お住まい拝見
2025年8月15日更新
[お住まい拝見]高気密・高断熱の木造|(株)新垣工務店
[実家を建て替え 母と暮らす]
実家を平屋の木造住宅に建て替えたHさん宅。一緒に暮らす母親のため、バリアフリーや高気密・高断熱など住宅性能を高めた。居心地のいい室内はあらわになった木組みや隣接する二つの半屋外空間により、縦横への広がりも感じられる。

LDKは梁(はり)などの木組みをあらわにしたことで、構造体を意匠にも取り込みながら、縦方向に広がりが感じられる。深い軒下空間のテラスや高窓を設けることで、横方向の抜け感も演出している
南北のテラス重宝
Hさん宅
木造/自由設計/家族2人
与那原町に建つHさん宅は木造平屋で、母親と暮らす。コンクリート造で2階建てだった実家を高気密・高断熱の住宅に建て替えた。
Hさんは「熱気がこもらず、広々とした室内でもエアコン1台で快適」と住み心地を実感。母親も「床は全面フラットのため、移動しやすい。杉の無垢材の肌触りもよく、キッチン脇のパントリーや動線上に収納スペースも多くあって、足腰が悪い私でも格段に暮らしやすくなりました」とうれしそうに話す。
室内はリビングを中心に、玄関ホールやキッチン・ダイニングなどを東側に、各居室を西側にまとめ、公私を上手に区分。南側と北側の掃き出し窓を開ければ、リビングと軒下空間のテラスがつながり、「空間にゆとりが生まれる。行事の際に親族が集まっても、狭いという感じがしない」と母親。週に1度、娘家族も訪れ、元気よく駆け回る孫の声も家中に響き渡る。「宿泊できる個室もあるので、暮らしがにぎやか」と笑う。

南側の外観。外壁も杉板仕上げや垂木など木造住宅の造りが際立つ。雨水と日差しの影響を最小限にするため、軒は十分な奥行きを確保。また玄関(下写真)とは別に中央のテラスから直接リビングに入ることもできる。石灰岩で造った塀(蛇籠)が目隠しになっている

玄関やテラスまでのアプローチには、Hさんの母親が大切に育てる植物が彩りを添える
近隣と植栽楽しむ
家造りは実家の老朽化がきっかけ。幾つもの住宅の完成見学会に足を運ぶ中で、「木造らしい外観や木の造作家具などに惹かれた」建築会社に設計を依頼した。間取りや住宅の性能ほか、「建て替えの解体費を含めた費用面でも調整してくれた」。やりとりを重ねて、敷地の東側を貸し駐車場として利用できるように計画した。
また、南北のテラスはそれぞれ違う役割で重宝している。玄関そばにある南側のテラスはL字のウッドデッキに腰かけて、近所の人たちとゆんたくするスペース。そこで葉を広げる鉢植えは訪れる人を癒やす。「近所の人と一緒に植栽を楽しんでいます」と母親。一方、Hさんの居室と水回りに挟まれた北側のテラスは全面ウッドデッキ。コーヒーを片手にHさんがほっとひと息つく場となっている。

キッチンからはリビング、テレビ奥の洋室(下写真)まで見渡せる。リビングの掃き出し窓二つを開け放てば、風が抜け、南と北のテラスまで連続した空間となる

南側のテラス。L字のウッドデッキに腰かけられるため、ちょっとした近所のコミュニティーになっている

中央二つの洋室はHさんの妹家族が遊びにきた際、引き戸を閉めることで二部屋として使える造りとなっている
ここがポイント
目視と測定で 熱や湿気断つ
Hさん宅の設計にあたり、ポイントとなったのが「高気密・高断熱」だ。設計・施工を手がけた新垣工務店の建築士・渡久地政哉さんは「設計上、優れた性能でも、施工で建材の接合部などの隙間が生まれ気密性が落ちてしまうと、断熱の効果は薄れる。そのため、断熱性と気密性は必ずセット」と説明する。
同社がHさん宅で施したのは「外張り断熱工法」。住宅を外側から断熱材で切れ目なく覆い、建築中には散水試験により屋根や壁などに小さな隙間がないか確認。熱や湿気などの浸入経路がないよう目視で確かめ、完成後に気密測定を行った。「数値と目視で気密性をしっかり確かめ、住宅性能を保証。断熱効果が最大限発揮されるようにすることで、大空間でも室内の温湿度を一定に保てるようにしました」。

北側のテラスは全面ウッドデッキ。「リビングと一体的に使えて、親族が大勢遊びにきたときに重宝しています」と母親。左側のガラス戸から洗濯室・洗面室に行き来できる
また断熱性だけではなく、日差しを遮る「遮熱の造り」も施した。その一つが住宅の四方に出した「軒」だ。「深い軒は日射熱の影響を最小限にできるだけではなく、外壁にも紫外線や雨水が直接当たらず、外壁材の劣化防止にもなります」と渡久地さん。ほかにも、リビングの南と北に設けたテラスは「緩衝帯となるだけではなく、掃き出し窓を開け放てば、内外が緩やかにつながり、空間を広く使えます」。
木家具・木建具にも技が光る。「キッチンや引き戸、収納棚、テレビ台などは木の空間になじむよう、全て自社職人が造り付けました」。サイズ感もぴったり納まり、室内はすっきりとしていた。
また、建て替えに伴う解体費と建築費を賄うため、敷地の一部を貸し駐車場として使えるよう、北西側に住宅を寄せた。「軒やテラスが駐車場や道路とのワンクッションとなり、住宅密集地でもプライバシーを確保しました」と渡久地さん。

洗濯室までの動線上に大容量の収納があり、椅子に腰かけて作業できる台(中央)も置くなど家事がしやすい造りになっている

広々とした玄関ホール。キッチン・パントリーに行き来できるため、荷物を運びやすい

新垣工務店の大工が造作した収納棚。建築士の渡久地政哉さんは「造作家具で仕切ることでスペースを余すことなく利用。棚と天井の間には隙間を設け、空気が室内を循環するよう計画した」と話す
[DATA]
家族構成:2人(Hさんと母)
敷地面積:361.47平方メートル(約109.53坪)
1階床面積:103.24平方メートル(約31.28坪)
建ぺい率:28.5%(許容80%)
容積率 :28.5%(許容200%)
用途地域:近隣商業地域
躯体構造:木造・在来軸組工法
設計:(株)新垣工務店
構造:(株)SANSYU
施工:(株)新垣工務店
電気:吉電設
水道:正設備興業
◆問い合わせ
(株)新垣工務店
電話=098・945・5747
https://www.arakaki-koumuten.com
撮影/比嘉秀明 文/市森知
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2067号・2025年8月15日紙面から掲載