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2024年5月24日更新

棟木に記す「天官賜福紫微鑾駕」|除災招福の願い込め|住まいに生かす 知恵と風土②

文・写真/照屋寛公(一級建築士・建築アトリエTreppen主宰)


このコーナーは、建築士で民俗学にも造詣の深い照屋寛公さんが先人の知恵を紹介し、気候風土にあった住まいのヒントを伝える。
 
◇  ◇  ◇

 
沖縄の木造伝統家屋、天井が張られていない室内から見上げると梁(はり)など木組みがある。その頂上梁は「棟木(むなぎ)」と呼ばれ、その棟木に一見呪文のような文字「天官(てんかん)賜福(しふく)紫微(しび)鑾駕(らんか)(以下、紫微鑾駕)」が書かれている=写真下。
 
棟札を打ち付けることもあるが、棟木に直接書いた事例。棟木には米、塩、昆布がつり下げられている「宮里次郎邸(旧姓・親泊)」


今日では、建築物の構造もコンクリート造になり、報知器など防災設備は充実している。私が設計した住まいの施主から紫微鑾駕を新居に設置したい、と希望があった。鉄筋コンクリート造のため木製の棟木などない。アクリル板を天井からつり下げて、紫微鑾駕の文字を書いて取り付けたら、喜んでいただいたことがあった=写真下。

紫微鑾駕の由来話は沖縄各地にあるが、ここでは石垣島に伝わる話を紹介しよう。

 
筆者が設計した家の天井からワイヤーでつり下げられた「天官賜福紫微鑾駕」

 
火災を恐れた先人
 
昔、川べりに立つ老人から男がある頼みを受けた。「川を渡りたいのだが老体の自分には渡れない、背負って渡してほしい」と。男は背中におなかが当たり熱かったという。老人は風邪気味で体が熱いというのだ。渡り終えると「実は私は人間ではなく天からの使いの者、家を焼いて来いと天の指示を受けた」と語り、なんと燃やす家は男の家だった。老人は「恩義あるあなたの家を焼くわけにはいかない、村はずれに小さな小屋を造って焼いて欲しい、その煙で天に昇らせてください。(中略)新築の際、棟札に『天官賜福紫微鑾駕』の文字を書いておいてください」と老人から教わる。その後、村の火災ではこの家だけが火事を免れたという逸話がある。

この由来話の特徴は木造が主な先人の家屋に火災が関係していることである。不思議なことに災害でも台風や地震にまつわる自然災害の伝承や民話はあまり聞かない。

火災は火の不始末や思いもよらぬ隣家からの延焼などで被害をうける人災的要素が強いからである。先人は火災を恐れ、火の取り扱いに気をくばり、除災招福の願いを込めて呪語として棟木に書いたことがうかがえる。
 
 
大極図張る中国と台湾

ところで、棟木の「紫微鑾駕」のルーツは中国にあることは想像がつく。窪(くぼ)徳忠(のりただ)著「沖縄の習俗と信仰」には、「紫微鑾駕とは北極紫微大帝が鑾駕に乗ってきて、家を守護してくれるという意味(中略)棟札に天官賜福紫微鑾駕と記すのは天の神々の力によって家を守り幸福にさせて欲しいという願望がある…」と記されている。この習俗がいつの頃から沖縄に伝わったのかは分かっていないという。しかし、中国と進貢貿易のあった14世紀末に伝来したのであろうと推測されている。

お付き合いのある社会人類学者の渡邊欣雄(わたなべよしお)先生に尋ねてみたら、中国、台湾では棟木に紫微鑾駕の文字は見かけない。ただし、招福や邪気払いの願いを込めて太極図を棟木に張りつけたものを見かけた、とのことであった=下写真。



中国福建省の民家。太極図に加え、魔よけの品々がつり下げられている(上) 台湾屏東県の民家。太極図が梁に巻き付けられている(写真は渡邊欣雄氏提供)

昨今、沖縄でも従来のコンクリート造に加え木造の住宅建築も増え、住まいの構造体も多様化してきている。しかし、住まいの中に新しいカタチで伝統文化を生かし、子々孫々に語る機会をつくることは、先人の残した文化の伝承にもつながるように思う。




てるや・かんこう
石垣島新川生まれ。明治大学工学部建築学科卒、住宅やリフォーム、医院、こども園など幅広く設計活動中。「日本建築士会連合会優秀賞」「全国住まいのリフォームコンクール」など受賞歴多数。沖縄民俗学会会員。著書に「記憶を刻む家づくり」がある。
電話=098・859・0710
http://www.treppen.jp

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2003号・2024年05月24日紙面から掲載

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