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2021年8月20日更新

[沖縄・お住まい拝見]空気澄んで快適|松田まり子建築設計事務所

[沖縄の技術使った省エネ住宅]
子どもの健康を考え「カビやほこりのない家」を望んだK夫妻。花ブロックの外壁をカーテン代わりに、風通し良く家中の空気が澄む。遮熱ブロックなど既存の建材を生かして沖縄らしい省エネ住宅を実現した。

LDK。外壁の花ブロックが日差しを抑え、白い壁で柔らかな光が室内に広がる。風を通すことで空気が澄み、ソファなどファブリック系の家具を置かないことで、掃除しやすくカビ対策も
LDK。外壁の花ブロックが日差しを抑え、白い壁で柔らかな光が室内に広がる。風を通すことで空気が澄み、ソファなどファブリック系の家具を置かないことで、掃除しやすくカビ対策も


帰宅時もカラッと

Kさん宅
 RC造/自由設計/家族4人 


「前に住んでいたアパートはカビがひどくて。子どもがアレルギー体質なこともあって、カビ・ほこりのない家を希望した」と夫人(37)。室内は風が流れ、カラリとした空気で清らか。「仕事から帰って来て、湿気や熱気でもわっとする感じもない」とKさん(37)は話す。

約24坪のコンパクトな平屋で、西面を除く各方面に風の出入り口を設けた造り。リビングダイニングには北東向きの掃き出し窓を設け、外壁の花ブロックから風を取り込む。Kさんは「道路からの視線が気になりにくい。テラスにビニールプールを出して子どもたちを遊ばせても安心」と喜ぶ。

カビ・ほこりよけのため、ソファなどのファブリック系家具は極力置いていない。その徹底ぶりで驚いたのは、寝室にカーテンがないこと。夫人は「朝日が入って心地いい。屋根の遮熱ブロックが効いているのか、夏でも少し肌寒く感じるくらい涼しい。夫はそうでもないみたいだけど」と笑う。


LDK。清潔感のある白い壁は「バイオファイン」という防菌・防カビ・汚れが付きにくい塗料を使用。テレビ下の地窓の外にはローズマリーが植えられ、「窓を開けると香りも入ってくる」と夫人
LDK。清潔感のある白い壁は「バイオファイン」という防菌・防カビ・汚れが付きにくい塗料を使用。テレビ下の地窓の外にはローズマリーが植えられ、「窓を開けると香りも入ってくる」と夫人
 

外観。花ブロック壁の前後には植栽スペースがあり、将来的に植物を植えて涼しい風が取り込めるようにしている。Kさんが希望したアプローチの屋根は杉板模様のコンクリート壁で支え、アクセントに
外観。花ブロック壁の前後には植栽スペースがあり、将来的に植物を植えて涼しい風が取り込めるようにしている。Kさんが希望したアプローチの屋根は杉板模様のコンクリート壁で支え、アクセントに

屋根一面に置いた遮熱ブロック。日差しで熱くなる屋根の表面温度を外気温程度にまで抑え、室内温度が上がるのを抑えるという
屋根一面に置いた遮熱ブロック。日差しで熱くなる屋根の表面温度を外気温程度にまで抑え、室内温度が上がるのを抑えるという
 

カーテンのない寝室。掃き出し窓の外は正面を壁、サイドを花ブロックにすることで「朝日も感じられて心地いい」と夫人。壁の間接照明のみで落ち着いた雰囲気にカーテンのない寝室。掃き出し窓の外は正面を壁、サイドを花ブロックにすることで「朝日も感じられて心地いい」と夫人。壁の間接照明のみで落ち着いた雰囲気に


片付けやすさも重視

夫婦はKさんの実家近くで土地を探し始め、ドライブ中に偶然見つけた土地が気に入り購入。以前からアパートのカビ対策について相談していた建築士に設計を依頼した。夫人は「家族の暮らし方に合わせて提案してくれた。機能重視だからダサくなっても仕方ないと思ったけど、こんなステキな家になった」と喜ぶ。

風通しの良さに加え、家造りで重視したのが片付けのしやすさ。夫人の片付け方に合った扉がない見える収納で、カビの心配も少ない。「以前のアパートは収納場所が散らばっていて使いこなせなかった。まとまった収納があることで、ずぼらな私でも片付けしやすく、掃除が楽で子どもたちの健康面も安心」と夫人。着替えと洗濯はランドリーとクローゼットルームで済み、キッチンや寝室との回遊性もばっちり。

夫人は、住み始めてからも建築士と一緒に玄関の使い方やモノの置き場などを考えるという。「造って終わりじゃなく、今の生活に適した暮らし方を共に考える関係ができてうれしい」とほほ笑んだ。

LDKと一体になった子どもスペース。将来は個室に仕切れるよう、窓や照明を分けた。右壁の開口で隣のクローゼットの風通しを確保
LDKと一体になった子どもスペース。将来は個室に仕切れるよう、窓や照明を分けた。右壁の開口で隣のクローゼットの風通しを確保

家族全員の衣類を収めるクローゼット。扉は設けず見える収納に。西に配置し、写真中央の室内開口を取ることで、熱と風で室内を乾かす。夫人の仕事スペースも兼ねており、今は長女お気に入りの読書スペースになっている
家族全員の衣類を収めるクローゼット。扉は設けず見える収納に。西に配置し、写真中央の室内開口を取ることで、熱と風で室内を乾かす。夫人の仕事スペースも兼ねており、今は長女お気に入りの読書スペースになっている
 

玄関ははめ殺し窓で中が見えるようにすることで「キレイに保つ意識付けにつながる」と建築士。ドア右のジャロジー窓で不在時も風通しできる

玄関ははめ殺し窓で中が見えるようにすることで「キレイに保つ意識付けにつながる」と建築士。ドア右のジャロジー窓で不在時も風通しできる
 

浴室の広さはわずか1畳ほど。バスタブも置いていない。「建築士が心配するくらい狭くしてもらった。おかげで掃除しやすい」と夫人

浴室の広さはわずか1畳ほど。バスタブも置いていない。「建築士が心配するくらい狭くしてもらった。おかげで掃除しやすい」と夫人


ここがポイント
風と熱を使いこなす

Kさん宅を設計した建築士・松田まり子さんは、「風・熱(温度)・光といった自然の恵みを生かし、アレルギー体質の子どもが健康に過ごせて、省エネにもつながる家を提案した」と話す。特に風と熱の特徴を捉えた、風通し、カビ対策の手法が光る。

まず、風は解析ソフトを使って敷地への吹き方をシミュレーションし、室内に取り込む風を選んだ。「風は四方から吹くが、北風は海から吹く南風より乾いていて、結露しにくいと考えた。また、隣家などの間を吹き抜けるため、ビル風のような強さも期待した」。この北風が室内全体へ流れるよう、寝室と洗面の間にジャロジー窓を設け、廊下を通ってLDKへ抜ける軸を造った。

次は熱。暖まりやすい西に水回りやクローゼットを配置。取り込んだ北風が回り込むよう壁の位置も調整し、「熱と風で部屋内を乾かしてカビを抑えるようにしている」。一方、温度変化が穏やかな北は寝室にして、LDKと離すことで落ち着きのある快適な空間にした。

さらに、強い日差しや台風など沖縄の厳しい気候に対しては、「これまで県内で培われてきた技術を使った」。特別な建材や技術を使わずとも、沖縄に適した省エネ住宅を造ることができるという。日差しと風を穏やかに取り込む花ブロック、屋根に置いた遮熱ブロック、熱を吸収しにくい白い外壁などで、「冷房や日中の照明などの使用を抑えられる」と松田さんは話した。

同住宅は「気候風土適応住宅」という、建築物省エネ法の基準では評価できないものの地域で培われた知恵を生かした省エネ住宅の、モデルプロジェクトとして国の認定を受けた。



[DATA]
家族構成:夫婦、子ども2人
敷地面積:188.66平方メートル(約57.06坪)
1階床面積:80.20平方メートル(約24.26坪)
建ぺい率:54.71%(許容60%)
容積率:42.41%(許容100%)
用途地域:第一種低層住居専用地域
躯体構造:鉄筋コンクリート造
設計:松田まり子建築設計事務所 松田まり子
構造:(株)sng DESIGN
施工:(株)沖秀建設
電気:(有)開成電設
水道:(有)名設 

問い合わせ
 松田まり子建築設計事務所
  電話090・8291・5256
  https://malix439970739.wordpress.com


撮影/矢嶋健吾 取材/川本莉菜子
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1859号・2021年8月19日紙面から掲載

この記事のキュレーター

スタッフ
週刊タイムス住宅新聞編集部

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