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2024年7月5日更新

沖縄のアマハジと済州島のムットゥン|緩衝空間は憩いの場|住まいに生かす 知恵と風土④

文・写真/照屋寛公(一級建築士・建築アトリエTreppen主宰)


このコーナーは、建築士で民俗学にも造詣の深い照屋寛公さんが先人の知恵を紹介し、気候風土にあった住まいのヒントを伝える。
 
◇  ◇  ◇

 
連休には時々、離島を含む県内各地に出かけている。その地で古老と出会う機会があると「ある方言」を尋ねてみる。伝統家屋で「玄関」という方言があるだろうかと。石垣島で聞いてみたら玄関に当たる方言は見当たらないらしく、強引に訳せば「ヤドゥフツ」とのこと。その言葉の意味合いを尋ねてみたら、「ヤドゥ=屋戸」、「フツ=口」であるという。つまり、広々とした入口というところか。他の地域でも玄関の方言をかつて耳にしたことがない。

 
沖縄の伝統家屋(旧牧志宗得邸/石垣やいま村)


韓国済州島のc家屋(城邑民俗村)

伝統家屋の一番座の東側、二番座、三番座の南側は雨端(アマハジ)と呼ばれ、心地いい陽光、涼風を取り込む大きな開口を設けている。かつて祝い事や葬式など行事の際にも多くの来客を迎え入れられるよう、室内外が連続した空間になっているのである。

似たような空間を韓国済州島の伝統家屋に見ることができる。アマハジに当たる場所は「ムットゥン」、縁側に当たる場所は「ティンマル」と呼ばれている。

アマハジは雨風から母屋の柱脚、外壁、建具部の劣化を防ぐ役目をはたしている。済州島のムットゥンも雨風から母屋保護という点で同じだが、アマハジとは造りが少々異なる。

 
 
【断面図】



 
太陽高度で柱に違い
 
沖縄では台風時に強烈な風は吹くが、済州島でも漢拏山(ハルラサン)(標高1950メートル)から強風が吹き下ろす。

アマハジは基本的に瓦の大屋根から連続的に延び、木の固定柱が軒先の下を支えている。固定柱は構造上、風圧など横からの力に抵抗する補強柱になっている。他方、済州島のムットゥンは四方石積みの母屋から独立。軒先を上げ下げできる可動式のつっかえ柱になって、母屋の構造柱になっていない。

では固定と可動の柱、違いはなぜなのかである。

低緯度の沖縄は太陽高度が高くほぼ真上から陽がさす一方、済州島は中緯度に位置し太陽高度が低く斜めから陽がさすことになる=断面図参照。済州島のムットゥンは室内に入る日差しを調整しやすいよう、可動式のつっかえ柱となったのである。

ほかにも、アマハジは瓦屋根なのに対して、ムットゥンは草屋根となっている。どうやら柱の可動の有無や屋根建材が沖縄と済州島では違っていることが分かる。
 
ムットゥン、ティンマルはコミュニュケーションの場
 
 
軒先低く 日陰生まれ

しかし、アマハジとムットゥン、室内外を結ぶ緩衝空間という意味で共通している。

沖縄の伝統家屋では母屋に上がる前のぬれ縁(八重山ではフンダと呼ぶ)があったり、踏み石があったりする。済州島の伝統家屋では縁側のティンマルとムットゥンとの間には基本的に建具が存在しない。そこは近所の人々が靴を脱がずに腰かけて家の主と茶飲みの場であり、子どもの遊び空間にもなる。

両島ともに軒先を低くすることで、緩衝空間に生まれる日陰はコミュニケーションの場となる=上写真。共通性を感じながらも、緯度の違いで生ずる太陽高度の差、地産地消の建築材料である瓦屋根と草屋根の微妙な違いに、先人がつくった建築文化の違いが表れて興味深い。




てるや・かんこう
石垣島新川生まれ。明治大学工学部建築学科卒、住宅やリフォーム、医院、こども園など幅広く設計活動中。「日本建築士会連合会優秀賞」「全国住まいのリフォームコンクール」など受賞歴多数。沖縄民俗学会会員。著書に「記憶を刻む家づくり」がある。
電話=098・859・0710
http://www.treppen.jp

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2009号・2024年07月05日紙面から掲載

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