風抜ける3層のハコ|(株)山口瞬太郎建築設計事務所[お住まい拝見]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

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2023年12月22日更新

風抜ける3層のハコ|(株)山口瞬太郎建築設計事務所[お住まい拝見]

[中も外もコンクリート打ち放し]
建築士の山口瞬太郎さん(41)宅は3階建てで、1階には自身の事務所も備えている。中も外もコンクリート打ち放しのシンプルな造りだが、どの階も風が抜け、多様な変化に対応できるようになっている。

北側から見た外観。どの階も南側の景色まで見通せる。室内外ともにコンクリート打ち放し仕上げとなっている
北側から見た外観。どの階も南側の景色まで見通せる。室内外ともにコンクリート打ち放し仕上げとなっている
 

風と共に過ごす家

山口さん宅
 RC造/自由設計/家族2人 

読谷村の高台に立つ、山口瞬太郎さん宅。室内外ともにコンクリート打ち放しで、1階に自身の設計事務所、2階にゲストルーム、3階に住宅がある。全フロア、間取りは2室と水回りだけで、住宅では2室をリビング・ダイニングと寝室として使っている。

3階北側の木製サッシを開けると、南側の大開口まで風が通り抜けていく。夏の南風や冬の北風を、窓の開き具合でコントロールし、暑さや寒さに対応しているという。山口さんは「エアコンで調整するのがエンジン付きの船なら、うちは自然の動きを見ながら人力で操るヨット。常に自然を感じ、調整も必要だけど、それが楽しい」と話す。

窓際の日だまりでは、猫のアマンが日なたぼっこ。「どこが心地いいかは、この子がよく知っています」と、妻の真由美さんはその隣にラグを敷いて本を読む。決まった居場所はなく、気分や気候に合わせて心地よく感じた場所で過ごすスタイルだ。

夫妻は「気温や湿度、日の入り方、海の色、鳥の鳴き声など、小さな変化にも気付くようになった。自然を感じるセンサーが敏感になった気がします」と声をそろえる。

3階住宅のリビング・ダイニング。幅6.5メートルの大開口からは東シナ海や西海岸の街並みを一望できる。「夕暮れ時にぼーっと眺めるのが好きなんですよ」と山口さん
3階住宅のリビング・ダイニング。幅6.5メートルの大開口からは東シナ海や西海岸の街並みを一望できる。「夕暮れ時にぼーっと眺めるのが好きなんですよ」と山口さん
 

3階寝室から見たリビング・ダイニング。床もコンクリートだが「冬はスリッパ、夏は素足で心地いいし、掃除も簡単」と真由美さん
3階寝室から見たリビング・ダイニング。床もコンクリートだが「冬はスリッパ、夏は素足で心地いいし、掃除も簡単」と真由美さん

3階寝室。西日や周囲からの視線を遮るような閉じた空間。照明も少なく暗いので「以前よりよく眠れるようになった」と山口さん
3階寝室。西日や周囲からの視線を遮るような閉じた空間。照明も少なく暗いので「以前よりよく眠れるようになった」と山口さん


仕上げは多くの思い

以前は近くの外人住宅に住んでいた夫妻。暮らしやすく、夕日が沈む海も好きだったことから、同じ生活圏内で自宅兼事務所を建てることに。夫妻の両親や友人らが県外から来ることも多かったため、「互いに気を使わないように」とゲストルームも設けた。

工事には夫妻も参加。職人に教えてもらいながらコンクリートを工具で研磨し、撥(はっ)水(すい)剤も塗った。山口さんは「事務所の仲間と一緒に作業したり、知り合いが大切にしていた木材を使わせてもらったりしたので、いろいろな場所に関わってくれた人たちの顔が浮かびます」と目を細める。クロスやフローリングなどの仕上げ材は使われていないが、たくさんの人の思いで仕上げられているようだ。
 

3階キッチン。コンクリート製のカウンターに真由美さんは「研磨したのでツルツルだし頑丈。熱い鍋もそのまま置ける」

3階キッチン。コンクリート製のカウンターに真由美さんは「研磨したのでツルツルだし頑丈。熱い鍋もそのまま置ける」
 

3階洗面室と浴室。浴室もコンクリートでまとめて作られているため「タイルの目地や継ぎ目のコーキングなどがなく、掃除がとてもラク」と山口さん

3階洗面室と浴室。浴室もコンクリートでまとめて作られているため「タイルの目地や継ぎ目のコーキングなどがなく、掃除がとてもラク」と山口さん
 

1階事務所の打ち合わせスペース。大開口とコンクリートの床、通り抜ける風が相まって、中と外の境界があいまいな公園の東屋にいるような気持ちになる1階事務所の打ち合わせスペース。大開口とコンクリートの床、通り抜ける風が相まって、中と外の境界があいまいな公園の東屋にいるような気持ちになる
 

窓のレールは上下だけ。壁面に枠がないことで、中と外がより一体化して感じられる

窓のレールは上下だけ。壁面に枠がないことで、中と外がより一体化して感じられる

 


ここがポイント
自然感じて変化に対応

山口さんが自邸の設計に際して意識したのは、変化することと変化しないこと。「暮らし方や働き方が多様になり、この建物も将来はカフェや美容院が入るなど使い方が変わるかもしれない。しかし、風向きや太陽の動き、人間が心地よく感じることなどは変わらない。心地よい自然を生かしつつ、何にでも変われるハコをシンプルな方法で作れないか考えた」と説明する。

そこでまず、階段室、水回り、寝室の三つのボックスを、隣家からの視線が入らないように配置。真ん中に残った空間を、床や屋根だけがかかる空間として、南北に風が通り抜けるようにした。「夏は南から風が抜け、冬は窓を閉めて北風を遮る。風向きや気温などによって、建具を調節することで快適に過ごせるようにした。ある意味実験だったけど、実際、夏でも時々しかエアコンは使わない」。

変化を受け入れやすくするため、室内もあえて造り込まずにシンプルに仕上げた。そして、その空間を3層重ねた。

また、既製品などの均質的な素材ではなく、不均質な手触りや質感を大事にしようと、山口さんはコンクリートや木を多用。コンクリートは型枠を外した後に、自分たちで研磨もした。「職人の仕事を知るという目的もあったが、人の痕跡を残すことで、無機質な物にぬくもりが宿るんじゃないかと思った」

ほかにも、強度・水密性に優れるフライアッシュコンクリートを使ったり、複数の塗料を試したりと実験的なことを行った。外との一体感を高めようとレールを上下だけにした木製サッシは、強風時にガタガタすることもあったが、パッキンを入れるなどして解決。山口さんは「自邸だからできたこと。でも住みながら手を加えていくような、余白のある建築があってもいいのかなと思う」と話した。

[DATA]
家族構成:夫婦、愛猫
敷地面積:351.06平方メートル(約106坪)
1階床面積:81.51平方メートル(約24.6坪)
2階床面積:81.51平方メートル(約24.6坪)
3階床面積:81.51平方メートル(約24.6坪)
建ぺい率:28.1%(許容57.38%)
容積率:69.65%(許容173.82%)
用途地域:第二種住居地域/第一種低層住居専用地域
躯体構造:壁式鉄筋コンクリート造
設計:(株)山口瞬太郎建築設計事務所 山口瞬太郎
構造:NAWAKENJI-M(株) 名和研二
建築:(株)大興建設
電気:(同)屋宜電気工事
水道:(有)島設備
ガス:沖縄ガス(株)
建具:玉城木工商店
硝子:伊敷ガラス店
左官:HID工業
植栽:HADANA
キッチン:MOV


問い合わせ
(株)山口瞬太郎建築設計事務所
 電話=050・3365・7595
   https://yoaa.jp/


撮影/泉公(ララフィルム) 取材/出嶋佳祐
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1981号・2023年12月22日紙面から掲載

この記事のキュレーター

スタッフ
出嶋佳祐

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編集者
「週刊タイムス住宅新聞」の記事を書く。映画、落語、図書館、散歩、糖分、変な生き物をこよなく愛し、周囲にもダダ漏れ状態のはずなのに、名前を入力すると考えていることが分かるサイトで表示されるのは「秘」のみ。誰にも見つからないように隠しているのは能ある鷹のごとくいざというときに出す「爪」程度だが、これに関してはきっちり隠し通せており、自分でもその在り処は分からない。取材しながら爪探し中。

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