幾何学模様の目地が入れられ、梁にも装飾が施されて品格のある空間に。屋上は村民も立ち入ることができ、沖合の漁の様子を見ることができたという。窓枠には木が使われていたが80年代の改修でアルミサッシに変わった。
大宜味村役場旧庁舎・2階床
床は目地を付けて滑りにくさに配慮。全て職人の手作業で施された

 
大宜味村役場旧庁舎・柱
 五角形の柱 
1階中心部、八角形のホールにある柱は五角形と珍しい形。1m強間隔で円形に8本配される。鉄筋コンクリート造の知識も技術も普及していない大正時代で、多角形の型枠づくりには苦労したという。当時では画期的なメートル法で設計され、建物面積は182.6㎡。

 
旧庁舎の裏には、最古のRC柱の一部が残る。旧庁舎より3年前に建てられた公設質屋の柱だが、鉄筋の腐食が少ない状態だという
旧庁舎の裏には、最古のRC柱の一部が残る。旧庁舎より3年前に建てられた公設質屋の柱だが、鉄筋の腐食が少ない状態だという


地域の資源見つけ守る

県建築士会が毎年開催する「ヘリテージマネージャー養成講座」。3期目を迎えた本年度の受講者は35人。建築士や行政職員などが主だが、今期は移住者や学生も参加している。旧庁舎の講座を受けた受講生は、「地域の誇りを感じる建物」と話した。

養成講座では古民家や文化遺産の建物などを題材に、歴史的な背景の整理、採寸、劣化の状態確認などの手法を学ぶ。修了後は文化遺産の調査や保全活動といった地域での活躍が期待される。

木下さんや米須さんの案内を受け、旧庁舎を見学する受講生ら

取材/川本莉菜子
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1870号・2021年11月5日紙面から掲載

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