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2024年8月9日更新

[特集]蒸暑地域の沖縄で「夏型結露」「湿害」を考える|水蒸気量増え 結露しやすい環境に

空気中の水蒸気が凝縮し、水になる現象「結露」。沖縄をはじめとする蒸暑地域では「夏型結露」が発生し、水分とカビによる建物性能の低下や健康被害などを引き起こす「湿害」が多く確認されている。夏型結露や湿害について考える公開研究会が7月20日、建築関係者らを対象に那覇市の第一牧志公設市場で開催された。今回初の開催となり、県内外の研究者や建築士などで組織される「日本建築学会の蒸暑地域における住宅の湿害実態調査ワーキンググループ」のメンバー4人がそれぞれ発表した。

蒸暑地域の沖縄で「夏型結露」「湿害」を考える
水蒸気量増え 結露しやすい環境に

発表を行った日本建築学会の蒸暑地域における住宅の湿害実態調査ワーキンググループのメンバー。左から下地洋平さん、三浦尚志さん、小椋大輔さん、松田まり子さん

空気中の水蒸気が凝縮し、水になる現象「結露」。沖縄をはじめとする蒸暑地域では「夏型結露」が発生し、水分とカビによる建物性能の低下や健康被害などを引き起こす「湿害」が多く確認されている。夏型結露や湿害について考える公開研究会が7月20日、建築関係者らを対象に那覇市の第一牧志公設市場で開催された。今回初の開催となり、県内外の研究者や建築士などで組織される「日本建築学会の蒸暑地域における住宅の湿害実態調査ワーキンググループ」のメンバー4人がそれぞれ発表した。
 
 結露のメカニズム(イメージ) 
 
エアコンの設定温度は露点温度を目安に
 
現在の空気が何度になれば、「結露するのか」を示すのが「露点温度」。スマートフォンのアプリやインターネットで確認できる。エアコンの設定温度は目安として露店温度以下にしないのがオススメ。 露点温度は空気中に含まれる水蒸気量とも関係している。水蒸気を多く含んでいるほど露点温度は高くなる。



飽和水蒸気圧とは空気中に含むことができる水蒸気量の限界量を示す。高温状態の空気が冷やされる(グラフでは左に移動する)と、飽和水蒸気圧の曲線とぶつかる。そのぶつかった箇所が「露点温度」となり、さらに空気が冷やされる(左に移動する)と水蒸気を空気中に含みきれず、結露が起こる


露点温度以下で結露

結露は水蒸気を含む空気(湿り空気)が凝縮し、水になる現象。水蒸気が水に変化する温度は「露点温度」と呼ばれ、この温度を下回った低温の箇所で結露が起きる。

結露のメカニズムを解説した三浦尚志さん(茨城県、建築研究所主任研究員)は全国的に空気中の水蒸気量が増えていると説明した。高温多湿な沖縄は特に、夏でも結露(夏型結露)が起こりやすい環境と話し、「少し大げさに言うと、外気温35度・湿度90%の日だと温度(室温)が1、2度低くなるだけで、露点温度に達してしまうこともある。それぐらい沖縄は結露が起こりやすい環境」と付け加えた。効果的な対策法として、冷房と扇風機を組み合わせて涼を取りつつ、室温を露点温度より低くしないことなどを挙げた=下図「住まい方で防ぐ結露・カビ」参照

 
 住まい方で防ぐ結露・カビ 

冷房と扇風機を併用で体感温度低く
扇風機の風が当たると体感温度が下がるため、エアコンの設定温度を下げ過ぎないで済む。扇風機や天井ファンで空気をかき混ぜると、水蒸気も拡散される。

 
しかし、暑い夏に欠かせないエアコンも夏型結露の一因となっている。エアコンの効いた室内に暖かく湿った空気が流れ込むことで、結露する=ケース①。「水は窓や壁、天井の表面だけではなく、天井裏や壁内部、床下など、普段目が行き届かない場所にもたまる」と三浦さん。ほかにも、集合住宅で自分の部屋は窓を開け、隣人がエアコンを使っていると、自室の壁に水滴がつくなどのケースもある。

結露が続けば、カビや水染みの原因となるだけではなく、壁内部や天井裏にある構造部材や断熱材などの劣化にもつながる。こういった結露(水気)による建物性能の低下や健康被害を引き起こすことは「湿害」と呼ばれている。
 
 
Case①
天井(エアコンによる結露)

エアコンの冷気は部屋の空気だけではなく、天井材や壁材そのものも冷やす。しかし、その裏側の空気は外部から流れ込み、暖かく湿ったまま。そのため天井裏や壁の内部の空気が各部材に触れると、空気が急激に冷やされて、水蒸気が凝縮して結露する。

窓からの空気も室内に入った直後は暖かい状態なので、冷やされた天井材に触れて結露する。特にエアコンの冷気が当たる部分はより冷たくなるため温度差も大きくなり、結露が起きやすい

湿害①カビが発生した天井裏。エアコンで冷やされた室内との温度差で知らず知らず結露・カビが発生する=左写真。冷気の吹き出し口を天井と平行にすると、天井材が冷やされやすくなり、外気との温度差が生まれやすい。そのため結露もしやすい=右写真
 
壁内部でもカビや水

建築士の下地洋平さん(浦添市、クロトン設計)は自身が設計した建物をはじめ、湿害にあった県内の事例を紹介。コンクリート造や木造、用途、築年数などにかかわらず、多くの建物で被害が確認されていると報告した。「多くの事例から夏型結露による湿害の原因は複合的なことが多くあるため、改修方法はケースバイケース」と話し、自身が試みた改修法も解説した。

例えば、外壁を通り抜けてきた水蒸気が冷房で冷やされた壁内の防湿フィルムや壁紙で結露し、カビが発生した例=ケース②=では「壁内に水蒸気をとどまらせないことがポイントになった」と説明した。そこで防湿フィルムをはがし、壁紙は湿気を通しやすいものに変更。「改修とともに室温管理の見直しをお願いした。3年経過した現在でも再発は見られていない。湿気などに関する知識がないまま改修すれば、再発は防げずに問題を先送りしてしまう」と下地さん。関係者間でのトラブルに発展し、責任の押しつけ合いになることに危機感を示した。
 

Case②
壁内部(水蒸気がたまり結露)


外の水蒸気が外装材を通って室内に入る。しかし改修前の壁内の部材構成だと、防湿フィルムや壁紙が湿気を通さない性質の材料のため、断熱材や下地材で結露。壁内部で水がたまり、材料が朽ちたりカビが発生したりする。下地さんは水蒸気の流れをよくするため、防湿フィルムをはがして、壁紙は湿気を通すものに貼り替えた。同様の対策は昨年改定された「住宅の省エネルギー設計と施工2023(8地域版)」に掲載されている

 
湿害②カビは壁紙(左)から壁紙を貼る下地材(中央)、さらに下地材の裏側(右)にまで生える。壁紙の表面にカビが生えていると壁内部はすでにカビが生えている可能性が高いという。

 
改修での注意点

下地さんは「改修方法は周辺環境をはじめ、使われ方や管理方法などから建物ごとで異なる」と話す。例えば、ケース②で示した改修方法は同ケースでは効果があっても、別の建物では効果がなかったり被害を深刻化させたりする可能性もある。そのため、「改修方法は現地調査をもとにして検討し、計画する必要がある」と呼びかけた。



暖房も高湿化抑える

湿害の対策方法として建築士の松田まり子さん(浦添市、松田まり子建築設計事務所)と小椋大輔さん(京都大学大学院教授)がそれぞれ発表した。

松田さんはアレルギーのある家族のために計画した住宅を紹介。風通しを良くするため、空気の流れをシミュレーションし開口を設けつつ、「よどんだ空気がたまりやすい梁(はり)や柱などによ
る凹凸を造らない空間を意識した」と説明した。ほかにも、床下や天井裏をなくし目が届かない場所で起きる結露を防ぐよう計画したという。小椋さんは松田さんが設計した住宅で行った温度・湿度の実測データとシミュレーション結果を基に、湿害の対策として「施主さんにご協力いただき、外出時に暖房で室内を暖めてもらったところ、高湿化を抑える効果が確認された」。ただし、熱中症との兼ね合いを考えると現実的ではないとも言い、「快適さと湿害を防ぐ方法どう両立させるか引き続き研究を重ねたい」と結んだ。

 
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夏型結露の過去記事
夏型結露について建築士の下地洋平さんと松田まり子さんが紹介した過去記事はタイムス住宅新聞ウェブマガジンで下記の項目が閲覧できる。

◎「結露やカビを防ぐ 暮らしの知恵編

◎「設計・施工などの注意点編」

 

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2014号・2024年08月09日紙面から掲載

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