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2024年11月1日更新

生物と建物に同じ規則性? 南国ほど表面積の比率大きく|涼風通る 快適な暮らし|住まいに生かす 知恵と風土⑧

文・写真/照屋寛公(一級建築士・建築アトリエTreppen主宰)


このコーナーは、建築士で民俗学にも造詣の深い照屋寛公さんが先人の知恵を紹介し、気候風土にあった住まいのヒントを伝える。
 
◇  ◇  ◇
 
ドイツの生物学者クリスティアン・ベルクマンが提唱した「ベルクマンの法則」がある。同じ種の恒温動物(一定に体温を保つ動物)であっても、生息する気候帯で個体差が変わり、体温を調整するというものだ。

私はこの規制性が先人の家造りにも見て取れると思う。

ここでベルクマンの法則を建築にも分かりやすく説明するため、生物の体を立方体に置き換えて考えてみる。立方体が小さいと体積(体の大きさ)に対する表面積(皮膚)の割合が大きくなり=図、外に体内の熱を放散する効率を高め、涼しく過ごせる。


 立方体の体積が小さくなるにつれて、表面積の比率が大きいことが分かる「ベルクマンの法則」


分棟で母屋こぢんまり
壁少なく開放的な室内


さて、住宅ではどうか。北海道の家や雪深い飛騨・白川郷の家を思い浮かべてみると、確かに大きな造りが多い。家の中で暖を取らなければならない北国の人々は自然と大きな家屋を採用したのではなかろうか。体積に対する表面積の比率を小さくすることで、室内からの放熱量を抑える。もちろん他の要因も考えられる。積雪の重さで家が倒壊しないよう、家の階高を高くし急勾配の大屋根をかけたり、養蚕業を営むための屋根裏部屋など多くの部屋を必要としたり、と家の形態に影響する要因はさまざまだ。

一方、沖縄や奄美諸島の伝統家屋をみると、比較的こぢんまりしていることに気がつく。家畜小屋やトイレは分棟とし、母屋はさほど大きくせず。屋根の形は寄棟(中心から四方に向かって下方向に設ける勾配屋根)とし、高さを屋敷囲いに合わせて抑える。台風などの強烈な風圧を受け流すとともに、体積に対する表面積を大きくした。つまり、南国の人々は涼風がめぐるよう家の大きさを考え、そして大開口を設けた開放的な家屋を造ってきたのだ=写真1


写真1 北中城村にある中村家住宅。くの字型の住まいで表面積を大きくし外部につながる開放的な暮らしになっている


自然に対応した先人 
SDGsな営み参考に

ところが昨今の住宅建築に目を向けてみると、県内でも本土でよく見かける住宅が立ち並ぶ。新興住宅街を歩いていると、「ここは沖縄なのだろうか」と思ってしまうほどである。開口の大きい掃き出し窓は可能な限り省き、小さい窓がわずかに設けられている。おまけに強烈な日差しを遮る庇(ひさし)もない。その造りがトレンドらしい=写真2


写真2(イメージ) 本土でよく見かける住宅は箱型でコンパクト。窓は小さく、高気密・高断熱化することで冷暖房など住設備のエネルギー消費量を抑えている


写真3 涼風を取り込む沖縄の伝統家屋は柱構造で支え、壁を少なくして大開口を設置している(石垣やいま村)

かつて沖縄の家と言えば、深い軒がアマハジをつくり、室内外が一体となった空間=写真3=となり、先人は自然の恵みを最大限取り入れて、SDGsな暮らしを送っていた。対して、現代住宅は高性能な建材で熱の影響を絶つが、外のつながりを遮断している。現代人は「高気密・高断熱」の住宅で冷暖房の効きを高めるなど、エネルギー消費量を抑えた暮らしに変わってきている。

動物が自然に逆らわず、自分の体を進化させてきたのと同じように、人工的なエネルギーに頼るすべがなかった先人は外部環境と調和するよう、家屋の造りを進化させてきた。限りあるエネルギーに依存する暮らしを目指すことなく、風土や地域に合致した伝統家屋で暮らしてきた先人の姿を振り返ることも必要な時期に来ているように思う。

 

てるや・かんこう
1957年、石垣島新川生まれ。明治大学工学部建築学科卒、住宅やリフォーム、医院、こども園など幅広く設計活動中。「日本建築士会連合会優秀賞」「全国住まいのリフォームコンクール」など受賞歴多数。沖縄民俗学会会員。著書に「記憶を刻む家づくり」がある。
電話=098・859・0710
http://www.treppen.jp

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2026号・2024年11月01日紙面から掲載

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