お住まい拝見
2021年7月16日更新
[沖縄・お住まい拝見]ガレージと屋上で伸び伸び|アトリエ・ネロ
[塩害防ぐ固練りコンクリート]
広いガレージや屋上の庭で「自粛期間も伸び伸び過ごせる」というKさん宅。2階居室から川や街を見渡せ、街路樹などを借景として取り込む。塩害を防ぐために固練りコンクリートを使った3階建ての住まい。
地元の街が借景
Kさん宅
RC造/自由設計/家族5人
大きな交差点の近くに建つKさん宅は、3階建ての鉄筋コンクリート造。工場のある家で育ち、ものづくりが好き、釣りも趣味だというKさんの希望で、1階の大部分がガレージに。「家を建てる時から考えていたが、ようやくDIYでカヤックを天井につるし、バスケットゴールも取り付けた。自分の時間に没頭したり、子どもたちが遊んだりできる。屋上でも遊べるから、自粛期間中でも伸び伸び過ごせる」と喜ぶ。
らせん階段を上り、家族が集まる2階へ。キッチンを中心に、北側に広間と和室を設けた。窓の街路樹越しに川や街が広がり、「慣れ親しんだ地元の風景が望める」とKさんは目を細める。4畳半の和室は小上がりで腰掛けやすい高さ。「小さい子どもがゴロゴロでき、畳下の引き出しは大容量で育児用具やおもちゃ入れに重宝している」
夫人がお気に入りだというキッチンは、3階に家族がいても気配が伝わるよう吹き抜けを設けた。洗面室との仕切り壁は、学校の黒板を思わせる深緑色が印象的。「メモが書き残せ、学校のお知らせなどもマグネットで貼れる。取材のためにキレイにしたけど、いつもは落書きもあってごちゃごちゃ」と笑う。キッチン裏手の室内物干し場は南に面して暖かく、ジャロジー窓で不在中でも風を通せる。
2階は広間、和室、キッチンや水回りがあり、家族が集まる場。アクセントにもなっている写真左の深緑色の壁は、ホワイトボードのように書き込みやマグネットでの貼り付けができる
ガレージから玄関方向を見る。釣った魚がさばけるよう、流し台を設置。写真左の板間は、夫人のピアノを置く予定だという
キッチンは吹き抜けにして3階の気配が伝わるようにした。食洗機や引き出しなどの収納にもこだわり、家事効率の良さを重視した
屋上は一面に芝を敷き詰め、遮熱して天井が暖まるのを抑える。「バーベキューもできて庭のように使える」とKさん
カヤックつるす前提で
土地はもともとKさんの両親が所有。本紙などを参考に理想の住まいを考えたという。「事務所にカヤックがあって、趣味が合いそうと感じた建築士に依頼。カヤックを天井からつるせるよう設計してもらった」とKさんは話す。
子ども部屋は小さくていいという夫婦の考えもあり、3階は約12帖の広々とした個室を設けて、将来仕切れるようにした。
2・3階をつなぐ吹き抜けを囲むように造り付けたカウンターは勉強スペースに。カウンターの角には手洗い場があり、掃除や身支度などもしやすいようにと、あえてトイレの外に設けたという。
海風が心地いい屋上は、「風が少し強いけど芝は元気で、子どもたちが寝転がる。いつか果樹や野菜を育てたい」とKさんは話した。
2階の開口は街路樹や川、街を切り取る額のよう。幅4メートル弱の開口から、穏やかな光が入る
3階は約12帖の個室と勉強スペースになるカウンターがある。個室は将来3室に仕切ることを想定し、照明のスイッチも3分割している
外観。固練りのコンクリートで塩害予防している。階段室は花ブロックで目隠ししつつ、風を取り込めるようにしている。塀がなく、モモタマナのあるポケットパークが敷地の一部のようにも見える
2階キッチンの裏手にある室内物干し場。南側にあって暖まりやすい。ジャロジー窓を多用して風通ししやすく、曇りガラスでアパートからの視線を遮る
ここがポイント
熱・光安定の北側居室 らせん階段で風巡る
Kさん宅敷地は3面が道路やポケットパークに接し、特に南は細い道路を挟んで中層のアパートが建つ。一方、北は道路の向こうに川などが見える。
「開けた視界を生かしたいというKさんの希望もあり、熱や光の環境が安定的な北側に主な居室を配した」とアトリエ・ネロの根路銘安史さんは話す。アパートからの視線が気になる南側は、物干し場やデッキにして室内が直接見えないよう配慮している。
敷地のもう一つの特徴である周辺の緑は、「暑さや道路の騒がしさを和らげてくれると思う」。階段室は東に隣接するポケットパークのモモタマナ、2階北側の窓は街路樹のホウオウボクを借景としても取り入れた。
屋上まで延びるらせん階段は、空気循環の仕掛けでもある。南側の2階から屋上までを花ブロックにして、そこから入った風が各階を巡り、暖まった空気は屋上から排出される。室内はワンルームのように間仕切りが少ないため、風が通りやすく、掃除もしやすいという。屋上緑化も取り入れ、遮熱効果で天井が暖まるのを抑える。
海風による塩害を防ぐため、躯体には砂利を多めに入れた固練りのコンクリートを使用。「密度が高くなる分、石のように固くて水が染みこみにくくなるので、耐久性が上がる。中の鉄筋が腐食しにくく、建物の長寿命化につながる」と話した。
[DATA]
家族構成:夫婦、子ども3人
敷地面積:143.63平方メートル(43.4坪)
1階床面積:50.86平方メートル(15.4坪)
2階床面積:60.33平方メートル(18.2坪)
3階床面積:45.56平方メートル(13.8坪)
屋上階床面積:8.11平方メートル(2.5坪)
建ぺい率:46.1%(許容70%)
容積率:91.8%(許容200%)
用途地域:準住居地域
躯体構造:鉄筋コンクリート造
設計:アトリエ・ネロ 根路銘、仲村
構造:(株)フィールド・ワン建築設計事務所 小川
施工:(有)匠建 仲与志
電気:松島電気(株) 名嘉
水道:(有)ライフ工業 高山
キッチン・UB・洗面化粧台工事:(有)沖縄タカラ住設 根路銘
◆問い合わせ
アトリエ・ネロ
電話098・889・0103
http://www.a-nero.com/
撮影/泉公(ララフィルム撮影) 取材/川本莉菜子
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1854号・2021年7月16日紙面から掲載