沖縄建築賞
2023年9月29日更新
【第9回沖縄建築賞】奨励賞 一般建築部門/「金城次郎館」(南城市)/濱元宏氏(60)/豊崎孟史氏(37)/濱元宏建築設計事務所+GAB
沖縄県内の優秀な建築物・建築士を表彰する「沖縄建築賞」。ここでは奨励賞を受賞した3作品の1つ「金城次郎館」を紹介する。
外観。屋根の勾配は山の傾斜に合わせ、建物が周囲の自然になじむようにした
奨励賞 一般建築部門
「金城次郎館」(南城市)
自然に配慮 素材生かす
絶妙な自然光
「金城次郎館」は、人間国宝・金城次郎氏のヤチムン作品を展示するための美術館。
濱元宏氏は「施主さまの強い要望もあり、もともとあった自然を生かす形で設計した」と話す。既存の樹木を使い、石垣の石は現地の地中から出たものを利用。土地の形状を残すため、テラスを浮かせて、基礎の接地面も最小限にしている。
仕上げ材には石、コンクリート、木、鉄、クチャ(瓦)などを使用。「土から生まれたヤチムンを展示する施設なので、自然を感じる素材を使った」
スリット窓から自然光が入る展示室はあえて少し暗めに。照明でスポット的に照らすことにより作品が際立って見える。
審査では「自然に対しての配慮や謙虚な気持ちが表れている。順路の構成、明暗、開放感と閉塞感のコントラストも素晴らしい」と評価された。
展示室。展示ケースの中は調湿効果のあるしっくいを使い、湿気対策をしている
テラス。右側に広がる太平洋を一望できる
設計者/濱元宏氏(60)=左写真、サポート/豊崎孟史氏(37)
濱元宏建築設計事務所+GAB
(濱元氏)最小限しか自然に手を加えていない分、施工は大変でしたが、賞をいただけて素直にうれしく、機会を与えてくれた施主さまには本当に感謝いたします。今後も喜ばれる建築をつくっていきたいです。
審査講評・根路銘剛次氏(前回一般建築部門 正賞受賞者)
地形に溶け込む造形
施設までは坂道を蛇行しながら徒歩で登り、建物の入り口までは深い軒下空間を、美しい海を見下ろしながらゆっくりとアプローチしてたどり着く。急傾斜の土地ならではのアプローチで非常に心地よい空間となっていました。深い軒を造っている赤瓦屋根は土地の急傾斜面とほぼ同じ傾斜。しっくりなじみ佇んでいる建物の姿はその場所の自然や素材、土地への敬意を表しているようでした。片持ちスラブで急傾斜地での基礎工事の簡素化も図れ、宙に浮いたような床と低い軒先のラインが立面の軽快さにつながり、非常に美しいプロポーションを生み出していました。
構造計画の巧妙な手法で光の取り入れ方にも工夫が見られ、内部の展示物と素材感のある内装との調和も心地よく、美術館の空間として完成度も高い。単に外部環境を取り入れることだけが正しいのではなく、厳しい外部環境から守る大切さも改めて感じられました。意義のある作品です。
関連記事:【第9回沖縄建築賞】住宅建築部門 正賞「ヨナシロのいえ」
【第9回沖縄建築賞】一般建築部門 正賞「謝敷集落の宿」
【第9回沖縄建築賞】タイムス住宅新聞社賞「衣食住創~育む家~」
【第9回沖縄建築賞】奨励賞 住宅建築部門「具志の二世帯住宅」
【第9回沖縄建築賞】奨励賞 一般建築部門「中城ひらやすこども園」
【第9回沖縄建築賞】古谷誠章審査委員長から総評
【第9回沖縄建築賞】入選作品紹介
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1969号・2023年9月29日紙面から掲載