お住まい拝見
2025年5月2日更新
[お住まい拝見]「く」の字で明るく目届く|(株)GAB
[土地造成し南向きに]
Nさん宅は南北を道路に挟まれた傾斜地に建つ。建物は北側に寄せ、北側境界線の形に沿った「く」の字型にした。道路より1.5メートルほど下がっていた南側は敷地を造成し、庭や駐車場を配置。南向きの家は、庭で遊ぶ子に目が届き、光や風も巡る。

玄関を中心に、建物の左右が少し内向きの「く」の字型のNさん宅。「子どもたちを庭で遊ばせたい」という要望から建物を北側に寄せ、日当たりのよい南側に広々とした芝庭を設けた
東西で公私分ける
Nさん宅
RC造/自由設計/家族5人
Nさんが親から譲り受けたのは、南城市の山のふもとにある土地。上流から水が流れてくることから、湿気が貯まりやすい地域だ。
また、南北を道路に挟まれており、北側は道路と同じ高さだが南側は道路より約1.5メートル下がっていた。建築士に敷地を見せたところ、「湿気対策を考えると、日当たりの良い南側を道路の高さまで上げて庭や駐車場を配置し、家も南向きにした方がいいと薦められた。土地の形状や周辺環境、住み心地をきちんと考慮した提案が腑に落ちて、その会社に依頼した」と夫人。
敷地を上げるには建築費がかさむが「気持ちよく暮らせる家にしたかったし、緑いっぱいの庭で子どもたちを遊ばせたかった」と、造成することを決めた。

敷地の高低差に合わせ、一番低い場所に玄関や寝室、浴室などのプライベートスペースがある。そこから階段を4段上がった場所にLDKを配置。リビングの天井高は最高4.5メートルあり開放的
玄関デスクが重宝
完成した新居は、2階建ての「く」の字型。敷地の北側に寄せて配置し、その境界線の形状を踏襲した。
玄関は「く」の中央にあり、東側にLDK、西側に寝室や浴室などのプライベート空間が配されている。
玄関を入ってすぐのホールには、手洗い場とカウンタースペースがある。ここは夫人お気に入りの場所。「カウンターは宅配の受け取りのときに便利だし、子どもたちが翌日持っていく物もここにスタンバイしている。もう少し大きくなったら、宿題もここでやってから遊びに行ってもらう」。

玄関ホールには手洗い場とカウンターがあり「重宝している」と夫人
そのホールから階段を4段上がったところにあるLDKは、青々とした芝庭に面している。勾配天井で最高4.5メートルあり、縦横の抜けが開放的だ。さまざまな高さに配された窓のおかげで「とても明るいし、風が抜けるから気持ちが良い」と笑顔で話す。

2階からLDKを見下ろす。庭まで一体となる伸びやかな空間
また、対面式のキッチンは「く」の字の端にあることから、室内だけでなく庭や駐車場などにも目が届く。

キッチンは東端にあり、リビングやダイニングだけでなく庭や2階の様子も見渡せる。「雑多な部分を見せたくない」という夫人の要望から腰壁を設置
子どもたちは5歳、3歳、1歳と目が離せない時期で「毎日が戦い(笑)。だけど引っ越してきて、負担は軽くなった。家で暮らしが変わるんだな、と感じている」と嬉しそうに話した。
ここがポイント
敷地上げて湿気対策
建築士の濱元宏さんは「最初に現場を見た際、敷地のあちこちにコケが生えていた。湿気が高い場所だとすぐに分かった」と話す。
ここに家を建てるなら湿気対策は必須。「庭で子どもを遊ばせたい」という要望もあったことから「建物は極力、北側に寄せて、日当たりのよい南側に庭や駐車場を確保する。そして南向きの住居にすることで、家から庭へも目が届くし、湿気もこもりにくくなる」と提案した。
ネックは南側道路との高低差。1.5メートルほど下がっていた。「敷地を上げると室内に風や光が入りやすくなり、地面からの湿気も低減できる。しかし、工事費がかさむ。施主にその旨を説明し、了承を得て造成した」。ほかにも、各個室に南北の通風道を確保、換気窓を1階のキッチン・リビング・2階子ども室に設置して、湿気や熱を逃がす工夫を凝らした。

南北(建物正面と背面)を2項道路(幅4メートル未満)に挟まれたNさん宅。庭や駐車場の場所、湿気対策などを考慮し、道路より下がっていた南側の敷地を上げて接道した
造成にお金を掛けた分は、建物のコンクリート使用量を減らして削った。「安全性を担保しながら、室内壁はほぼ木製にした。外壁以外で鉄筋コンクリートの壁は、中央の1カ所のみ」
建物の階高も抑えた。「LDKのみ吹き抜けで3~4.5メートルの天井高だが、そのほかは2.2~2メートルと一般的な家より低め。メリハリを付けて、窮屈に感じさせないようにした」。
また、「2階建てにして、建物と土地が接する面積を減らしたことで基礎も減らせ、費用を削ることができた」。
「うちの事務所は設計・施工を手掛けるから、両方の段階でコストカットできるのが強み。それがNさん宅でも生きた」と濱元さんは話した。

2階の子ども室。今は大きなワンルームだが、将来的には家具などで3部屋に仕切れるよう、窓や出入り口などは三つずつ準備している

洗面脱衣室は奥の物干し場ともつながる。「洗面台は大きめにした。年の近い子どもが3人いるので、身支度の時間がバッティングすることを考慮した」と夫人

寝室にも掃き出し窓があり、物干し場に出入りできる。「布団を干すときに便利」
[DATA]
家族構成:夫婦、子ども3人
敷地面積:約323平方メートル(約98坪)
1階床面積:約78平方メートル(約24坪)
2階床面積:約42平方メートル(約13坪)
建ぺい率:30%(許容70%)
容積率:37%(許容200%)
用途地域:指定なし
躯体構造:鉄筋コンクリート壁式
設計:(株)GAB 濱元宏、豊崎孟史
施工:(株)GAB 濱元宏、豊崎孟史
構造:KKSエンジニアリング
坂本憲太郎
電気:ma電工 金城武道
水道:(有)ライフ工業 我喜屋奨
◆問い合わせ
(株)GAB
電話=098・987・7331
https://gab.okinawa/
撮影/比嘉秀明 文/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2052号・2025年5月2日紙面から掲載
この記事のキュレーター
- スタッフ
- 東江菜穂
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編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。