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2024年2月9日更新

二つの先例「花園荘」と「里山長屋」|入居者の積極的交流促す仕掛け|コミュニティアパートができるまで⑪

文・写真/守谷光弘(「コミュニティ・アパート 山城のあまはじや」オーナー)

二つの先例 「花園荘」と「里山長屋」

入居者の積極的交流促す仕掛け

今回は私のアパート計画を具体化する上で、たくさんのヒントを頂いた先例を二つ紹介します。一つは平田裕之さんが東京都足立区に建てた「花園荘」(2007年11月竣工)、もう一つは山田貴宏さん他が神奈川県相模原市に建てた「里山長屋」(2011年2月竣工)です。

お二人の共通点はパーマカルチャーを学ばれコミュニティの重要性を説かれている点で、私の価値観にもとても近い存在です。平田さんからの依頼で一級建築士の山田さんが花園荘を設計し、後に共著で「畑がついてるエコアパートをつくろう」(自然食通信社)を出版。この本が私にとってのお二人と花園荘との出会いになりました。
 

各世帯に家庭菜園がついた長屋「花園荘」の外観(提供:エコアパプロジェクトチーム)
各世帯に家庭菜園がついた長屋「花園荘」の外観(提供:エコアパプロジェクトチーム)

図作成:ビオフォルム環境デザイン室



世帯ごとに家庭菜園

屋内には共有エリア

私が望む暮らし方そのものを東京23区内で実現していることに驚いて見学を申し込み、ずうずうしくも指南まで仰いだのは10年前のこと。当時の花園荘を一言で説明するなら、家庭菜園付き4世帯の長屋形式アパートで、平田さんの表現を借りるなら2DKG(Gはガーデン)でした。

平田さんは元々環境教育とコミュニティづくりを学ばれた方で、地元足立区で空き地を活用した市民農園を運営するNPOの代表も務められていましたし、一方の山田さんはパッシブデザインと呼ばれる自然エネルギーを活用した自然住宅の設計を得意とされていて、パーマカルチャーとコミュニティの実現には願ってもないコンビでした。

花園荘の各世帯には雨水タンクが設置された家庭菜園があり、この前庭に近い室内には土の付いた作物を持ち込める土間があって、生活動線がとても良く考えられていました。各世帯に菜園があることが住民同士の積極的なご近所付き合いのきっかけになるばかりでなく、隣に住む大家家族から栽培指導を受けたり、建物に併設したコミュニティスペースには果物がなるパーゴラと手造りのピザ窯があって、そこでアパート住民と大家とが一緒になって収穫やピザパーティーを楽しむなど、定期的な集いの場や機会も考えられていました。

4世帯がすべて賃貸だった花園荘とは異なり、里山長屋はコーポラティブ形式で建てられ、山田さん自身も4世帯の内の1軒に入居しました。花園荘同様に横並びの長屋形式の建物の端には、大勢でも集えるコモンハウスと呼ばれる屋内の共有スペースが併設され、キッチンと畳間とライブラリーがあって、宿泊も出来るように檜(ひのき)風呂までありました。詳細は「里山長屋をたのしむ ~エコロジカルにシェアするくらし~」(学芸出版社)をご参照ください。


中央に共有スペース
挑戦的試みも利点多


この2軒に学びながら私が形にしたのが「山城のあまはじや」です。先例2軒と拙宅との大きな違いは2点。各世帯の間取りを端から端まで見通せる一つの空間にした点と、共有スペースを建物中央に配置した点です。共通の玄関から出入りしたり来客と遭遇したり、郵便物や宅配物を代わりに受け取ることもあると、長屋形式よりも他世帯のプライバシーに触れる機会が増える挑戦的な試みでしたが、今のところメリットの方が勝っているようです。皆さんはどのような暮らし方を好まれるでしょうか?

 


もりたに・みつひろ
1966年東京都世田谷区出身。2007年より沖縄県在住。「コミュニティ・アパート 山城のあまはじや」オーナー 兼 管理人 兼 住人。糸満 海人工房・資料館を運営するNPO法人ハマスーキ理事。2020年、小規模土地分譲『等々力街区計画』の街区デザインでグッドデザイン賞受賞    


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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1988号・2024年2月9日紙面から掲載

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