お住まい拝見
2025年4月25日更新
[お住まい拝見]中庭が暮らしの核|アトリエ・ダグ・アーキテクト
[19坪の平屋で伸びやかに]
Tさん(38)宅は床面積19坪の平屋。住宅の核は、7坪の中庭だ。「家のどこに居ても、中庭越しに空が見える。夜になると星や月が見えます」とTさん。コンパクトながらも伸びやかな暮らしが、そこにはある。

建物で囲われた中庭は、周囲を気にせず伸び伸びと過ごせる。「よく子どもが駆け回っています。炭火で焼き鳥を焼いたり、バーベキューをしたことも」とTさん
家族と成長する家
Tさん宅
RC造/自由設計/家族3人
高低差のある土地にたたずむTさん宅。入り口のガラス戸を開けると、予想外の光景が広がる。二手に分かれる階段は、上へ向かえば屋上へ、下へ降りれば住居の入り口へ導かれる。
玄関を兼ねた多目的スペースは本棚と机椅子が配置され、小さな図書館のような雰囲気だ。室内に入ると、中庭からの光が差し込みながらも、程よく暗さの残る落ち着いた空間が広がっている。「もともと大きな空間よりも、小さな空間が好きなんです」というTさんの言葉通り、リビングは4.5畳、ダイニングキッチンは7.5畳。コンパクトながらも機能的で「家族3人には十分な広さ」だという。家のどこに居ても中庭から視線が抜ける。
床も壁もコンクリート打ち放しの内装は、予算を抑えるためだったが、意外な発見があった。「土間の床がさらさらしていて触感が良いんです。夏はひんやりしています」。収納はほぼ造り付けで、手持ちのアイテムがぴったり収まる。「あまり物は増やせませんね」と笑うTさんは、ミニマルな暮らしを楽しんでいるようだ。

住宅入り口。コンクリート打ち放しの洗練された外観は、ギャラリーのよう

ドアの先には、二手に続く階段。下に降りると住宅へ。「穴倉へ入っていくような期待感を感じてもらえたら」と建築士

玄関を兼ねた多目的ルームは、本や雑誌がずらりと並び小さな図書館のような雰囲気。Tさんの仕事や、趣味のカメラの作業スペースとして使っている
子どもと伸び伸び
マイホームを考えていた夫婦。予算内に収めるため「小さな土地でコンパクトな家」を望んでいた。ネットで見つけた建築事務所が手がけたコンパクトな住宅に引かれ、相談に行ったのが家造りのスタートだ。「私たちの思いをくんでくれて、説明もとても丁寧。最初に建築士さんに出合えたことは、本当に幸運でした」と振り返る。土地選びから建築士のアドバイスを受け、理想の住まいが形になった。照明や家具は、Tさんが楽しみながら選んだ。「好きなデザインに囲まれて、心地がいい」と笑う。
家ができて、ライフスタイルも変化した。夫人は「以前は休日は出かけて買い物をしていたのですが、おうち時間が増えました。戻る場所ができて、心がストンと落ち着いた。勇気を出して、家を建てて良かった」と語る。
家が完成したころに生まれた子どもは、1歳半になった。室内や中庭を、はだしで伸び伸び駆け回る。「音を気にせず子育てできることが、気持ちのゆとりにつながっている。子どもが大きくなったら、趣味室を子ども部屋にしようと思っているんです。子どもと一緒に、家も育てていけたらいい」とTさん。
共に時を重ねることで、家は一層家族になじみ、魅力を増していくのだろう。

「中華料理が得意」なTさんこだわりのキッチン。造り付けのキッチンには、ゴミ箱や食洗機、キッチンツールがぴったり収まる
ここがポイント
小さな空間を心地よく
コンパクトなTさん宅。その内部には、設計をした下地恒さんによる緻密な計算とアイデアが詰まっている。「機能がギュッと詰まった小さな空間は、工夫すれば快適で心地よい空間になる。そのために、数センチ単位の調整をしています」と下地さん。キッチンやテーブルは一般的な高さよりも低く、通路幅は狭めに設定しながらも使い勝手を損なわないよう、精密に寸法を調整している。
Tさん宅の空間の核となっているのが、中庭だ。「中庭越しに向かいの部屋に視線が抜けることで、広く感じられる。予算もスペースも取るけれど、それ以上の価値をもたらしています」

ダイニングキッチン。「毎日忙しいけれど、中庭を眺めながらコーヒーを飲む時間が、一番リラックスできます」とTさん
将来を見据えて「建物は強く、柔軟に使える」設計を心がけている下地さん。
もともと高低差のある敷地で、道路の高さに合わせるには土地を盛る必要があった。下地さんは、土地の水はけが良いことを確認し、住宅を道路よりも下げることで、既存の地盤を生かして構造的な強度を確保し、造成費用をコストカット。さらに、強度の高いコンクリートを使用し、壁式構造を採用することで、長寿命化を図っている。「お子さんの代まで、使い続けられる家を目指しました」
また、「年を重ねて夫婦二人になったときに、ちょうどいい住まいになるように」広く一体的な空間ではなく、適度な広さで落ち着ける空間とした。ユニークなのは、玄関が趣味室を兼ねていること。「一般的な玄関を設けないことで、空間の使い方が格段に広がります」と下地さん。将来的にギャラリーや店舗など、多用途に対応できる可能性が高まるという。

シンプルなリビングは、子どもと遊んだり、小さなちゃぶ台を出してご飯を食べたり、用途は多様だ

椅子に座ってゆったり身支度ができる洗面室。夫人のお気に入りのスペースだ
[DATA]
家族構成:夫婦、子ども1人
敷地面積:177.39m(約53.66坪)
建ぺい率:35.62%(許容50%)
1階床面積:63.18平方メートル(約19.11坪)
容 積 率:35.62%(許容100%)
用途地域:第一種低層住居専用地域
躯体構造:壁式鉄筋コンクリート造
設 計:アトリエ・ダグ・アーキテクト
下地垣
構 造:前田構造設計
施 工:株式会社山城建設
電 気:有限会社エース電気工事社
水 道:新栄設備工業
◆問い合わせ
アトリエ・ダグ・アーキテクト
電話=098・836・8813
撮影/高野光(フォトアートたかの) 文/栄野川里奈子
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2051号・2025年4月25日紙面から掲載