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2018年3月16日更新

「やさしい日本語」で伝える

[文・稲垣暁]津波避難において、情報が伝わりにくい人に避難の必要や避難経路・場所をどう伝えるかという問題がある。なかでも外国人への情報伝達は、沖縄での大きな課題だ。米軍基地の存在から在住外国人が多い一方、外国人観光客が昨年254万人(前年比22%増)と全観光客数の4分の1を占める中で、対策をどう考えるべきだろうか。

津波避難③ 外国人

地域に居住する米軍基地勤務の外国人と、自治会や日本人住民とのつながりは極めて薄い。北谷町在住の男性外国人に聞いたところ、「自分たちが沖縄の人に迷惑だと思われていることをよく知っており、疎外感を感じる。地元の人たちとは関わりづらい」とのことだった。

男性の妻(沖縄出身の日本人)の話では、日本人妻の外国人家庭は比較的多いが、夫がテレビの主導権を握るため米軍基地から英語で発信される情報が中心で、家庭として地元情報に接する機会がない。日本人妻同士のコミュニティーでも、地域の話をすることはないそうだ。

子供は基地内に通学、地域の母親同士のつながりもない。自治会からの働きかけもなく、町のホームページも見たことがなかったという。津波避難ビルなど防災に関する行政情報も、まったく知らなかった。

しかも、本国のアメリカでは地震や津波の恐れがある地域が西海岸に限られ、ほとんどのアメリカ人は地震や津波を知らず、地震災害の備えをしている軍属家庭は少ないだろうという。


宜野湾市伊左自治会を会場に、地域住民と県内在住の外国人に呼びかけて行った「やさしい日本語と英語」による避難ロールプレーイング。グループ内の外国人と日本人が言葉を教え合いながら、地震発生から避難完了までのミニドラマを手作りカルタを使って制作、演じた。


カルタでミニドラマ

宜野湾市伊佐自治会では、地域に外国人居住者が多いものの、自治会との交流がないことに危機意識を持ってきた。伊佐区はほぼ全域が海沿いの低地で、さらに外国人は海岸べりの景色のよい住宅を好む。年1回の避難訓練ごとに外国人が住む住宅に英語で訓練案内のチラシを配り、参加を呼びかけてきたが、うまくいかなかった。

昨年2月、伊佐自治会と県の国際交流を担う部門や市の防災室、沖縄NGOセンターと私とでチームを作り、地域住民と県内在住の外国人に呼びかけて「やさしい日本語と英語」での避難ロールプレーイングを行った。日本伝統文化のカルタを使い、取った順にならべると地震発生から避難場所到着までのシナリオになる仕掛けだ。

読み札は避難時の呼びかけをやさしい日本語で、取り札はやさしい英語に訳したものとイラストを描いた。外国人と日本人が均等に混じった5グループで教え合いながらカルタ取りをした後、カルタのシナリオに沿ってグループごとにユニークな脚色を加えてミニドラマを制作。最後に1グループ5分で演じた。

実際に避難情報を外国人に伝える必要がある時、外国語に自信がなければやさしい日本語で伝えた方がよいだろう。観光客・在住者とも日本語に触れたい気持ちがあり、災害時は特に日本語との接触が多いからだ。


「待機」「退避」で生死が分かれた

やさしい日本語が必要なのは外国人だけではない。日本人でも、難しい日本語の聞き違えで幼い子どもを犠牲にした事例がある。
 
東日本大震災で宮城県山元町の沿岸部にある保育園は、大きな揺れのあと役場に指示を求めたところ、「待機」と言われたという。そこで園児を保護者に引き渡しながら「待機」していたところ津波が迫り、自動車で逃げたものの3人の園児が亡くなった。

役場が出した指示は「待機」ではなく「退避」だった可能性と、聞き違えた可能性があるという。逃げる時間は十分にあり、難しい行政用語を使わなければ誰も死ななくて済んだ。東日本大震災で、保育園で保育中に亡くなった唯一の事例となった。

伊佐自治会の宮城奈々子会長は、「地域の日本人・外国人、ひとりひとりの意識づけをしたい」といい、外国人居住者に英語でのチラシを配布、「やさしい日本語/英語」による避難ロールプレーイングも実施した。県民ひとりひとりが気軽に声掛けできる、ユニバーサルな社会でありたい。

県内のあちこちに避難所や災害時の行動を促す表示が増えてきたが、まだまだ表示が小さかったり、日本人には理解できても外国人にはわからないものもある。メートル表記が正確にわからない外国人もいる。「作って終わり」ではなく、当事者に寄り添ったユニバーサルデザインを、行政には特に心がけてほしい。


津波避難ビルの表示。日本人には「モノレール県庁前駅」が津波避難ビルだとわかるが、読めない外国人には、津波避難ビルが100メートル先のどこかにあることしかわからない。メートル法がわからない外国人もいる。



稲垣暁(いながき・さとる)
1960年、神戸市生まれ。沖縄国際大学特別研究員。社会福祉士・防災士。地域共助の実践やNHK防災番組で講師を務める。



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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1680号・2018年3月16日紙面から掲載

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