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2024年6月7日更新

「ティンダティ」は木材加工用の手斧(ティーン)から派生|言葉に工事着手の記憶込め|住まいに生かす 知恵と風土③

文・写真/照屋寛公(一級建築士・建築アトリエTreppen主宰)


このコーナーは、建築士で民俗学にも造詣の深い照屋寛公さんが先人の知恵を紹介し、気候風土にあった住まいのヒントを伝える。
 
◇  ◇  ◇

 
家づくり、工事着手時に行われる地鎮祭・起工式と呼ばれる儀式がある。沖縄では地域によって呼び方は微妙に異なるが、一般に「ティンダティ」と呼ばれている。こう呼ばれるようになった起源が興味深い。

ある住宅の着工の際に、施主の希望で久高島からカミンチュ(神女)に来ていただき、執り行うことになった=下写真。

 
カミンチュ(神女)が執り行うティンダティの様子

工事関係者で祭壇・しめ縄などを準備したものの、カミンチュは不要だという。ただブロックとハンマーを用意するようにとのこと、関係者は事態が理解できなかった。

カミンチュはひと通りの祈願の口上を述べると、おもむろに用意されたハンマーでブロックを三度たたいたのである。そのあと敷地四方のお祓(はら)いを終え、捧げたお神酒を工事関係者で口にする直会(なおらい)は一般に見慣れた儀式であった。

 
各工事の儀式が行事に
 
ところで今日、その目的に関係なく、地鎮祭・起工式と呼び方を少々混在し使われている。厳密には「地鎮祭」は神に工事の無事進行と完成、土地や建物の安全と繁栄を祈願し、敷地に手を加えることを知らせる儀式。一方、「起工式」は工事種別の儀式が基になっている。木造建築では本来、手斧始(てちょうなはじめ)の儀、鋸(のこぎり)の儀、墨矩(すみかね)の儀、墨打(すみうち)の儀などの工事種別を儀式として執り行っていたが、これらが起工式の行事となった。しかし、今日ではほとんど行われず、「鍬(くわ)入れ」が起工を表すものに変化し、「起工式」と「地鎮祭」、名称は違うが同じような内容になったとされる。
 
今日、一般的に行われるティンダティのくわ入れ

さて、カミンチュが執り行ったブロックにハンマーは、どういうことか疑問が残る。

又吉真三氏の論考『沖縄の建築儀礼行事』によると、「祭壇には大工道具、筆、紙、墨、酒肴(しゅこう)を供えて:(中略):家主と大工の棟梁(とうりょう)が、祭壇に供えてある木材に手斧(ちょうな)、あるいはのみと玄能(げんのう)でおのおの三回ずつ軽く叩いて終わり、参列者に祝酒と肴を振る舞う。これは、日本古来の立ての儀式と同一のものである」と記されている。

つまり、先ほどの「手斧始の儀」(起工式)が起源で、本来の木材をブロックとし、手斧はハンマーとした疑似行為と推察できる。

さて、起工式をなぜ沖縄では「ティンダティ」と呼ぶのかである。斧(おの)は加工によって、方言での呼び方が違う。
 
 
斧の名 用途で変え

木を伐採する斧は振り上げられるように柄に対して縦方向に最も大きく刃がついて「ウーヌ」と呼ばれ、石の加工用は硬い石を加工しやすいよう少し小ぶりで「石ユーチ」と呼んでいる。そして、木材加工用の手斧は柄に直行方向に刃が付き、カーブしていて、「ティーン」と呼ばれている=下写真。
久米島博物館に展示されている斧。用途によって、大きさやつくりが違う。
★が木材加工用の斧(ティーン)

ティーンを立てることから「手斧立て」→「ティンダティ」となったとされているようだ。

先人は同じ斧でも用途ごとに固有の名前をつけて、使い分けたのである。木造建築が中心であった時代、山から切り出した木材の加工を工事の始まりとしたことが「ティンダティ」という言葉に記憶されていると思う。

現代の建築工事では、一般に杭工事を含めた基礎工事で地盤面に穴を掘る作業から始まることが多い。その行為から今日の起工式では、盛砂に鍬入れを行い、穴を掘るしぐさで工事着手としている。




てるや・かんこう
石垣島新川生まれ。明治大学工学部建築学科卒、住宅やリフォーム、医院、こども園など幅広く設計活動中。「日本建築士会連合会優秀賞」「全国住まいのリフォームコンクール」など受賞歴多数。沖縄民俗学会会員。著書に「記憶を刻む家づくり」がある。
電話=098・859・0710
http://www.treppen.jp

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2005号・2024年06月07日紙面から掲載

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