2022年6月17日更新
ラオス/モン民族が暮らす村|ウチナー建築家が見たアジアの暮らし③
文・写真/本竹功治
手と道具で始まるヒトの営み
ニンヤンさんは、すすすす~っと小さなナイフで裏庭に生えている植物の茎を裂いていき、細く糸状になった茎の束をクルクルとロープ状にねじっていった。そして細長い竹の板の両端にそのロープをくくりつけ、グググっとしならせる。獲物に狙いを定め、呼吸を止めた。スパンッ! と一射、葉の羽根をつけた竹の矢が数メートル先の的を見事に射止めた。彼はこの手製の弓で野鳥や小動物を狩るそうだ。
ここはラオス北部の山奥にあるモン民族が暮らす村。僕は以前、カンボジアの飲み屋で知り合ったイギリス人から、モン民族について興味深い話を聞いていた。彼らは文字を持たず、歴史や物語を先祖代々、音で語り継いできているそうだ。おおお、会ってみたいと、僕は早速ラオスの北部ルアンパバーンに飛んだ。
ここはラオス北部の山奥にあるモン民族が暮らす村。僕は以前、カンボジアの飲み屋で知り合ったイギリス人から、モン民族について興味深い話を聞いていた。彼らは文字を持たず、歴史や物語を先祖代々、音で語り継いできているそうだ。おおお、会ってみたいと、僕は早速ラオスの北部ルアンパバーンに飛んだ。
素朴な人々の痛烈なおもてなし
ルアンパバーンからバイクにまたがり、山を越えると小さな民家が見えてくる。低く積まれた石垣、かやぶきの屋根、深い軒先では女性たちが編み物をしている。乳児をおぶった幼い女の子の笑顔がまぶしく、「あ~懐かしいなぁ」とアジア特有の素朴感に浸っていると、おじさんたちが集まってきた。どうやら一緒にゲームをやろうと誘っていて、球を投げろと言っている。言葉が分からない時はとにかく相手の言っていることをまねしたり、興味を示すと対話が生まれていくものだ。よーし、ルールも分からないけど、投げてみよう。それっ、どうだ!? すると皆ニヤニヤしながら何かを飲めと言っている。よく見ると瓶の中に特大のスズメバチが十数匹。えっ、まじっすか? 引き下がるわけにもいかず恐る恐るワンショットをゴクっ。
「カァッハァァー○※□◇#△!」
胃は大爆発、皆は大爆笑(笑)さっそく痛烈なおもてなしをうけた。冒頭で話にでたニンヤンさんはこの時に出会った村のハンターだ。
村のほとんどの住居がこの型式。内部は土間で、かまどと竹製の簡易ベッドがあるのみ
音で伝える原初的な喜び
ニンヤンさんは自宅を案内してくれた。まず目に入ったのが「石おの」だ。まさかと手に取ってみると、彼は家の柱を切り倒すまねをしてみせる…今、何時代ですか(笑)。すると奥さんがご飯をおわんに一杯よそってきてくれた。なんと、ひょうたんのわんにひょうたんのおたま! ありのまま、自然のカタチでいただく。
軒下でくつろいでいると、子供たちが集まってきて手作りのコマで遊びはじめた。するとニンヤンさんが缶で作った二胡を弾きはじめる。素朴でどこか哀愁が漂う二胡の音色は、文明の真っただ中にいる僕たちに優しく音で語りかける。「大切な何かを忘れてきたのでは?」と。それは、昔ながらに手で道具を使い、遊び、表現するヒトの原初的な喜びを思い出させてくれる物語のように、僕には聴こえてきたのだった。
二胡を弾くニンヤンさん。道具や遊具から、日用品、楽器、家にいたるまですべてが手作りだ
執筆者
もとたけ・こうじ/父は与那国、母は座間味。沖縄出身の、アジア各地を旅する建築家。2014年よりカンボジアを拠点に活動している。
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1902号・2022年6月17日紙面から掲載