風抜ける60代からの家|(有)Kでざいん[お住まい拝見]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

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2023年6月2日更新

風抜ける60代からの家|(有)Kでざいん[お住まい拝見]

[水回りの使い勝手も良く]
実家の老朽化に伴い、隣の空きスペースに母と住む家を建てた60代のSさん。「家中に風が抜け、水回りの使い勝手も良くて助かっています」。以前から使っていた井戸水は新居でも活用した。

リビング側から見た室内。勾配天井と高窓の効果で明るく伸びやか。和室の壁の1面は、赤土入り漆喰(しっくい)で仕上げ、Sさんの父親の書を額に入れてはめ込み、床の間代わりとした。天井に貼り付けた名木化粧合板と相まって、落ち着いた雰囲気が漂う
リビング側から見た室内。勾配天井と高窓の効果で明るく伸びやか。和室の壁の1面は、赤土入り漆喰(しっくい)で仕上げ、Sさんの父親の書を額に入れてはめ込み、床の間代わりとした。天井に貼り付けた名木化粧合板と相まって、落ち着いた雰囲気が漂う


老いても暮らしやすく

Sさん宅
 CB造/自由設計/家族2人 

コンクリートブロックの目地を生かし白く塗装した外観とは一変、LDKは床も天井も木仕上げ。ヌレエンの先に石垣や庭木が広がる和室からの眺めと相まって、室内は明るく落ち着いた雰囲気が漂う。「建坪は26坪ほどですが、天井が高く吹き抜けなので広く感じる。住み心地はすごくいい」とSさん。

特に実感するのが風通しの良さ。密集地ながら、隣家が迫る北や東の窓外にはルーバーが設置されており、「隣の目を気にせず窓が開けられて雨も気にならない。いつでも家中に風が抜けるので、クーラーを使うのは蒸し暑い真夏日くらいです」。室内物干し場など水回りの使い勝手も気に入っている。「年を取るにつれ外に洗濯物を運んで干したり取り込んだり、台風時は竿(さお)を入れたりと大変さを実感していたので大正解。汚れ物の下洗いに便利な洗い場は、母が毎日使ってます」と話す。

玄関側からLDKと和室を見る。普段は引き戸を開け放って使用。和室やヌレエン、庭まで一続きにつながり、行事の際も重宝する。和室は天井高を変え、落ち着きを演出した
玄関側からLDKと和室を見る。普段は引き戸を開け放って使用。和室やヌレエン、庭まで一続きにつながり、行事の際も重宝する。和室は天井高を変え、落ち着きを演出した

キッチン。周りを囲むカウンターが手元を隠し、配膳にも活躍。勝手口は通風ドアになっており、熱がこもりにくい
キッチン。周りを囲むカウンターが手元を隠し、配膳にも活躍。勝手口は通風ドアになっており、熱がこもりにくい

駐車場側から見た外観
駐車場側から見た外観
 

ポーチの一角にある井戸。「建物の基礎がかからないよう配置計画には気を使った」と建築士の金城さん。水はポンプでくみ上げ、洗車や散水に

ポーチの一角にある井戸。「建物の基礎がかからないよう配置計画には気を使った」と建築士の金城さん。水はポンプでくみ上げ、洗車や散水に


井戸水を活用

新築は住んでいた実家の老朽化がきっかけ。実家の隣に所有していた空きスペースに新築することに。設計は長年親交があり、信頼のおける建築士に依頼した。

空きスペースには実家を建てた60年前から枯れたことがない井戸があり、以前から活用していたSさん。「洗車や散水にとても重宝していたので、引き続き使えるようにしたいと要望。扉はすべて引き戸で明るくて風通しがよく、年を取っても暮らしやすいこと以外は、すべて建築士さんにお任せしました」

完成して1年。「母は庭が見える和室のソファで朝日を浴びながら朝刊を読むのが日課。食事も毎朝自分で作って食べています」とSさん。子どもたちや孫たちが、それぞれの家族を連れて集まることもしばしば。風が抜ける住まいで、Sさん親子は、快適で健康的な暮らしを楽しんでいる。

庭から見た外観。砂利の下は防根シートを張り雑草対策。向かって右手の目隠し壁のおかげで、部屋着のままでもヌレエンに出て、人目を気にせずくつろげる
庭から見た外観。砂利の下は防根シートを張り雑草対策。向かって右手の目隠し壁のおかげで、部屋着のままでもヌレエンに出て、人目を気にせずくつろげる

室内物干し場。左手に見えるのが郵便受け。雨天時でも濡れずに新聞などが取り出せる。「除湿器は市販品に手を加え水替え不要にしてもらったので、助かってます」とSさん室内物干し場。左手に見えるのが郵便受け。雨天時でも濡れずに新聞などが取り出せる。「除湿器は市販品に手を加え水替え不要にしてもらったので、助かってます」とSさん


東側のトイレは全開できるバリアフリータイプ。個室の間に配置し、夜間でも行き来しやすく
東側のトイレは全開できるバリアフリータイプ。個室の間に配置し、夜間でも行き来しやすく

玄関。低めの上がりかまちと壁の手すりで、安全に上り下りできる。玄関収納もたっぷり
玄関。低めの上がりかまちと壁の手すりで、安全に上り下りできる。玄関収納もたっぷり


ここがポイント
窓周りまでCB 2重の空気層で断熱

Sさん宅を設計するにあたり、建築士の金城傑さんが採用したのはコンクリートブロック(CB)造だ。「蓄熱しやすい鉄筋コンクリート造に比べ、壁内に空気層ができるCB造は軽くて断熱効果があり、鉄筋やコンクリートの量も減らせる。S邸では役物と呼ばれる専用の部材を使って窓周りまでCB造に。ブロック壁の内側にも厚さ2センチほどの空気層を設けて断熱性を高めた」と説明。

室内は、和室と一続きに使えるLDKを家の中央に据え、東に個室、西に水回りを配置した。隣家が近接する東と北、西の窓外にはルーバーを取り付け、開け放しておけるよう工夫。これにより、南の掃き出し窓から取り込んだ風が家中に抜ける。

年を重ねても自然を身近に、健康的に暮らすための工夫も随所に光る。「庭は手入れの手間を省けるよう3分の2は防根シートを引いて砂利敷きに。その庭側の窓を覆う深さ2メートルの庇(ひさし)は少し上向きにすることで、直射日光を遮りつつ室内からより空が見えやすくなっている」。そのほか、押し入れなど風通しの悪い収納内はすべて調湿効果のある無垢(むく)材で仕上げた。

また、建築予定地には実家を建てた60年前から使っている井戸があったことから、その井戸をよけて住宅を配置。継続して井戸を活用できるようにした。

金城さんは「CB造というと安かろう悪かろうと考える人もいる。Sさん親子もそうだったが、不安を取り除けるよう丁寧に説明し、CB造の家を実際に見てもらうなどして納得の上で採用。満足してくれている。デザインも豊富なブロックは、使い方次第で半戸外空間作りにも役立つ沖縄に適した素材。まだ十分なコスト圧縮にはなっていないが、地産地消の製品でもあるCB造への理解が増し、建築の機会が増えれば、施工技術も上がり、建築費の削減も十分期待できる」と話した。


[DATA]
家族構成:2人
敷地面積:547.97平方メートル(165.8坪)
1階床面積:87.6平方メートル(26.5坪)
建ぺい率:20.7%(許容50%)
容積率:16%(許容100%)
用途地域:第一種住居専用地域
躯体構造:コンクリートブロック造
設計:(有)Kでざいん 金城傑、上原百恵
構造:(株)m3建築事務所
施工:技研工業(株)

問い合わせ
(有)Kでざいん
電話=098・835・5518
https://k-design-arch.com


撮影/泉公(ララフィルム) 文・徳正美
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1952号・2023年6月2日紙面から掲載

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徳正美

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