お住まい拝見
2020年11月6日更新
自然に寄り添い楽しむ|建築設計工房paraya
[お住まい拝見〕|本島北部、フクギ並木沿いに建つMさん宅は、コンパクトながらも、高い天井や、LDKの延長として使えるデッキなどで開放的。アウトドア好きな家族が自然を楽しみつつ暮らす。
外観。左手の、昔からこの地にあるフクギが道路からの視線を遮る。ヒンプンの幅を調節したことで、右手奥のアウトドア用品を収める倉庫まで車を入れられるようになっている。倉庫前の庇(ひさし)は長く、フックも取り付けられるため、ウエットスーツなどをつるして洗える
LDK+デッキで開放感
Mさん宅
混構造/自由設計/家族4人
風もトンボも抜ける窓
近くの海で遊んだり、庭でバーベキューをしたりと、アウトドアライフを満喫するMさん一家。住まいはフクギ並木が続く昔ながらの集落の一角にあり、地域を見守り続けてきたであろう大きなフクギが訪れる人を迎えてくれる。
玄関を抜けると、広さ27帖のLDK。最大高さ4.5メートルの木造小屋組みで覆われた、温かみのある空間だ。そこに、真ちゅう製の照明や、県内の木工房によるダイニングセットなど、夫人こだわりの物が散りばめられている。
南北にある大きな開口部を開け放てば、窓から窓へと、心地よい秋風とともに、トンボも通り抜けていく。Mさんは「チョウが飛んだり、オカガニが庭を歩いていたりもしますよ」と、豊かな自然に囲まれた環境を実感している。
その庭に面した南側は、LDKと外のデッキがフラットにつながる。LDKの延長として使用でき、幼い息子たちが縦横無尽に駆け回る。デッキで朝食をとることもあるという。
さらに、随所に設けられた胸の高さほどのフィックス窓からは、庭の緑が顔をのぞかせる。「風景が切り取られ、絵を飾っているみたい」と夫人のお気に入りだ。
北側の大開口から見たLDK。小屋組みが見える天井は高さが4.5メートルもある。左手上部の高窓から光が入り明るい
奥行き2メートルのデッキ。奥のLDKとフラットにつなげて使える
建築士の家に心打たれ
以前は那覇市内のアパートに住みながら、本島北部でカヌーやキャンプ、ダイビングなどを楽しんでいた夫婦。子どもが生まれて家づくりを考え始めたときに、自然に囲まれた静かな環境が、子育ての面からも魅力的だと思い、北部で土地を求めた。
設計は、なじみのカフェで教えてもらった建築士に依頼。その建築士が手掛けた宿に泊まってみたほか、「建築士の家を見たときに、自然を上手に取り入れた開放的な住まいに心打たれた」のが決め手となった。そのため、小屋組みが見える造りや、外とつながる大きな窓、広いデッキなど、その家にあった要素も設計に取り入れてもらった。
夫婦は「季節ごとに変わる風や光も取り込めるので、自然と調和し、つながっているように暮らせています」。自然を楽しむ家族の、自然に寄り添う住まいだ。
玄関。正面のフィックス窓から外のクロトンまで視線が抜ける
家全体を見渡せるキッチン。スッキリ見せるため、カウンターなどは設けず、あえて手元まで見える天板にした
ここがポイント
既存のフクギ活用 収納で公私分ける
Mさん宅の敷地には、フクギをはじめ、井戸や生け垣、石垣などが残っていた。建築士の島袋勝也さんは「フクギ並木が残る周囲の景観になじむよう、既存のものはできるだけ生かした」と話す。例えば、フクギや生け垣は道路からの目隠しに、井戸は手こぎポンプを付けて散水用に使っている。
間取りは、1階にLDKと寝室、水回り、2階にはロフトとコンパクト。しかし、LDKの大きな開口部や、デッキまでフラットに使える造り、高い天井、庭が見えるフィックス窓などにより、外とつながる開放的な空間を演出した。
また、LDKと寝室が近いため、間にウオークインクローゼットを配置し、公私を分ける緩衝帯に。これが回遊できる造りと相まって、家事動線の効率化にも一役買う。夫人は「起きて、クローゼットで身支度して、洗濯して、朝ご飯の準備をして、という流れがスムーズ」と使い勝手が良い様子。
LDKの東側にある高窓は、外側にルーバー状の突起が出ている。「庇(ひさし)の役割を果たしており、夏は直射日光が入りにくく、冬は入りやすくなっている」と島袋さん。さらに、高窓を開ければ、夏場は熱も抜けていく。一方で冬は、部屋の上部にたまった暖かい空気をシーリングファンで下ろす。
趣味のアウトドアを楽しみやすくする工夫もある。倉庫の前まで車を寄せられるほか、倉庫前の庇はフックを取り付けられるようになっており、道具をつりながら洗ったり干せたりする。倉庫の中も、事前に何をどこに収めるか決めていたのでスッキリしている。Mさんは「以前はアパートの浴室で道具を洗い、片付ける場所にも悩んでいて、少しおっくうに感じる部分もあった。今は心置きなく楽しめます」と笑顔を見せた。
寝室。3方が窓に囲まれており、中庭側にあるデッキからLDKに行くこともできる
鏡の上のトップライトによって明るい洗面室
浴室。建築士の自邸を参考に、床は丸いタイルを敷き詰め、壁や天井はカビが出にくいよう外壁用の塗装で仕上げている。夫人は「既存の石垣や植物だけでなく、タイルの質感から職人の手仕事も見えるのがいい」
[DATA]
家族構成:夫婦、子ども2人
敷地面積:288.03平方メートル(約87.1坪)
1階床面積:89平方メートル(約26.9坪)
2階床面積:16.87平方メートル(約5.1坪)
建ぺい率:35.03%(許容60%)
容積率:36.76%(許容200%)
用途地域:未指定
躯体構造:混構造(鉄筋コンクリート造+木造小屋組み)
設計:建築設計工房 paraya 島袋勝也、仲宗根篤
構造:比嘉一級建築設計事務所 比嘉喜仁
施工:(資)眞大伸技建 伊波興伸
電気・設備:(有)きみ山工業 上原拡、宮城大幸
キッチン:(有)MOV 照屋涼子、仲元ちなり
[問い合わせ先]
建築設計工房paraya
電話=0980-56-2955
http://www.paraya-architect.com/
撮影/比嘉秀明 取材/出嶋佳祐
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1818号・2020年11月6日紙面から掲載
この記事のキュレーター
- スタッフ
- 出嶋佳祐
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編集者
「週刊タイムス住宅新聞」の記事を書く。映画、落語、図書館、散歩、糖分、変な生き物をこよなく愛し、周囲にもダダ漏れ状態のはずなのに、名前を入力すると考えていることが分かるサイトで表示されるのは「秘」のみ。誰にも見つからないように隠しているのは能ある鷹のごとくいざというときに出す「爪」程度だが、これに関してはきっちり隠し通せており、自分でもその在り処は分からない。取材しながら爪探し中。