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2022年1月28日更新

[沖縄・お住まい拝見]沖縄伝統家屋を新築で|クロトン設計

[自然に囲まれゆったり]本島北部、やんばるの森のそばに建つ木造赤瓦の平屋。藤田朋之さん(40)・晴美さん宅は、伝統的な沖縄の住まいを再現したような家だ。三線を奏でたり、庭いじりをしたりとゆったりした時間を過ごす。

外観。緑いっぱいの風景の中に赤い瓦がよく映える。寄せ棟屋根の棟部分だけにしっくいを施すことで、屋根全体の重さもコストも軽くなっている。庭は、ホタルが舞ったり、鳥が飛んできたりして「何もないけれど自然が身近で楽しい」と藤田さん。草刈りでさえ楽しいという
外観。緑いっぱいの風景の中に赤い瓦がよく映える。寄せ棟屋根の棟部分だけにしっくいを施すことで、屋根全体の重さもコストも軽くなっている。庭は、ホタルが舞ったり、鳥が飛んできたりして「何もないけれど自然が身近で楽しい」と藤田さん。草刈りでさえ楽しいという


玄関兼ねた掃き出し窓

藤田さん宅
木造/自由設計/家族2人

「せっかく沖縄に建てるんだから、沖縄らしい家にしたかった」。そう話す藤田朋之さん・晴美さんの住まいは、在来工法で建てられた木造平屋。敷地はフクギやバナナ、シークヮーサー、クルミ、ホソバムクイヌビワなどさまざまな木々で囲まれ、屋根には赤瓦が載っている。沖縄の原風景のようなたたずまいだ。

間取りも伝統的な配置がベース。南側には床の間のある一番座や二番座といった表座、北側には寝室として使っている裏座や水回りの裏座がある。玄関はなく、出入りも庭に面した3カ所の掃き出し窓からがほとんどだという。

中に入ると、天井は高く、柱や梁(はり)が見える造り。3枚戸で大きく開く掃き出し窓と相まって開放的に感じる。晴美さんは「キッチンも庭に向いているので、作業しながら自然の雰囲気を感じられます」

西側には客間があり、ガイドとして山や海を案内する藤田さんが、ツアーのお客さんの着替え場所などに使う。「特に県外から来た人は家を見るだけで喜んでくれる。生き物好きな子は庭でバッタやトカゲを探すのも楽しいみたいです」とうれしそうに話す。
 

畳が敷かれた一番座。庭が見える、3枚戸の大きな開口部は藤田さんがこだわったもの。「開放的になるし、昔の家は壁よりも開口部の面積の方が大きいイメージがあったのでそれに近付けたかった」
畳が敷かれた一番座。庭が見える、3枚戸の大きな開口部は藤田さんがこだわったもの。「開放的になるし、昔の家は壁よりも開口部の面積の方が大きいイメージがあったのでそれに近付けたかった」
 

庭側から見た一番座。奥にある裏座や隣の二番座とは天井部分でつながっており、「どこからでも互いの様子を感じられる」と夫人

庭側から見た一番座。奥にある裏座や隣の二番座とは天井部分でつながっており、「どこからでも互いの様子を感じられる」と夫人
 

客間。キッチンや浴室など水回りもある。客間と住居それぞれのプライバシーを確保するため、右手にある二番座とは天井まで仕切られている

客間。キッチンや浴室など水回りもある。客間と住居それぞれのプライバシーを確保するため、右手にある二番座とは天井まで仕切られている


歌い放題で優秀賞

もともと沖縄の伝統や自然が好きだった夫婦。中部の市街地で暮らしていたが、藤田さんがガイドする場所があり、晴美さんの祖母の家にも近い北部で土地を探し、購入した。築50年以上の空き家も建っていたが、躯体が傷んでいたため建て替えることに。

藤田さんは「古民家“風”ではなく、ちゃんと昔ながらの造りができる人にお願いしたい」と、友人から紹介された建築士に設計を依頼した。「相談前にいろいろ見学した中で、いいなと思った物件を手掛けた人だと分かったのも決め手になった」という。

「古民家に憧れはあったけれど、新築で住むとは思わなかった」と笑う晴美さんは三線の練習もする。窓の近くに立ち、発声練習していると「頑張ってね~」と地域の人から声をかけられることも。「歌い放題です」という環境で練習したかいもあり、昨年のコンクールでは優秀賞を受験し合格。「次は最高賞に向けて頑張りたい」と力を込める。

一方、朋之さんは庭の半分を畑にしようと計画中。「収穫した野菜でカレーを作るのが目標」だという。

過去にタイムスリップしたかのように、ゆったりした時間が流れていた。
 

天井が高く開放的な二番座。柱や梁、屋根裏などを点検しやすいよう天井は張られていない。手前のカウンターテーブルは藤田さんが家の雰囲気に合わせてDIYしたもの

天井が高く開放的な二番座。柱や梁、屋根裏などを点検しやすいよう天井は張られていない。手前のカウンターテーブルは藤田さんが家の雰囲気に合わせてDIYしたもの
 

キッチン。夫人は「料理や洗い物をしながら、大きな窓から見える緑を楽しめる」
キッチン。夫人は「料理や洗い物をしながら、大きな窓から見える緑を楽しめる」

寝室として使っている裏座。「夜、電気を消すと、葉っぱの影が障子に映ってきれいなんですよ」と夫人
寝室として使っている裏座。「夜、電気を消すと、葉っぱの影が障子に映ってきれいなんですよ」と夫人

外壁。無塗装なので維持費が安く、経年変化を楽しめる。木材は角が割れるのを防ぐため面取りされている
外壁。無塗装なので維持費が安く、経年変化を楽しめる。木材は角が割れるのを防ぐため面取りされている
 

床下は全方位、開いているので、風が通りやすい。網が張られ動物などが入らないようになっている

床下は全方位、開いているので、風が通りやすい。網が張られ動物などが入らないようになっている



ここがポイント
木の使い方工夫 長持ちしやすく

夫婦が求めたのは、昔ながらの造りの平屋。クロトン設計の下地洋平さんは「寄せ棟屋根を支える6寸(約18センチ)角の柱2本を中心に、1間(約1・82メートル)単位で計画していった。必要な部屋数や広さを確認しながら、幅6間×奥行き4間の大きさにまとめた」と話す。

建物を長持ちさせるための工夫も。例えば、外壁の板は縦に貼って水切れを良くしたり、木材は全て角を面取りすることで角から割れるのを防いでいる。

また、一般的に流通している杉材を使うなど修理しやすい造りにしているほか、泥はねを防ぐ砂利の敷設や、室内にみつろうを塗る作業など、夫婦にも家造りに参加してもらった。下地さんは「手を掛けることで愛着が湧くし、自分で補修できるようにもなる」と話す。

木造で懸念される台風とシロアリにもしっかり対策。台風には、敷地を囲む既存の木々を生かすことで風当たりを軽減したり、窓からの吹き込みを防ぐビル用のサッシを使用した。必要に応じて雨戸を取り付けられるよう、外壁も補強してある。

シロアリに対しては、床下の高さを43センチ確保し、風通しを良くしたり、点検もしやすくした。天井もあえて張らず、柱や梁、屋根裏が見えるようにすることで、雨漏りなどの異変を見つけやすくしている。通常より鉄筋を多く入れたベタ基礎により、ひびも入りにくくした。

そのほか、以前の建物の部材を再利用している。

駐車場側から見た外観。中央の屋根が延びた部分は干し場。藤田さんがツアーで使った道具を車から下ろしたら、車の後ろにある水道で洗ってすぐに干せる
駐車場側から見た外観。中央の屋根が延びた部分は干し場。藤田さんがツアーで使った道具を車から下ろしたら、車の後ろにある水道で洗ってすぐに干せる
 

住居部分の洗面室。扉の奥には干し場がある


[DATA]
家族構成:夫婦、愛猫
敷地面積:587.09平方メートル(約177.6坪)
1階床面積:71.07平方メートル(約21.5坪)
建ぺい率:14.92%(許容70%、角地緩和)
容積率:12.1%(許容200%)
用途地域:無指定地域
躯体構造:木造在来工法
設計:クロトン設計 下地洋平、比嘉雄大
施工:上地工務店
電気・水道:創電水プラン

問い合わせ
 クロトン設計
  電話098-877-9610
  https://croton.jp/


撮影/比嘉秀明 取材/出嶋佳祐
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1882号・2022年1月28日紙面から掲載

この記事のキュレーター

スタッフ
出嶋佳祐

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編集者
「週刊タイムス住宅新聞」の記事を書く。映画、落語、図書館、散歩、糖分、変な生き物をこよなく愛し、周囲にもダダ漏れ状態のはずなのに、名前を入力すると考えていることが分かるサイトで表示されるのは「秘」のみ。誰にも見つからないように隠しているのは能ある鷹のごとくいざというときに出す「爪」程度だが、これに関してはきっちり隠し通せており、自分でもその在り処は分からない。取材しながら爪探し中。

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