家づくり
2025年8月15日更新
手すりに無数のひび|インスペクションで解明 住まいのミステリー 第29話「築40年の2階建て住宅」
文 下地鉄郎(インスペクション沖縄メンバー、既存住宅状況調査技術者)

住宅の劣化状態などを調査して報告する「インスペクション(建物診断)」。今回は「購入を予定している中古住宅の2階ベランダの手すりに無数のひび割れがある。原因と対策を知りたい」という依頼。インスペクション沖縄の下地鉄郎さんが調べていく。
第29話「築40年の2階建て住宅」
手すりに無数のひび
依頼内容
築40年の2階建て中古住宅の購入を検討している。2階バルコニーの手すりに無数のひび割れがあり、気になっている。購入後には全面塗装工事を行う予定だが、どの範囲まで工事をしたらいいかなどのアドバイスがほしい。

2階ベランダの手すりは、上部のモルタル笠木にひびが幾筋も入っていた。一部は髪の毛程度の細さのヘアークラックだが、中には0.3ミリを超えるひびもあった
笠 木は手すりの「屋根」
沖縄の鉄筋コンクリート造住宅によく見られる2階の建物をぐるりと囲むようにベランダがあり、その周りに手すりがある建物。その手すりに無数のひびが入っているという。
事前に送ってもらった写真を見ると、確かに手すり部には、細かいクラックが幾筋も走っているのがわかる。
壁の汚れなども気になるため、購入後は全面塗装工事を行う予定だそう。ただ、予算の関係もあり、どの範囲まで工事をしたらいいかなどのアドバイスも含めてのインスペクションの依頼であった。
現地に到着し、2階の手すりを確認すると、ひび割れは主にコンクリート手すり上部のモルタル笠木に集中していた。
モルタルとは砂とセメントを水で練った物で、左官仕上げで自由な形状にしやすい半面、コンクリートに比べると強度が弱いとされる。
また笠木は、コンクリート手すりの上部に、水平的な意匠性とともに壁面が汚れないための水切り機能を兼ねて施工される。コンクリートへの雨水浸入防止や直射日光防止の機能も兼ねており「小さな屋根」といってもよい。ただ、外部にむき出しで設置されているため、常に紫外線・風・雨にさらされる。経年とともに、こうした部位は繰り返しの熱膨張・収縮により微細なひびが入り、そこから雨水などが浸入してくる。また年数が経ってくるとモルタル自体の吸水性が高くなるため、水切りの機能も低下し、手すり側面や外壁の汚れにもつながってくる。
モルタル笠木とコンクリート手すりの断面

コ ンクリート部と分離
笠木のひびは、ヘアークラック(髪の毛程度の細いひび)が多いものの、場所によっては幅0.3ミリを超えるものもあった。打診棒で叩くと大部分で笠木とコンクリートが分離している異音がする。場所によってはグラつきもあり、このまま放っておくと台風時などに飛んでいく場合もあるため、早めの対策が必要である。
一方で、笠木下のコンクリート手すりにはひびはほとんど見られなかった。笠木があったことでひびの発生が抑制されていたようである。購入予定者である依頼者には、モルタル笠木のひび割れを補修するか、笠木を撤去して改めて成型するなど、いくつかの対処法を提案した。
依頼者は、原因と対策がわかったことで安心した様子であった。
アドバイス
施主には下記の対処法を提案した
◆モルタル笠木のひび割れ部分をVカット補修+防水塗装
◆モルタル笠木を撤去+手すりを防水塗装
◆モルタル笠木を撤去+改めてモルタル笠木を成型
◆モルタル笠木を撤去+アルミ笠木などのカバー工法

しもじ・てつろう/1級建築士。(株)クロトン代表取締役
電話=098・877・9610
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2067号・2025年8月15日紙面から掲載
第2067号・2025年8月15日紙面から掲載